“ありのまま”と“何者”のはざまで。若者キャリア論2020【若手社会人座談会・後編】仕事のモヤモヤ。焦る中で掴んだ「転機」

思うように仕事で結果が出せず焦る。将来のキャリアも少し不安……。誰もが直面しうる仕事の「壁」。就職して間もない若手社会人は、とりわけ悩みも多い。そんな中、どのように「転機」を掴み、乗り越えていけばいいのか。

前編では、「ONE X」に所属する20代、30代の若手社員が、新人時代に抱えていた悩みを明かした。後編では、彼らが仕事のモヤモヤをどう切り拓いたのか。その「転機」に着目する。

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(聞き手:リクルートワークス研究所 古屋星斗)


――座談会の前半は、みなさんが抱えていた仕事の「悩み」や「焦り」について伺いました。後半では、そこから抜け出したきっかけを振り返って欲しいと思っています。

転機① 誰かに少し話してみる

太谷さん:私の場合は、4歳上の会社の先輩に相談してから、一気に視野が広がった気がします。★_MG_3170.jpg太谷成秀(おおたに・なるひで)さん/NTT東日本/入社6年目

私は営業の仕事をしていますが、入社1年目は結果が残せず、悩んでいました。そんなときに、会社の飲み会でたまたまその先輩と出会いました。その日の3次会でふと、彼に仕事の悩みを相談したんです。
すると、彼は「そもそも、君はなぜ今この仕事をしているの」と一言。この質問に、ドキッとしました。なぜなら、当時の私は目の前の仕事を将来にどう活かすか、きちんとキャリアに紐付けて考えていなかったからです。
先輩の一言を機に、一つひとつの仕事の「意味」を意識するようになりました。加えて、その先輩が立ち上げた有志団体にも携わるようになりました。日々刺激を受けるうちに、自分の視野が少しずつ広がって、営業成績も上がっていきました。

青木さん:私は、シェアハウスに住み始めたことが転機の一つです。仕事、プライベート問わず、面白い活動をしている同世代と話す機会が増えました。
そうしてシェアハウスのメンバーに悩みを相談したり、分かち合うことで、多様な価値観を知ることができたんです。
★_MG_2895.jpg青木優(あおき・ゆう)さん/リクルートキャリア/入社2年目

また、何か新しいことを始めようとする際には、背中を押してくれそうな人のところに相談しにいきます。前向きなアドバイスをもらえるし、「自分が今働いている仕事だけがすべてじゃないな」と思えるんです。

転機② 視点を変えて探索してみる

――誰かに相談してみると、新たな視点を得ることができますよね。そして「見え方」が変わると、考えや行動にも変化が起こるかもしれません。

豊永さん:私も、会社への「見方」が変わったことで、行動の機会が増えたと思います。というのも、入社して間もないころは「この会社に入って『正解』だったのだろうか」と悩むことがたまにあったんです。
★_MG_3021.jpg豊永穂奈美(とよなが・ほなみ)さん/中外製薬(ロシュグループ)/入社4年目

ただ、一度は決めた道。この会社で頑張ろう、と決心してからは目の前の仕事に全力で取り組むようになりました。結局、どの道が正解かはわからないですからね。
会社の環境をポジティブに捉えると、できることがたくさん見つかるようになりました。海外留学をしたり、社内イベントを企画し開催したり、自発的な行動が増えていったと思います。

田中さん:私も近い経験をしています。入社して間もないころは、与えられた業務に決められたやり方で忠実に取り組む必要がありました。新人なので当たり前なのですが、一方でその環境に少し窮屈さを感じていました。
★_MG_3154.jpg田中大敦(たなか・ひろのぶ)さん/大手メーカー/入社6年目

ただ、2年目からは「与えられることだけをやるのではなく、どうやったら環境を面白くできるのか」「どうやったら機会を作り出せるのか」を意識するようになりました。
こうして発想を柔軟にすることで、自分の「得意」を発揮できそうなことが見つかっていきます。個人的なアート活動を始めたり、社内でチャンスを掴んで新たな仕事をもらったり、と好循環が生まれました。

――少し気持ちを切り替えてから探索してみると、今まで見えなかったものが見えるようになってくるんですね。

濱本さん:
私も気持ちを切り変えることで、キャリアが前進しました。きっかけは、海外旅行中に出会ったテクノミュージックです。本当に、しびれるほどかっこいい音楽でした。
★_MG_3050.jpg濱本隆太(はまもと・りゅうた)さん/総合電機メーカー/入社9年目

その衝撃が忘れられず、帰国後に趣味でDJ活動を始めました。すると、あまり結果が出ず悩んでいた仕事も、うまくまわり始めました。というのも、新人時代は根を詰めて仕事だけに取り組んでいて、視野が狭くなっていたんです。
仕事とプライベート、ちょうどよくバランスを取ってみよう。そうして仕事への「視点」を変えたことで、自分のキャリアが軌道に乗っていきました。

