人事、仏に学ぶ社内の多様性を促進するには?

仏教では、相手の能力や状況などに応じて教えを説きます。これを「対機説法」と呼びます。たとえば、怠けがちな人には「もっと頑張ったらどうですか」と問いかける一方、頑張りすぎる人には「もう少し力を抜いてもいいですよ」と伝えるのです。
そのため、釈迦の教えを記録した経典などでは、互いに矛盾する点が多々見つかります。釈迦は相手に合わせて説法を変えるからです。そして、それが議論に発展したり、解釈にずれが生じて宗派が分かれたりしたことも珍しくありません。
ただ、それで構わないのです。仏教が目指すのは「悟り」という境地。そこに到達できれば、どんな言葉を使っても、どんな道筋をたどってもよいというのが仏教の考え方です。
私は、人事担当者も同じだと考えています。己のやり方や会社のやり方にこだわる必要はありません。対機説法の考え方を取り入れ、社員それぞれの能力や立場、性格などに応じ、柔軟な向き合い方を心がけることが大事なのではないでしょうか。
また、社員の個性を尊重し、互いに調和できる環境を整えることも必要です。仏説阿弥陀経という経典には「青色青光(しょうしきしょうこう)黄色黄光(おうしきおうこう)赤色赤光(しゃくしきしゃっこう)白色白光(びゃくしきびゃっこう)」という一節がありますが、これは「青い花はあるがまま青く光ればよい」、つまり、人は自分のあるがままの状態で存在感を放てばいいと語っています。同時に、それぞれが個性を発揮し、そのうえで調和する状態が理想だと教えているのです。つまり、ダイバーシティ&インクルージョンという考え方そのものではないでしょうか。
極楽は、互いが光らせ合う世界だといいます。なぜそれが可能かといえば、光には実体がないからです。実体、すなわち「我」が強いと、光を吸収して互いに光らせ合うことができません。一方、我を捨てて他者を尊重すれば、光を無限に反射して光り輝く組織を作ることができると、私は考えています。
企業にも、こうした考え方が通じると思います。社員が1つの色に染まる必要はありません。青く光る社員も黄色く光る社員もいていいし、彼らを調和させることで理想的な組織を生み出すことができるのです。

Text=白谷輝英 Photo=平山諭

藤岡善信氏
浄土真宗本願寺派僧侶
Fujioka Yoshinobu 2000年、お酒を飲みながら法話が聞けるバー「VOWZBAR」を東京・四谷で開店。「坊主バンド」の作詞・作曲・ボーカルとして音楽活動も展開しており、2018年には「善念」名義でソロアルバムをリリースした。著書に『大切な人を亡くしたあなたへお坊さんの話49』がある。