リモート・マネジメントモデル第4章 オンライン会議を成功させるためのポイント

リモートワークをする人が職場に増えると、日常的に発生するのが「オンライン会議」である。
大前提として認識すべきは、オンライン会議は、通常の対面の会議よりも「疲れる」ということである。まずこのことを正しく理解して、オンライン会議におけるストレスを軽減し、リモートワーク全体の生産性を低下させないことが重要である。一方で、オンライン会議をうまく活用することができれば、リモートワーク環境下で低下してしまいがちなコミュニケーションの質と量を維持すること、もしくは高めることも可能である。オンライン会議をどのように進めるかについては、リモート・マネジメントを実行するマネジャーだけでなく、すべてのメンバーが習熟していくことが望まれる。

(1)前提となるルール

オンライン会議は、基本的に音声のみではなく、ビデオ会議にて開催することが望ましい。私たちの普段のコミュニケーションにおいては、音声・言語だけでなく、表情や身ぶりなどの視覚情報が活用されている。オンラインの場合にも、なるべく多くの情報が交わされる環境を整備したい。
ただし、通信環境によっては、ビデオの活用が難しい場合もあり得る。そのような時にはビデオをオフにして音声のみでのやり取りにするなど、柔軟な対応も必要である。

また、リモートワークのメリットには、各人がそれぞれの仕事に集中できるという点がある。そのメリットを阻害しないためには、オンライン会議をむやみに増やさず、「必要な会議を、必要な人数で」という感覚は重要である。会議の時間帯を絞るなどのルールも有効だろう。
一方で、設備やアプリケーションによっては、数百人の参加が可能になる。こうしたオンライン会議ならではの特性をうまく活用し、多くの人が関心を持つテーマについては、自由なオブザーブ参加を認める、といった活用の仕方もできる。その場合には「発言者(登壇者)」と「オブザーバー(傍聴者)」を分けるといった設定が必要になるだろう。

また、オンライン環境ならではのコミュニケーションの作法が求められる。たとえば、オンラインでは対面の場よりも、周囲の反応がわかりにくい。参加者には、発言者の意見に賛成であれば首を振り、反対であれば首を傾けるなど、いつもよりやや大げさにリアクションを示すことを求めたい。また、複数の人の発言が重なると聞き取りづらくなり、会議の生産性が低下する。発言するときは挙手をする、発言したいときにはチャットに書き込む、議題が変わる前に、発言し残した人がいないかを確認する、などの決め事をしておくとよい。
うまく運営できれば対面の会議以上の成果が得られるであろう。

(2)会議環境

リモートワークが自由に認められる職場では、すべての会議には「オンライン参加者がいる」前提で会議の準備をする必要がある。ひとりでもオンライン参加者がいる場合には、リアルな会議室に複数人が集うとしても、各人がパソコン、スマートフォン、タブレットなどのデバイスでオンライン上でも参加することが望ましい。オンライン参加者にとっては、会議室にビデオが1台のみ、という状況では各参加者の表情や様子がわからず、場のコンテクストを読み取ることが難しいからである。

通話品質を高めるためには、全員がヘッドセット(イヤホン&マイク)を利用することを推奨したい。現時点では、ICTツールの不具合や通信環境の不備などはいつでも起こり得る。どうしてもICT環境の問題で会議の進行が遅れる場合には、会議の中断をすることになるが、その場合はどのように対処するか(音声のみで参加する、参加せず事後に情報共有するなど)、という点に関してはあらかじめルールを持っておく必要もあるだろう。

(3)会議のセッティング・招集・入室

会議の主催者はオンライン会議アプリケーションを特定し、その会議のURLIDとパスワードなどを事前に取得し、会議への参加方法を知らせておく必要がある。遅れての入室もできるように、これらの情報は誰もがいつでも確認しやすいスケジューラなどに掲示しておきたい。また、全員がオンラインで参加する会議では、開催時間帯をいつにするのかの自由度が高いように思われるが、そもそもリモートワーク環境下ではワークとライフが相互に干渉し合うといった問題も起こりやすい。したがって、オンライン会議も基本的には就業時間内で設定することが望ましい。

慣れるまでは、オンライン会議のサイトへの接続には時間を要することがしばしばある。そのため、会議の主催者は余裕をもって会議の準備を始めておきたい。また、参加者も5分前には会議のサイトに“入室して、音声やビデオが問題なく活用できるかを確認しておくことが望ましい。
たとえば、13時開始の会議では、13時から135分までは接続の確認とトラブル解決の時間として確保し、実際の議題に入るのは135分からとする、というようなオンライン会議ならではの進行が必要となる。

また、オンライン会議ではデバイス越しに存在する他者の話す内容を理解しようとするため、対面の会議以上に集中して会議に臨むことになり、これが通常以上に疲れる原因となる。オンライン会議が連続すると疲労の度合いはますます高まることになるので、これを防ぐためにも、たとえばこれまで1時間で設定していた会議を45分にするなど、会議時間の長さにも配慮が必要である。

