宿泊業の「働き方改革」10のキーワードKeyword4 サービスの価格反映

顧客のニーズに応じたサービスを実現し、価格に反映

これまでの日本のサービス産業では、厳しい競争の中で、顧客のニーズの有無にかかわらず、サービスを過剰に拡大し続けてきた。例えば、コンビニエンスストアの24 時間営業、宅配便の再配達などがその典型例である。また、宿泊業の場合は、1人の接客スタッフが一組の顧客に付きっきりで対応するなどのサービスが該当するだろう。

しかし、実際には顧客のニーズに合致しておらず、競争の結果として生まれただけの非効率な業務となっているケースが多い。顧客が本当に求めているサービスではないため、価格に反映できず、人件費のみが高まって、収益を悪化させるという負のスパイラルに巻き込まれているのが実態である。

この負のスパイラルを脱するためには、業務改革の中で、顧客ニーズを適切に把握し、いかに客単価を上げていくかが重要だ。本当に価値のあるサービスであれば、その対価を顧客から受け取ることができる。そのために、IT・テクノロジーを駆使し、顧客情報を最大限に活用することが重要だ。戦略的にターゲット顧客を設定し、顧客に合致した料理・設備・サービスを提供することが求められる。

Case Study3
賢島温泉 汀渚 ばさら邸(三重県)

ばさら邸は、顧客の半数以上が標準より高単価なプランを選択しているにもかかわらず、高稼働率を実現している旅館である。

高稼働率の秘けつの1 つは、IT を活用した顧客データベースの徹底管理だ。顧客の氏名、年齢はもちろん、食事の好みやアレルギーの有無、提供したアルコール類の種類とその感想などを、接客スタッフが実に細かく記録。その上で、かゆいところに手の届くサービスを提供している。また、ばさら邸ではこの10 年間で13 回のリニューアルを実施した。それにより、「次はどのような変化があるだろうか?」と顧客の期待をかき立てているのだ。

こうした取り組みによって、ばさら邸はリピーターを増やし続けている。中には、月に2 回以上宿泊するようなファンも少なくないそうだ。