コロナ禍での働き方変化を解析するテレワーク下の懸念 長時間労働と生産性の低下 萩原牧子

テレワークによって、働いている姿が見えなくなることで、「働きすぎるのではないか」とか「生産性が下がるのではないか」と懸念する声を聞く。もし、緊急事態宣言下にテレワークを導入しても、労働時間が長くなった、生産性が低下したという場合には、新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着きしだい、出社前提のもとの働き方に戻すという判断をする企業が多くなるだろう。緊急事態宣言下でのテレワークによる労働時間と生産性の変化についてみていこう。

まずは、緊急事態宣言下での雇用者全体の労働時間の変化を確認しておく。図表1をみると、雇用者全体の緊急事態宣言下での1週間の労働時間が、12月時点と比べて5%以上減少したのは42.7%(27.410.84.5)であり、ほぼ変わらない(増減5%未満)が41.0%、5%以上増加したのは16.2%(2.94.98.4)で、減少傾向にある。

図表1 2019年12月時点と比べた緊急事態宣言下の1週間の労働時間の変化(2時点のテレワークの有無別)
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図表1 2019年12月時点と比べた緊急事態宣言下の1週間の労働時間の変化(2時点のテレワークの有無別)
注 集計対象は12月時点の仕事継続者かつ雇用者(どちらか一方でも休業した者を除く)、ウエイト(XA20TC)集計

次に、テレワークの影響をみてみる。緊急事態宣言下に、急にテレワークをすることになった場合は、うまく環境の変化に適応できずに、労働時間が長くなっているかもしれない。そこで、201912月時点ですでにテレワークをしていたか否か、そして、緊急事態宣言下でテレワークをしたか否かという4つのパターンにわけて、労働時間の変化を比較した(図表1)。

まず、どのパターンも、5%以上増加したという割合は大きく変わらない。つまり、テレワークをしたからといって、労働時間が長くなるという傾向はみられない。一方で、5%以上減少した割合は、12月時点でテレワークをしたことがあり、宣言下でも実施した場合に50.2%(33.813.52.9)と、比較的高い。また、緊急事態宣言下で急にテレワークをすることになった場合でも、労働時間が減少した割合が比較的高い傾向がみられる。

テレワーク下でも自分で判断して仕事を進められるかどうかは、労働時間に影響を与えるはずだ。緊急事態宣言下でテレワークを行っていたケースにおいて、「自分で仕事のやり方を決めることができた(計)」と、「決められなかった()」で、労働時間の変化を比べてみた。図表2をみると、決められなかったほうが労働時間が5%以上増加している割合が21.0%(4.35.111.6)と比較的高くなっている。自律的に仕事ができない状態で、テレワークで仕事をすることになると、労働時間が長くなってしまう傾向がみられる。

図表2 2019年12月時点と比べた緊急事態宣言下の1週間の労働時間の変化(自分で仕事のやり方を決められるか否か)
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図表2 2019年12月時点と比べた緊急事態宣言下の1週間の労働時間の変化(自分で仕事のやり方を決められるか否か)注 集計対象は12月時点の仕事継続者かつ雇用者(どちらか一方でも休業した者を除く)、ウエイト(XA20TC)集計

以上の2つの集計を、仕事の生産性の変化についても行った(図表3)。まず、2時点のテレワークの有無という4つのパターンの結果を比較すると、緊急事態宣言下にテレワークを行った2パターンが、12月時点と比べて仕事の生産性が低下した割合が高く、なかでも12月時点ではテレワークをしていなかった、つまり、緊急事態宣言下で急にテレワークをすることになった場合に、生産性が低下したという割合は35.6%(29.16.5)と高い。一方で、生産性が上昇した割合も、宣言下にテレワークを行っていた2パターンが比較的高い傾向にあり、こちらは、12月時点にもテレワークを行っていたほうが21.9%(4.417.5)と突出して高い。

続いて、テレワーク下で、自分で判断して仕事を進められたかどうかと、仕事の生産性の関係をみると、自分でやり方を決めることができなかった場合は、仕事の生産性が低下した割合が43.9%(35.18.8)と圧倒的に高いことがわかる。

図表3 2019年12月時点と比べた緊急事態宣言下の仕事の生産性 ※クリックで拡大します
図表3 2019年12月時点と比べた緊急事態宣言下の仕事の生産性
注 集計対象は12月時点の仕事継続者かつ雇用者(どちらか一方でも休業した者を除く)、ウエイト(XA20TC)集計、2%未満の数値は非表示

以上のように、緊急事態宣言下でのテレワークによる労働時間の変化をみた結果、緊急事態宣言下でテレワークをしているほうが、労働時間が減少した割合が高い傾向にはあったが、自分で仕事のやり方を決められない場合は、労働時間が増加しがちであることが確認できた。また、生産性については、宣言下でテレワークをするほうが「低下した(計)」の割合が高くなる一方で、「上昇した(計)」の割合も少しだけ高くなること、そして、自分で仕事のやり方を決められない場合は、仕事の生産性が低下する割合が圧倒的に高いことがわかった。

テレワークによる労働時間や生産性の変化は、一律ではない。長時間労働を招かず、生産性を高めていくためには、本コラムで確認した、テレワークの経験や自分で判断して仕事を進められるようにアサインされているかといったことだけでなく、ほかにも要素があるはずだ。今後、引き続き分析し、こちらに結果を報告したい。

萩原牧子(リクルートワークス研究所/調査設計・解析センター長)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。