HR Technology 2019-2020【Tech Stack Interview】Spectrum ジェニファー・トレーシー氏(リクルーティングソリューションズバイスプレジデント)

ジェニファー・トレーシー氏は、採用ソリューションの選択について社内の各事業ユニットにアドバイスやサポートを提供している。Spectrumがどのように採用テクノロジー製品を使い分けているのか、同氏に語っていただいた。

【Spectrum】米国Charter Communications傘下のケーブルテレビ(CATV)事業部門。インターネットサービスや固定電話サービスなども提供する。2016年にCharterがCATV大手のTime Warner CableとBright House Networksを吸収買収。3社の通信サービスを「Spectrum」ブランドに統一した。年間の応募者数は100万人超で、採用人数は約4万人。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン TEXT=杉田 万起

採用ステージ別のテクノロジー

Q テックスタックについて、ATS(応募者追跡システム)やCRM(採用候補者管理システム)はどの製品を利用していますか?
ATSはKenexa BrassRing[1]を利用しています。CRMはTalentBrew[2]SmashFly[3]Avature[4]の3つを用途によって使い分けています。2016年に3社が合併したときに、TalentBrewでキャリアサイトを制作しました。Avatureでは、私たちの課題の1つであるダイバーシティ&インクルージョンを促進するため、主にエグゼクティブ、なかでも女性やマイノリティ人材のデータベースを構築しています。多様な候補者のリストを細かくトラッキングできるのが特長です。

Q 採用マーケティングやソーシングに利用している製品はありますか?
顕在層に対してはTalentBrewを、潜在層にはSmashFlyを使ってそれぞれメール配信キャンペーンを多数展開し、人材の情報を収集しています。タレントネットワークフォーラムなどの機能も利用しています。

Q エンゲージメントや人材供給パイプラインマネジメントに利用しているBrazen[5]とHireVue[6]の活用方法を教えてください。
年間で約1万5,000人を採用するセールス&マーケティング部門が、Brazenを使ってバーチャルキャリアフェアを実施し、最高20人の求職者とグループチャットを行っています。とても機能的です。HireVueについては、2018年に求職者が自身のユニークなストーリーについて語る「自己紹介」ビデオを弊社のキャリアサイト経由で提出する仕組みを開始し、約40人を採用しました。今後もこれをどう拡大、最適化し、採用を促進するか、工夫し続けるつもりです。HireVueは、ダイレクトセールスチームとSMB(中小規模企業)担当チームがアセスメントと面接にも利用しています。採用部署のマネジャーの時間が最適化され、人材獲得にとても効率のよい手段となっています。

Q ほかに選考・アセスメントに利用している製品はありますか?
Shaker International社のアセスメントサービス「Virtual Job Tryout」[7]とHireVueです。合併した3社が当時唯一共通で利用していたベンダーはSHL[8]でしたが、モバイルプラットフォーム向けに最適化されていませんでした。 そこで、2018年にSHLも加えたRFP(提案依頼書)によるコンペを実施し、最終的に最も機能的で高度なモバイルアプリケーションプラットフォームを持つShaker社を選びました。現在、弊社のキャリアサイトへのトラフィックの約70%が携帯端末経由です。

Q 何種類の採用テクノロジー製品を利用していますか?
21~30です。現在、Kenexa Onboard[9]の導入を進めているところです。

Q 独自のテックスタック構築からどのような効果を得られましたか?
採用コストの削減です。

Q 採用テクノロジーの年間予算はどのくらいですか?
100万ドル台半ばです。採用マーケティングの予算は含んでいません。

プロフェッショナルを結集したTA部門

Q 年間の採用人数を教えてください。
約4万人です。正式なリクルーター225人に加えて、さらに約600人が何らかの形でこの採用に関わっています。

Q TA(Talent Acquisition)部門にはリクルーター、ソーサー、フルライフサイクルリクルーター、オペレーション、アナリストなど様々な職種の人々がいるようですね。
事業ユニット別にリクルーティングシニアディレクターがいます。リクルーターは、リクルーター1~3と3階層に分かれています。リクルーター3はリクルーティングリードです。ソーサーも2階層あります。さらに、プロジェクトマネジャーや、セレクションおよびアセスメントコンサルタント、セレクションリーダーもいます。セレクションおよびアセスメントコンサルタントとセレクションリーダーは、両者ともI/O(産業・組織)心理学者です。採用マーケティングチームは、ソーシャルメディアおよび採用ブランディング担当ディレクター、マーケティングスペシャリスト、コンテンツスペシャリストで構成されています。コンテンツスペシャリストは、ジョブデスクリプションをリライトし、ソーシャルメディアに投稿するコピーの文章やニュースレターの文章を最適化するのが仕事です。

