コロナ禍での働き方変化を解析する 緊急事態宣言下での仕事と育児、誰のストレスが増えたのか 大谷碧

新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言により、多くの人が働き方や生活の変化を余儀なくされた。特に、子育て中の就業者は緊急事態宣言による仕事への対応のみならず、学校や保育園の休校・休園などの対応にも迫られ、仕事と家庭の両立に困難を感じることもあったのではないだろうか。

そこで本コラムでは、末子年齢が0歳から5歳の子ども(注1)を持つ正規雇用者に着目し、仕事と家庭の両立ストレスについて、2019年と緊急事態宣言下の2時点を比較し、どのような変化があったかについて男女別にみていきたい。データについては「全国就業実態パネル調査2020」と「全国就業実態パネル調査2020 臨時追跡調査」を使用する。

図表1 仕事と家庭の両立ストレスの変化(2019年と緊急事態宣言下の比較)cor4_1.jpg

注 集計対象は2020年1月調査時点で末子年齢0歳から5歳、かつ子と同居で12月時点の仕事継続者である正規の雇用者(どちらか一方でも休業した者を除く)、ウエイト(XA20TC)集計

図表1をみてみると、男性は両立ストレスを「強く感じていた」「感じていた」が減少し(それぞれ11.1%から8.2%、29.8%から28.0%)、「感じていなかった」がやや増加しており(16.8%から18.6%)、両立ストレス減少の傾向がみられる。女性については、両立ストレスを「強く感じていた」が増加(16.2%から22.4%)する一方で、「感じていなかった」も増加しており(8.4%から18.5%)、二極化の傾向がみられる。

次に、緊急事態宣言下でどのような状況にあった者の両立ストレスが増加、あるいは減少したのかについて、上記と同じ対象者についてみてみよう。

図表2 仕事と家庭の両立ストレスの変化と緊急事態宣言下の子どもの状態cor4_2.jpg

注 集計対象は2020年1月調査時点で末子年齢0歳から5歳、かつ子と同居で12月時点の仕事継続者である正規の雇用者(どちらか一方でも休業した者を除く)、ウエイト(XA20TC)集計。ただしn数が少ないので、解釈には注意が必要

図表2は、緊急事態宣言下に子どもがほとんど自宅にいた者とそうでなかった者について、仕事と家庭の両立ストレスが2019年からどのように変化したか(「両立ストレス減少」「変化なし」「両立ストレス増加」の3区分)を男女別に示したものである。子どもがほとんど自宅にいた場合、男女ともに「両立ストレス増加」(男性29.9%、女性39.3%)が、そうでなかった者(男性24.0%、女性16.2%)と比較して高く、その傾向は特に女性で顕著である。また、女性で子どもがほとんど自宅にいた者は「両立ストレス減少」(35.1%)の割合も高く、ストレスの二極化の傾向がみられる。両立ストレス増加の背景としては、子どもの預け先の確保が難しい場合などに対応を迫られた可能性が考えられる。減少の背景は明確ではないが、緊急事態宣言下ではテレワーク勤務が推奨されたため、そのような働き方の変化が影響しているのではないだろうか。

図表3 仕事と家庭の両立ストレスの変化と緊急事態宣言下でのテレワークの有無cor4_3.jpg

注 集計対象は2020年1月調査時点で末子年齢0歳から5歳、かつ子と同居で12月時点の仕事継続者である正規の雇用者(どちらか一方でも休業した者を除く)、ウエイト(XA20TC)集計。ただしn数が少ないので、解釈には注意が必要

図表3は緊急事態宣言下でテレワーク勤務が1時間以上あった者(以下、テレワークあり)とそうでなかった者(以下、テレワークなし)について、先ほどと同様に仕事と家庭の両立ストレスがどのように変化したかを男女別に示したものである。まず、女性についてみてみると、テレワークありはテレワークなしより「両立ストレス減少」の割合が高いことがわかる(11.8%pt差)。また、テレワークありはテレワークなしより「両立ストレス増加」の割合も低く(2.7%pt差)、テレワークありで両立ストレス減少の傾向がみられる。

一方、男性はテレワークの有無で女性ほど大きな違いはないが、テレワークありはテレワークなしより「両立ストレス増加」の割合がやや高い(2.9%pt差)。これには、家事・育児を行う機会が増え、両立ストレスが増加している可能性が考えられる。そこで、男性の働いていた日の家事・育児時間の平均を調べると(図表は割愛)、テレワークなしは2.6時間だが、テレワークありは3.1時間とやや長いことがわかる。女性についても同様にみてみると、テレワークなしは5.2時間だが、テレワークありは6.3時間と長くなっている(注2)。  

それでも女性の場合はテレワークありで両立ストレス減少の傾向がみられるため、男性とは傾向が異なるといえる。テレワークであれば出社の必要がないため、子どもと過ごせる時間が増えたり、子どもの体調不良などの緊急時に柔軟な対応ができることが背景にあると考えられる。幼い子どもを持つ女性にとって、このような柔軟な環境で働くことが両立ストレス減少につながっている可能性が考えられる。

本コラムでは2019年12月時点で末子年齢が0歳から5歳の子どもを持つ正規雇用者に着目し、仕事と家庭の両立ストレスの変化についてみてきた。緊急事態宣言下では働き方だけではなく、子どもの状態にも変化があったと考えられるが、両立ストレスについては特に女性がこれらの影響を受けている可能性が示唆された。背景としては、家事・育児時間の平均時間からも示されている通り、そもそもの家事・育児の負担が女性のほうが大きいためだと考えられる。しかし一方で、男性についてもテレワークありで、家事・育児の平均時間がわずかながら長くなっていることからも、今後テレワークが普及すれば、男女での家事・育児の分担が進む可能性もあるかもしれない。

新型コロナウイルスによりもたらされた働き方や生活の急激な変化は今後私たちにどのような影響をもたらすのか、引き続き全国就業実態パネル調査を用いて検証していきたい。

注1:子どもの年齢は2020年1月 時点のもの
注2:家事・育児時間の平均の集計対象は2020年1月調査で末子年齢0歳から5歳、かつ12月時点の仕事継続者である正規の雇用者(どちらか一方でも休業した者を除く)、ウエイト(XA20TC)集計。ただしn数が少ないので、解釈には注意が必要

大谷碧(リクルートワークス研究所/研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。