リモート・マネジメントモデル第1章 リモート・マネジメントモデルを考える上での前提

まずはリモート・マネジメントモデルを考える上での前提となる条件を確認しておきたい。

(1)私たちが定義する「リモート・マネジメント」とは、働く場所が自由になっていく近未来のマネジメントであり、誰も出社せず、リアルなオフィスを持たないというような、完全なるフルリモートの組織を念頭においているわけではない。ほとんどの従業員が、業務特性や個人特性に応じつつも、最大限に成果を生み出せるよう、自由かつ無制限にリモートワークすることを認められている状態を想定している。

(2)リモート・マネジメントをこれまでのマネジメントとまったくの別物と考えているわけではない。大きく2つの側面があると考えている。1つは、目の前にいないからこそ、マネジメントを原理原則に従ってしっかりと行うことが求められるということ。顔色や空気を読んで行動してもらうことは難しくなるので、適切にマネジメントを行うべきであるということだ。これは組織のダイバーシティ化を受けてすでに課題となっていることであり、リモートになるとより顕著になる。

(3)一方で、リモート・マネジメント独自の重要なポイントがいくつか存在する。1つには、リモート・マネジメントでは、誤解や勘違いのないコミュニケーションを成立させるために、マネジャーには説明能力や文字によるコミュニケーションにおける文章力が一層強く求められるようになるということである。もう1つは、物理的に一緒にいないなかでも、チームの一体感や連帯感を生み出せるようにするためのマネジメントスキルが必要になるということである。多様なテクノロジーの活用も当然に含むところである。

(4)リモートでマネジメントをするというと、マイクロマネジメントを想起する人がいるかもしれない。しかし私たちが考えているのは、むしろ逆のことである。相互の信頼関係がなければリモートワークをスタートさせるべきではないと思う。目を離すとさぼるのではないかという疑心暗鬼のなかでリモートワークをスタートさせると、過剰管理を招くことになり、意欲や生産性にマイナスに作用することになる。性善説のもとに、お互いを信頼してスタートするときにはじめて、リモートワークは成果を上げることができる。また、リモートワークは必然的に自律的な働き方になるべきで、マイクロマネジメントは自律に逆行することになる。最低限の自律を維持できないような新人などはリモートワークの対象とするべきではないだろう。

(5)マネジャーが行うべきは、支援と配慮のマネジメントである。「関心」(多様な部下の強み・弱み、志向・価値観、制約条件などに関心を持つ)、「補完」(それぞれが強みを活かして他者の弱みを補い合う)、「支援」(部下を主役にして業績が上がるように側面支援する、仕事やキャリアの相談を歓迎する)、「環境」(働きやすい環境づくりや人間関係に配慮する)などを要素とするマネジメントであり、すべてのマネジャーに今後期待されるマネジメントの形であるが、リモート・マネジメントでは支援・配慮型のマネジメントがより重要となる。

(6)業種や職種によって、リモート・マネジメントと相性がいいものもあれば、一見そうでないものもある。IT系の業職種に特化すればイメージが湧きやすいが、私たちはあえて全産業を念頭においてこの問題を考えてみたい。ものづくりの現場でも対人サービスの現場でも一定比率でリモートワーク化することは可能であると思うし、マネジメントをリモートで行うことで、今以上に個人と組織の成果を高めることが可能だと考えるからである。


同じ時間と空間を共有している人々の間では、言葉以外にも多様で膨大なコミュニケーションが発生している。リモートワーク環境のもとでは、空間の共有ができないばかりではなく、働く時間帯にもずれが発生する可能性は高い。意識しなければ、コミュニケーションの量は減り、質は低下するのである。それらを回避して、より大きなマネジメント成果を上げられるように、この後、2つのカテゴリーに分けて「リモート・マネジメント」のポイントを整理していきたい。
第1は、マネジメントプロセスに焦点を合わせた、「ジョブ・アサインメント for リモートワーク」。第2は、チームビルディングに焦点を合わせた、「チーム・マネジメント for リモートワーク」である。