人事、仏に学ぶ個人のパフォーマンスを高めるには?

人事は個人に成果を出してもらうため、さまざまな取り組みをしています。ところが、そのなかには仏教の考えと相反するものもあります。
仏教には「縁起(えんぎ)」という言葉があります。これは、全てのものごとが互いに関連し合って存在しているという考え方です。
私は先日、60代男性の葬儀を執り行いました。残された奥さんは、単に旦那さんを亡くしただけではありません。旦那さんと一緒にいたからこそ生まれた感情や、相手にかける言葉も失ってしまったのです。誰かを亡くすことは、その人との関係性にとどまらず、自分自身の一部も失うことであると、仏教では考えます。
会社組織も同様で、社員が1人いなくなると組織全体の雰囲気が変わり、ひいてはパフォーマンスにも影響が出ます。ですから、もし人事が個人のパフォーマンスを高めたいなら、一人ひとりにフォーカスするのではなく、その人を取り巻く組織全体が元気になる方法を考えるべきでしょう。
また、各自に目標を設定させ、達成者に報酬を与える手法からも脱却する必要があります。こうしたやり方は、「今・ここの否定」をもたらすからです。多くのビジネスパーソンは、「私はこうなりたい」と目標を設定し、努力してそこに近づくことが「成長」だと考えています。逆にいえば、今の自分自身に足りない部分があるという欠落感に苦しんでいるのです。これは、決して幸せな状態ではありません。
仏教の教えは、「抜苦与楽(ばっくよらく)」の四文字に凝縮できます。「楽」は怠けたり快楽に耽ったりするのでなく、何にもとらわれない自然体のこと。つまり、思い通りにならない苦しみから離れて自然に生きることが、本来あるべき姿だと説いているのです。
未来の社会では技術が進化し、危険な作業や単調な仕事などが劇的に減るでしょう。すると人類は労働から解放され、「苦しみの対価として報酬を得る」という現在のあり方も、大きく変わるはずです。そのとき人事に求められるのは、社員が自然体で「ワーク・アズ・ライフ」としての仕事に取り組める職場を作り上げることではないでしょうか。

Text=白谷輝英 Photo=平山諭

松本紹圭氏
浄土真宗本願寺派光明寺僧侶
Matsumoto Shoukei 2010年、IndianSchool of BusinessでMBAを取得。超宗派仏教徒ウェブサイト「彼岸寺」(higan.net)の設立者、お寺カフェ『神谷町オープンテラス』の運営者でもある。2013年には、世界経済フォーラム(ダボス会議)のYoungGlobalLeaderに選出された。