――悩みが晴れる「転機」は必ずしも、仕事上の出来事だけではない、と。面白いですね。

転機③ とりあえずやってみる

――土井さんと小林さんは、どのようなきっかけで「悩み」から抜け出せたのですか。

土井さん:私の場合、「とりあえずやってみよう」という気持ちで行ったことがきっかけになったことが多いです。
本業も楽しくモチベーション高くやっていたのですが、もっと自分にできることがあるのでは、と模索していました。そんな時、同じような世代の若手でつくる「ONE JAPAN」を立ち上げるという話を、友人に紹介してもらったんです。
★_MG_3076.jpg土井雄介(どい・ゆうすけ)さん/トヨタ自動車より現在Alphadriveに出向中/入社5年目

彼らと出会って、「自分も一緒に活動したい!」と思いました。でも、メンバーになるには、まず所属する会社を代表する若手有志の団体を作って、その団体名で加盟する必要があったんです。しかし自社で団体なんて作っていませんし、もし作ろうと思えば時間がかかります。
居ても立っても居られなかった私は、とりあえず「自分代表」として、ONE JAPANのイベントに参加しました。まわりからは「あれは“ONE土井”だ」と言われましたね。
結果として、ONE JAPANの活動と社内の仲間との出会いから、自分もやってみようと思い、社内でビジネスコンテストを企画したり、シェアハウスを始めてみたり……。思い返せば、「ONE土井」がきっかけで今の活動がありますね。

小林さん:私は、社会人になってから、「他人のために自分ができることをやってみよう」と意識するようになりました。とはいえ、最初から大きな行動を起こすというよりも、少しずつ初めてやれることを増やしていった感じです。
★_MG_2930.jpg小林遼香(こばやし・はるか)さん/大手通信会社/入社2年目

例えば、社内の同期が配属について悩んでいたら、自分にできることを考えて、モチベーションアップを目的にした社内イベントを自主開催してみる、といったことです。
こうして「利他」の視点を持って行動していると、だんだん周りからパワーをもらえるような気持ちになっていって……。小さく行動を起こして、手応えを確認する。その繰り返しで、少しずつやれることが増えていくと思います。
繰り返しているうちに、不思議と過度に「人目」を意識することもなくなりました。とても生きやすくなったな、と感じます。

小さなきっかけが、「偶然」を呼び込む

――それぞれ、①誰かに話してみる、②新しい視点から探索してみる、③試しにやってみる、と3つのポイントから、転機を掴んでいっていますね。その結果、「良いサイクル」が生まれている、と。

濱本さん:本当にそう思います。私の場合は、異国で出会った音楽によってプライベートが充実しましたが、それが本業の仕事にも還元されていきました。
というのも、DJ活動を続けていった結果、社内でオーディオ部門の仕事もするようになったんです。ちょっとした行動が、後々のキャリアに大きな変化を与えていく。そのサイクルを、身をもって実感しました。

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土井さん:わかります。始まりは、ほんとに小さなきっかけですよね。私の場合も、ちょっとした無茶が、様々な出会いやチャンスに発展していきましたから。
先ほどお話しした通り、社内で有志活動を立ち上げましたし、それを通じてONE JAPANの活動もしていきました。シェアハウスも始めました。活動の幅を広げるうちに、結果的に経済産業省のイノベーター育成プログラム「始動」にも参加することになって‥‥‥。
自分を取り巻く変化も、思い返せば小さなアクションが原点になっていると感じます。

――小さなきっかけが、転機となっているんですね。とはいえ、何か行動を起こすとき、まずは「情報収集」と考える方も多いです。でも、目的なき情報収集は迷いを生むだけかもしれない。
★_MG_2985.jpg聞き手/古屋星斗/リクルートワークス研究所

太谷さん:そう思います。行動していると情報は自然と集まってくるものです。すると、また新たなアクションができるようになる。その積み重ねで、「人間変われるんだな」と強く感じます。
私はもともと、自発的にいろいろ行動するタイプではありませんでした。ただやらなきゃいけない仕事をこなす、いわゆる「マスト(must)」の中で生きていたんですよね。
でも、いきいきと活動する先輩と出会ったことで変わりました。そして、「マスト」だけでなく、何を仕事で成し遂げたいか、つまり「ウィル(will)」を考えるようになりました。
そうして考えるうちに、さらなる「転機」が訪れます。私も悩みながらもたくさんの機会を掴めたので、僕と同じように変われる人が増えれば良いなと思います。

小林さん:私は情報を集めすぎて、結局わからなくなって、「最終的には自分次第だよな」と腹が決まったことがあります。
「情報が行動を生む」の逆で、「行動が必要な情報をもたらす」のかもしれませんね。

――そうですね。ちょっとした行動をきっかけに、さらなる「転機」が舞い込んでくる。その繰り返しによって、納得のいくキャリアを築くことができる可能性が高くなると思います。本日はありがとうございました。

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正解なき時代の中で、ひとりひとりの”正解”を振り返ってもらった。
今でこそ、社内外で活躍の幅を広げている7人の若手社会人。
しかし、その最初の小さな一歩は、新しい時代の若手のキャリアづくりにたくさんの示唆を与えている。
(小さな一歩=スモールステップのキャリアに与える影響についてはこちら

次回は、調査結果や若手の振り返りから見えてきた、新時代の「キャリアづくり入門」をお送りします。


(執筆:高橋智香)
(撮影:平山 諭)

(2020年2月実施)