“ありのまま”と“何者”のはざまで。若者キャリア論2020第2回 若手を「行動ー情報モデル」で可視化する

「行動」と「情報」で考える

第1回では、若手社会人の「焦り」の背景を辿った。その背景には、「ありのままでありたい」と「何者かになりたい」という、相反する気持ちが共存している若手の仕事観があった。
この相反の中で、自分なりの“正解”を探すために、若手はメディアや人伝てでたくさんの情報を仕入れている。しかし、多くの仕事やキャリアに関する情報に触れながらも、情報の海から具体的な“正解”を見つけることはできず、惑う現状もあった。
検索すればすぐに出てくる仕事の情報や、他人のキャリアの成功談などが、キャリア形成にとってあまり意味をなしていない。つまり、現代においては、「知る」ことと「する」ことには大きな違いがあり、どちらか単独では意味をなさないのではないか。


「する」こと、つまり「行動」には様々なレベルがあるが、まず “文字にして他者に説明ができる”ような「経験した行動」について状況を見てみよう。
図表1では、「経験があるかどうか」についての回答を項目ごとに整理している。比較的高いものでは例えば、「転職」は25.4%、「所属する企業・組織内での勉強会への参加」では24.0%となっている。他方、「株式会社やNPO、法人等の設立・起業」は2.9%、「大学、専門学校等への通学(学び直し)」は2.3%と低い。全体として20%を超えている項目は転職、社内勉強会参加、そして飲み会等の主催のみであり、多くの若手社会人はこのどれも行っていない(「あてはまるものはない」は36.1%に達している)結果となっている。
つまり、3分の1以上の若手社会人が、就職後にこうした経験全てについて「したことがない」のである。

図表1:就職以降に経験したことがあること(%)
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情報は必ずしも行動に繋がっていないとすれば、「情報」と「行動」、それぞれからキャリアの状態を捉えることで、現状や課題が見えてくるのではないか。
この仮説に基づいて、20代社会人2000人以上に仕事やキャリアについての調査を実施した。今回は、その結果から見えてきた、若手における「4つのグループ」の存在について明らかにしていこう。

多くの若手がする“情報”の取得

まず、仕事やキャリアづくりの中で避けて通れない要素の一つ目は、 “情報”である。情報コンテンツがありすぎると嘆く声も聞かれるが、その状況について情報の入り口別に整理した(図表2)。
人からの情報については、「職場の人との会話」60.0%など、おおむね過半数の若手が積極的に取得していることがわかる。また、メディアからの情報では「インターネット上のニュース・ブログなどの記事」43.6%と半数近く、最も多い結果となっている。本やテレビ、新聞よりも気軽にいつでも読めるネットメディアの情報がメインの情報源となっている。
また、いずれかの人からの情報をキャリアづくりの参考にしていた若手の割合は73.3%、何らかのメディアからの情報をキャリアづくりの参考にしていた若手でも58.1%(※1)と、多くの若手が何かしらの媒体で情報取得を試みている。

図表2:キャリア形成において参考にした情報(※2)
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若手社会人の“行動”面

次に、行動面を見てみよう。キャリア上のアクションについて、冒頭の図表1では“文字にして他者に説明できるような”行動をする若手が限定されている事実を示した。こちらでは、少し粒度を細かくした“日々の活動の中で実施するような”行動を聴取した(図表3)。
この結果としては、業務内での活動(「業務上の失敗経験」60.0%など)や社内での学習(「職場における研修や教育プログラムへの参加」46.7%など)については積極的に行っている者が比較的多い。他方、越境(「業務上の接点のない人々との交流」28.6%など)については、積極的に行っている者が著しく少なくなる傾向がある。
また、業務内での活動においても、「所属する組織における新規企画の提案・推進」(28.3%)などでは積極的に行った者は少数となる。
自身の業務内でできる一部の行動を除く多くの行動については、多くの若手社会人が積極的に行っていないことがわかる。

図表3:積極的に行った行動(※3)図表3.jpg

「行動ー情報モデル」でキャリアを見る

さらに深掘りするために、それぞれの若手社会人の行動と情報の状況を組み合わせて見てみよう。
聴取した行動の量と情報の量を2軸とし、4つの分類を形成したのが図表4(※4)である。

図表4:「行動ー情報モデル」によるキャリア状況の分類
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各グループに所属する者の数について、今回の調査から、ファーストキャリア(就職後3年)においては、グループ1は22.4%、グループ2は31.2%、グループ3は42.3%、グループ4は4.1であることがわかった。
こうしたそれぞれのグループはどういったキャリアの状況にあるのだろうか。現在のキャリア状況を多面的に知るために以下の4つの指標で俯瞰してみよう。

①自身のキャリアの展望(※5)
②キャリア自律性(※6)
③仕事に対するエンゲージメント(※7)
④自社への愛着度(※8)

図表5:グループ別のキャリア指標
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図表5を見れば、①~④すべての指標で同様の傾向が観測されていることがわかる。

・グループ1が最も高い
・グループ3が最も低い
・グループ4が2番目に高く、グループ2は3番目に高い

キャリアの状況について多角的に見ることのできる複数の指標においてこうした共通の結果が得られたことからは、「行動-情報モデル」による4つのグループ分類が若手社会人のキャリア形成において強い説明力を有していることを示している。

また、グループごとの男女比や居住地、初職の規模感について図表6に整理している。グループ2の地方部居住比率が少々高く、またグループ4の初職300人未満企業の比率が低い、この二点を除けば、各グループに属性面での大きな差はない。
これはつまり、性別、居住地、初職企業などの若手の外形的な属性では特徴を掴むことが難しいということを意味する。