Q コンティンジェント従業員の採用は、全体の中でどのくらいの割合を占めていますか?
10%未満です。コントラクターの人数は約3万~4万人です。コンティンジェントの採用もTA部門の管轄です。

面接日時を自動調整

Q 現在自動化を進めている採用プロセスはありますか?
スケジューリングです。Montage[10]の面接日時自動調整機能をKenexa BrassRingに組み込んでいます。面接のスケジューリングの自動化が本当にうまくいくのかどうか興味深いです。これですべての問題が解決されるという見方もありますが、私の場合、1カ月前には翌月の予定のほとんどが埋まってしまいます。自動化した場合、システムが空き時間を正確に特定できるのか、それともタイムラインが長すぎて日程を自動調整できず、結局人間によるマニュアル作業に戻らなければならないのか、そこが気になります。

Q 自動化されないと思う採用プロセスは何ですか?
身元照会です。理由は、州によって法律が異なるためです。州政府の管轄から外し、全米レベルで統一できるといいのですが、様々な事情が絡んでいるため、ユニバーサル化するのは不可能でしょう。

[1]Kenexa BrassRing:製品名は「IBM Kenexa BrassRing on Cloud」。興味喚起から選考、採用、定着までを網羅した統合人材採用ソリューション。複雑な組織のニーズに応じて、部署別に人材募集ページを簡単に制作できる。募集人員や応募状況、社内公募についての問い合わせなどが一目で分かる。
[2]TalentBrew:TMP Worldwideの採用マーケティングソフトウェアプラットフォーム。360度カメラを利用したオフィス内のバーチャルツアー、採用情報の高度検索、求人やその他新着情報のプッシュ通知といった機能を備えるキャリアサイトを制作できる。ATSに保存した採用情報は同サイトに自動掲載される。ウェブページは企業の採用担当者が自ら制作し、掲載コンテンツを管理できる。
[3]SmashFly:AIを活用した総合採用マーケティングプラットフォーム。ATSに入力した採用情報が自動的にジョブボード、キャリアサイト、SNSなどに掲載され、応募者のトラッキングや採用ブランディングが簡単にできる。
[4]Avature:グローバル人材獲得および人材管理のためのSaaSプラットフォーム。地域や部門など企業のニーズに合わせて柔軟に仕様を変更できる「Avature CRM」が代表的な製品。インターンやエグゼクティブなど対象者別のランディングページやマイクロサイトを簡単に制作できるCMSや、そのリンクを採用情報とともにSNSに投稿する機能を備える。アナリティクス機能で訪問者数や登録者数などの効果も測定できる。
[5]Brazen:企業向けチャットソフトウェア。キャリアサイトや求人広告にチャット専用ランディングページのリンクを掲載し、求職者とチャットできる。バーチャルキャリアフェアなどのオンラインイベントで、候補者がリクルーター、従業員アンバサダー、採用部署のマネジャーと事前に決められた日時にグループチャットで交流する機能もある。
[6]HireVue:ビデオ面接システム。求職者はPCや携帯端末で企業からの質問に対する回答を録画し、提出する。ライブ形式の面接も可能。AIと神経科学で求職者の表情、言葉、ボディランゲージを解析し、今後のパフォーマンスを予測する。
[7]Virtual Job Tryout:実際の仕事内容と類似したタスクを求職者に体験させ、ゲームのようなテストで即戦力となるスキルや知識を見極める。
[8]SHL:実際の仕事の場面を模した状況判断シミュレーションといった行動アセスメント、意欲やリーダーシップスタイルや仕事上の価値観などを測る性格適性テスト、弱みや強みや就職の準備度を把握する認知能力テスト(言語力、計算力、推論能力、読解力など)を提供。
[9]Kenexa Onboard:製品名は「IBM Kenexa Onboard on Cloud」。新規採用者の入社手続きをペーパーレス化することで、入力ミスや手間を減らし、コンプライアンスを強化するオンボーディング促進システム。「Form I-9」(就労資格証明書)を電子申請すると、米国での就労資格を確認する国土安全保障省のオンラインシステム「E-Verify」に情報が自動提出され、同省および社会保障局のデータと照合できる。
[10]Montage:録画およびライブ形式の面接プラットフォーム。求職者はビデオ、SMS、音声で事前に設定された質問に答える。AIアシスタントが、自然言語処理技術を活用し、候補者、マネジャー、リクルーターとメールやSMSで面接日時を自動調整するスケジューリング機能も備える。20カ国語に対応。

Profile

ジェニファー・トレーシー氏(Jennifer Tracy)
Spectrum Vice President of Recruiting Solutions
通信会社のComcastやBright House NetworksでTalent AcquisitionのDirectorおよびSenior Directorを務めたのち、Sr. Director of Talent Acquisition としてSpectrumに転籍。2018年に同社のVice President of Recruiting Solutionsに就任。