HR Technology 2021RPA(業務自動化)プラットフォーム

06_map.jpgRobotic Process Automation
代表的なサービス

RPA(Robotic Process Automation)は、人間の代わりに業務を行う自動化ツールのことで、主に人間がデスクワークで行う定型業務をパソコン上のソフトウェア型ロボットが代行および自動化する技術を指す。RPAプラットフォームは、プログラミングなしで、直観的な操作が可能なインターフェイスで、ロボットの作成、実行、運用管理の機能を1つのシステムで行うことができる。「プラットフォームツール」に分類される。
ロボットに代行させる作業(ワークフロー)は、主にクリックやデータ入力といったマウスやキーボードの操作の画面をシステムが自動記録するレコーディング機能で作成する。そしてユーザーがマウス操作のドラッグ&ドロップでフローチャートにアクティビティ(ロボットに行わせる動作)を追加し、ワークフローを編集し、業務を自動化するためのシナリオを作成する。人事関連では、具体的には下記のサービスがある。

  • AWS(Amazon Web Services)の一環として2020年からベータ版を提供しているRPAプラットフォーム。スプレッドシート形式のデータベース「Tables」、アプリ画面を組み立てる「Builder」、通知やデータ操作の自動化を行う「Automations」で構成している。タスクリストや出退勤のアプリケーションなどを手軽に作成できる(Amazon Honeycode)。

  • インテリジェンスオートメーションプラットフォーム「Automation 360」を提供する。自動化対象業務の検出と文書化をする「Discovery Bot」、自動化を実行する「RPA Workspace」、AIによる高度な文書処理をする「IQ Bot」、ロボットの稼働状況をリアルタイムで可視化するビジネスインテリジェンス(BI)ツール「Bot Insight」、業界初のロボットマーケットプレイスである「Bot Store」がある。業務の画面操作をレコーディングしてワークフローを自動生成する。マウス操作のドラッグ&ドロップで編集し、複雑なロボットも効率的に作成できる。Bot Storeから音声のテキスト変換や画像解析など1,000種以上のロボットのパーツを無料でダウンロードできる(Automation Anywhere)。
  • 人事、経理、サプライチェーン、カスタマーサービス業務を自動化するRPAプラットフォーム。人事業務では、応募書類からのデータ抽出、応募者と求人とのマッチング、面接日時を調整するメールの送信、360度評価の回答依頼メールの送信と回収、人事やIT関連の退職手続き、人事情報システム(HRIS)のデータクリーニング、新入社員のコンディションを測るアンケート調査の送信と回収などを自動化できる(Catalytic)。

  • 業務アプリケーションを構築・運用するためのプラットフォーム。ワークフローの自動化ツール「Power Automate」を提供する。Power Automateは、Office 365、Slack、GitHub、Facebook、Salesforceなど数十種類のサービスと社内システムをつなぎ、自動化されたプロセスを作成する。企業は、「特定のキーワードに関する新しいツイートがあったらメールを送信」「新しいドキュメントの承認を開始し、Teamsを使用して通知」といった多数のテンプレートを活用することで、自動ワークフローを素早く効率的に作成できる。ロボットの開発は不要である(Microsoft Power Platform)。

  • パターン化した業務の流れを検出するプロセスマイニングツールの世界最大手。プロセスマイニングとは、従業員がシステムを利用して行う様々な業務活動のログデータを分析して、業務を整理し、処理パターンを可視化する手法である。RPAの導入に適した業務を洗い出し、導入効果を高める。ドイツ発祥の企業。顧客は、Siemens、ABB、BMW、Uberなど700社超である(Celonis)。

人事との関連性

RPAは、面接日程の調整、新入社員のIT機器の手配等の入社手続き、勤怠管理、給与や賞与計算、労働時間の計算、住所や家族情報等の人事データの更新、通勤交通費の申請内容の確認、有給休暇の取得促進メールの送信など、様々な人事業務を自動化できる。具体的には、内定者の情報を採用管理システムからダウンロードし、社会保険など入社手続きに必要な人事情報を追加して、人事基幹システムにデータをアップロードする業務などの自動化に、RPAが活用されている。
RPAの導入によって、企業は事務処理の時間を短縮でき、業務を効率化できる。人手不足の改善、人件費などのコスト削減、データの入力間違いといった人為ミスの防止などのメリットもある。従業員は、コミュニケーション業務や創造性が求められる業務など、人間にしかできない付加価値の高い業務に集中できる。

サービス例

1.UiPath

自動化が可能な業務領域の発見、ロボットの開発や運用管理など、人間とロボットの協働をサポートするRPAプラットフォーム。PC画面上の操作を自動的にアクティビティとしてレコーディングし、ワークフローのプロセスを文書化する「UiPath Task Capture」、ロボットに代行させるアクティビティ(動作)をフローチャートにドラッグ&ドロップで追加し、自動化ワークフローを編集する「UiPath Studio」、ロボットの実行方法を選択する「UiPath Robots」、ロボットの稼働状況を管理する「UiPath Orchestrator」といった製品で構成している。企業は、100社以上のUiPathの提携企業が提供する既存のAIスキルの中から、ドキュメントを読む、テキスト内容を認識する、自然言語で表現されたテキストを理解して対話するといった処理をドラッグ&ドロップでロボットに実装できる。