図表6:グループごとの属性
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若手のキャリア、4つの実像

こうした結果を踏まえると、一概に「若手」としても、その実、全く状況の異なる4つの特徴を持った集団が存在していることが見えてくる。定性的な内容も踏まえて、実像を描いてみよう。

○グループ1
グループ1は行動量が多く、情報量が多い。キャリアの指標も高い状況にある。
像として想定されるのは、既に一歩踏み出し、情報の海の中で自分にとって必要な情報を抽出している姿である。数多の情報から必要なものを得るために、自分が経験した行動が“軸”として必要になることがある(よく「原体験」などと表現される)。こうした行動と情報の循環が、キャリアのポジティブな状況に繋がっていると推測される。
こうした層の若手はキャリア自律的な状態にあると言えるが、身の回りに同様の上司や先輩が少ないため、ロールモデルが不在となり、濃い霧の中を走り続けているような状況にもある。
【グループ1のペルソナの例】
企業の一員として働きつつ、社外のコミュニティでも積極的に活動する “浮いた”存在
ゆくゆくは個人の名前で活動したいと思っており、出来ることから準備をしている
自分のことは自分で決めたいが、何かする際には誰かに背中を押してほしいと思っている

○グループ2
グループ2は行動量が少なく、情報量が多い。キャリア指標は3番目の水準にある。
情報のアンテナは高いが一歩踏み出せない、そんな状況にある若手が像として浮かんでくる。情報は入ってくるため、人の話やSNSなどを見聞きして焦ることも多く、「ないものねだり」の状況に陥りやすい。こうしたことから、行動量が多く情報量が少ないグループ4よりもキャリア指標が低いことが考えられる。
【グループ2のペルソナの例】
現在の職種よりも違う職種が向いていると思いながら日々仕事をしている
SNSなどで活躍している同年代の知人に「いいね!」をつけつつモヤモヤしている
情報を集めすぎて、何が正解かわからなくなってしまう

○グループ3
グループ3は行動量が少なく、情報量が少ない。キャリアの指標は最も低い。
全体の42.3%と半数近くを占め各グループの中で最も多いが、狭義の「安定志向」と言えるグループと考える。キャリア形成自体にあまり関心がなく情報を得ておらず、このため行動を起こすこともない。入社した会社でゆっくりと過ごしていきたい、という像が感じられる(ただし、結果的に転職率は他のグループと同程度となっている)。
【グループ3のペルソナの例】
“キャリア形成を考えること”は、自分とは別の世界の人がすることだと感じている
何事もなければ今いる会社にずっといるんだろうな、となんとなく思っている
仕事以外にやりたいことがあり、そちらの邪魔にならないような仕事を選んだ

○グループ4
グループ4は行動量が多く、情報量が少ない。キャリアの指標は2番目に高い。
こちらは全体の4.1%と少数派である。現代においては情報の獲得は格段に容易となっているため、行動の相対的な獲得コストが上がっていることから、行動だけすることは難しく、少数となったと考えられる。ネット上や仕事でも“内輪のノリ”であっと驚く行動をしてしまうような若手が想定されるだろう。世間の常識と離れた部分があるため、大きな失敗をすることも多い。ただ、キャリアの指標は、情報量だけ多いグループ2より著しく高く、情報量より行動量がキャリア形成にとって重要となっていることも示唆している。
【グループ4のペルソナの例】
YouTubeやSNSで盛んに発信しているが、自分のコミュニティの外の話題には無頓着である
周りから、「無鉄砲」「何をするかわからない面白いやつ」と言われることが多い



「若者がわからない」「若手にはガッツが足りない」と評され、なにかと“若い連中は……”の一言で括られてきた若手社会人。
今回の結果からはその内実、状況が全く異なっている4つのグループが存在していることがわかった。

さて、今回の調査では、このグループ間で個々人が “移動”していたことが観測されている。
次回は「行動ー情報モデル」を使いながら、“移動”、すなわち若手の「キャリアチェンジ」の世界を掘り下げていこう。

(※1)図表1における「人からの情報」のいずれかの項目に「参考にしていた」「どちらかと言えば参考にしていた」と回答した者の割合。「メディアからの情報」についても同じ。
(※2)「就職してから3年目までに、次のような情報をどの程度キャリアづくりの参考にしていましたか」の質問において、「参考にしていた」「どちらかと言えば参考にしていた」と回答した者の合計。5件法。
(※3)「就職してから3年目までに、以下のような活動についてどの程度行いましたか」の質問において、「非常によく行った」「よく行った」と回答した者の合計。5件法。
(※4)情報量、行動量についてそれぞれ8問と15問の対応する設問をスコア化し、情報量スコアは50%点を、行動量は75%点を基準点としたグループ。
(※5)キャリアの見通しや満足感について5件法で聞いた9つの質問について因子分析を行い、得た2つの因子をその特徴に応じて定義したもののうちキャリアの見通しに関する因子スコア。スコアが高いほど、自己のキャリアに対する展望が高い。
(※6)キャリアを自分の価値に基づいて決めているか、自己決定できているかについて5件法で聞いた複数の質問について因子分析を行い、得た2つの因子をその特徴に応じて定義したもののうち自己決定に関する因子スコア。スコアが高いほど、キャリアの自己決定感が高い。
(※7)仕事への意欲や集中度合いについて7件法で聞いた質問について因子分析を行い、得た2つの因子をその特徴に応じて定義したもののうち仕事への意欲に関する因子スコア。スコアが高いほど、仕事への意欲や集中度合いが高い。
(※8)「自分の勤めている企業で働くことについて、家族や親しい友人・知人にどの程度すすめられるか」を10点満点で聴取したスコア。