(4)資料の準備と共有

ノートパソコンやスマートフォン、タブレットで参加する人が多い場合には、会議中に投影・共有する資料の文字の大きさや図表のサイズを大きめにし、見えやすさに配慮する必要がある。特に高齢者が参加する会議では、小さな文字が読みにくいことに一層の配慮が求められる。また、プレゼン資料やドキュメント資料は、デバイスによっては表示の崩れが発生するため、PDFなどに加工して共有する、といった工夫も有効である。

会議の資料を事前に共有することは、対面の会議でも常識となりつつあるが、オンライン会議では「隣の人に見せてもらう」「投影してもらってから見る」といったことがしづらいため、その重要性はいっそう増している。必要な資料は会議招集のメールなどに添付するほか、クラウド上の保存場所も提示しておくなど、全員が事前にアクセスできるようにする必要がある。
また、事前に資料に目を通しておくことをルール化することや、会議では何を中心に議論したいのかを主催者が明らかにしておくことも、オンライン会議では一層重要になる。

(5)会議の運営体制

オンライン会議で、ファシリテーターが議事を滞りなく進行しながら、通信環境の整備やリモート参加する人々の状況などに目配りすることまでを同時並行的に行なうのは難しい。特に、人数の多い会議では、以下の3つの役割を果たす人を決めておく必要があるだろう。 

・ファシリテーター:議事の進行、充実した話し合いに責任を持つ
・サブファシリテーター:ファシリテーターの進行補助役。チャットでのコメント、「いいね!」ボタンの押下など、参加者の、発言情報以外の情報をウォッチし、資料投影の切り替えやタイムマネジメントを行う
・環境マネジャー:ICT接続環境、会議サイトの整備などを維持し、不具合に対処する

オンライン会議を生産性高く進めるためには、ファシリテーター役はあくまでも進行に集中し、それ以外の役割を他の人に依頼しておくことが望ましい。人数が5~6人程度であれば、サブファシリテーターと環境マネジャーはひとりで兼任することも可能だろう。発言者が10人以上いる大きな会議や講義・講演、会議ツールの使い方をよく知らない参加者がいる場合には、これらの役はそれぞれ独立させる必要があるだろう。

(6)会議進行

オンライン会議では、参加者は「場の空気」を読むことが難しく、また、心理的な参加度合いも低下しやすい。そのため、対面の会議以上にファシリテーターや進行サイドの技量が試される機会となる。

会議の開始時には、ファシリテーターが「今日の会議では誰と誰がリモート参加で、会議室にいるのは誰と誰である」などと、参加者の状況をアナウンスする。リモートの参加者にとってはひとりだけがリモートなのか、他にもリモートの参加者がいるのかを知ることで不安感が低減することになる。

対面の会議と同様に、ファシリテーターは事前、または会議の冒頭で、会議全体の目的(ゴールイメージ)、アジェンダごとの目的、時間目安を共有する必要がある。加えて、それらに対する違和感がないか参加者に確認したうえで会議を開始するといった、対面での会議以上に丁寧な導入が望ましい。

会議の生産性向上には、全員が「ファシリテーションスキル」を高めることが有効である。会議の各時点での目的(意思決定かブレストかなど)を理解しながら会議に参加し、役割を果たしてもらう必要がある。また、ファシリテーター、サブファシリテーター、環境マネジャーの役割を固定するのではなく、意図的に若手や初心者にもローテーションで役割を与え、チームのメンバー全員がオンライン会議の運営や進行役としてのスキルに習熟できるようにするとよいだろう。

ファシリテーターは、会議のゴールに向けて各自の意見を引き出せているか、理解や合意がとれているか、対面の会議以上に丁寧に確認する必要がある。同意を得るときには「いいね!」ボタンを押すなどのルールを決めておくとよい。
意見交換の活発化のために、チャット機能や全員で書き込めるホワイトボード機能を活用することも有効であろう。参加者は積極的に意見やアドバイスをチャットに書き込み、サブファシリテーターがその内容を議論に接続させるなど、参加者の意思を取りこぼさず場に表出させる工夫が必要である。

会議の終了の前には、必ず言い足りないことはなかったかを問いかけて、発言を控えていた参加者からの発言を促すことも必要である。
オンライン会議では、このようにすべての参加者に気配りし、発言を求めることが普通になっていく。これをうまく利用し、対面での会議以上に、若手や新しい参加者からの発言や意見を引き出すようにしていきたい。

(7)会議終了後

オンライン会議でも、会議の内容を記録し、後からキャッチアップできるようにしておくことが重要である。ただし、記録に手間をかけるのではなく、自動化機能などをうまく活用したい。また、オンラインの利点を活かし、クラウドツールを駆使して、参加者がその場でドキュメントや議事録などを加筆修正しアップデートするといった形で、会議の生産性を高めていきたい。

全員がオンライン会議に慣れるまでは、会議ツールの使い方やデバイスの不具合のあった参加者に対して、調整の方法やマニュアルのどこを読むべきかを教えたり、オンライン会議をうまく進めるためのコツや便利な機能を教え合ったりするような相互サポートを促す必要があるだろう。