2019年時点で世界のマーケットシェアは1位(Gartner)、日本では2020年の大手企業におけるRPAの浸透率で1位(MM総研)である。世界のユーザー数は75万人以上で、Fortune10の8割が顧客である。ルーマニア発祥の企業。ロボットを拡張した際の監視や管理を一元化できることや、ユーザーにとって扱いやすいことが企業に高く評価されている。業務自動化によるコストと時間の削減効果を数値化する機能も備える。
導入環境は、社内のサーバーにインストールして開発、実行、運用する「サーバー型」、PCにインストールしてロボットを稼働させる「デスクトップ型」、ウェブ上のクラウドにあるRPAツールを利用する「クラウド型」の3種類を提供する。

採用業務におけるRPAの活用例の1つは、応募者のスクリーニングの自動化である。ロボットがHRMS(人材管理システム)上にログインし、各応募者の履歴書の経歴やスキルをもとに応募条件を満たしている応募者をショートリストに登録する。判断が難しい場合は、ユーザーに判断を求める。ユーザーが履歴書を確認後、応募条件を満たしていることをロボットに伝えると、ロボットは各応募者のページに自動スクリーニングであると記載する。
顧客は、ファミリーマート、KDDI、東京エレクトロン、日本通運、住信SBIネット銀行、伊藤忠商事、三越伊勢丹ホールディングス、サイバーエージェント、田辺三菱製薬、別府市、加賀市、Siemens Mobility、EY、Capgemini、LG Uplus、Bank Mega Indonesiaなど。田辺三菱製薬は、新薬創出の時間と費用を捻出するための業務生産性改革として、2018年から総務部が中心となり、人事、経理、ICT部門とともにRPAの本格導入を始めた。2019年6月時点で、約3000時間の業務時間の削減に成功した。特に高い効果が見られたのは12カ国に展開する海外駐在員の経費精算業務で、RPA化で500時間の削減ができた。

2.Blue Prism

Blue Prismは、英国発祥のRPAの老舗ベンダーである。AIを組み込み、従来のRPAの枠を超えて、あらゆる業務プロセスを自動化する「インテリジェントオートメーション」を提供する。大手企業向けの全社統括管理型のRPAツールで、社内の各事業部門に分散しているロボットを一元管理できる。PCの操作画面のスクリーンショットを記録し、特定のボタンのクリックやパスワードの入力といった手順を自動的にテキスト化する「Capture」、マウス操作のドラッグ&ドロップで自動化ワークフローを構築する「Design Studio」、ロボットを制御する「Cloud IADA」などで構成している。請求書や注文書などの文書からデータを識別・抽出する「Decipher IDP」も提供する。

学習により、1つ以上のタスクやプロセスを実行できる自律型ソフトウェアロボット「デジタルワーカー」を備える。デジタルワーカーは、様々な情報源からデータを取り入れて有用な知見を得る、視覚情報をデジタルで読み出して理解・説明する、システム上の課題を人間の介在なしに解決する、進化するプロセスパターンに適応し、データセットから文脈の意味を読み取る、ワークフローと仕事量を最適化して事業成果を高めるための機会を見出するという、自動化に使用する6つの基礎AIスキルを備える。具体的には、オンライン会議の内容をリアルタイム翻訳、ビッグデータから過去の調査データやBI分析を自動的に抽出する全文検索&テキスト分析を行うことができる。カスタマーからの問い合わせのメールや音声メッセージから感情を推測し、分類・エスカレーションすることも可能である。

マーケットプレイス「Blue Prism Digital Exchange」で、MicrosoftやGoogle、IBMが提供するAI機能への接続部品を購入し、画像認識、文字認識、自然言語処理といったAI機能をロボットに簡単に組み込むことができる。
Blue Prismは、サーバー型、パブリッククラウド型、プライベートクラウド型、ハイブリッド型(実行環境はサーバー型、管理機能はクラウド)の4種類を提供する。ライセンス料がかかるのは実行環境のみで、最大同時実行ロボット数に応じる(1ロボットあたり年間120万円)。開発環境やテスト環境は課金の対象外となっている。

顧客は、Walgreens、BNY Mellon、Commerzbank、ING、Maersk、Nokia、Procter & Gamble、ディー・エヌ・エー、日本IBM、日本航空、富士ソフト、NECネクサソリューションズなど。ディー・エヌ・エーは、労務管理分野にRPAを導入し、多大な成果を上げた。正社員、契約社員、アルバイトなど、雇用形態別に労働時間をモニタリングする「労働時間モニタリングロボ」を開発し、毎月316時間分の作業を自動化している。

ビジネスモデル(課金形態)

企業は、サービス事業者に、業務を自動化するRPAの初期費用(無料の場合もある)や月額または年額利用料を支払う。
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今後の展望

Gartnerの調査によると、世界におけるRPAソフトウェアの売上高は、2021年には18億9,000万ドル(前年比19.5%増)に達する見込みである。世界の大手企業の90%が「2022年までに何らかの形でRPAを導入する」と予測している。
日本国内でもRPAの普及は進んでいる。2019年時点での企業のRPA導入率は47.5%であったが、労働生産性を向上させるRPAの認知度が向上していることから、導入は急速化すると見込まれる。アイ・ティー・アールの調査では、RPAを導入済みの企業に対し、今後の展開計画を聞いているが、49%が「ロボット数や適用範囲を拡大する予定だが、思うように進んでいない」と答えている。その理由は、「ロボットの開発ができる人材が不足している」「ロボットの運用管理ができる人材が不足している」と、人材不足の課題が浮き彫りになった(RPA利用動向調査2020)。
RPAのベンダーはプログラミングなしで利用できる製品だと謳っているが、実際には変数や関数といったプログラミングの基礎知識を必要とすることも多いようである。現段階では、RPAを活用できない顧客も多く、使いこなすための支援が求められている。製品の開発スピードが速く、顧客の期待に沿った、操作が容易な製品の開発が進むことで市場の拡大が見込まれる。

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