働き方改革時代にマネジャーは何をすべきか部下への個別指導が、短い時間で業績を高める

部下への指導の時間は業績を高めるが、労働時間への影響は存在しない

以上のアンケートデータをマネジャーの担当部署の総労働時間や目標達成率などの人事データと接続させ、マネジャーの行動と担当部署の労働時間、業績との関係性を分析した。
マネジャーの各行動と部署の目標達成率との相関係数を調べたところ、マネジャーが部下に対する個別の指導に多くの時間をかけることが、その部署の業績によい影響を与えることがわかった。(図表12)

図表12 マネジャーの行動と業績、労働時間の関係

7-12-1.png

出典:人事データ、人事アンケートをもとに筆者作成
注:***は1%、**は5%、*は10%で有意に相関のあることを示している。

マネジャーによる部下の指導が部下の職務遂行能力を向上させ、担当部署の業績を向上させている可能性がある。
一方で、このような行動は、マネジャー本人の労働時間や部下の労働時間には影響を与えない。本来、部下への指導に時間を割くのであれば、少なくともその分、マネジャー本人の労働時間は増えるはずである。それが起こらないのはなぜか。
マネジャーの各行動間の相関をみると、部下への個別の指導に関しては、事務作業にかける時間や社内会議にかける時間などとの負の関係がみてとれる。(図表13

図表13 マネジャーの行動間の相関

7-13.jpg

出典:人事データ、人事アンケートをもとに筆者作成
注:***は1%、**は5%、*は10%で有意に相関のあることを示している。

つまり、部下への指導に時間をかけているマネジャーは、当該業務以外にかける時間を減らすことで、その時間を捻出しているのである。
また、マネジャーが部下に対して個別の指導を行っても、部下の労働時間は長くならない。上司による指導は、それ自体は当然部下の労働時間の増加要因となる。しかし、結果として部下の労働時間への影響が観察されないということは、上司による部下への指導によって、部下もそれ以外の業務に対する処理時間を短縮させているものと推測される。

マネジャーの行動が変化すれば、労働時間の縮減と業績向上は両立可能

長時間労働の是正は、自然体では経済、業績へ負の影響を与える。今後、経済が力強く成長していくためには、労働時間減少による経済への負の影響を上回るような、生産性の向上が必要である。
そして、労働時間を減少させながらも生産性を向上させるため、そのカギになるのは、マネジャーの役割だ。本稿では、マネジャーが部下への個別の指導というマネジャー本来の業務に集中できる環境をつくることが、企業の生産性の向上につながる可能性を示したが、生産性向上につながるマネジャーの取り組みはこの限りではないだろう。労働時間の縮減と企業業績の向上との両立に向けて、多くの企業で業務プロセスのさらなる改善が行われることを期待したい。