HR Technology Trends世界の人事が注目する「HRテクノロジー」とは?

リクルーティングからタレント・アクイジション(TA)へ

「HRテクノロジー」の中でも最も大きな領域の1つが、タレント・アクイジション(Talent Acquisition、有能な人材の獲得)である。
欧米企業の人事を取り巻く環境はここ数年で急速に変化している。たとえば10年前、採用部門の担当者と名刺交換をすると、その役職名は「リクルーティング××」が多かったが、5、6年前には「タレント・アクイジション××」へと名称が変わり、その役割も大きく変化した。空いたポジションに募集をかけて最適な人材を採用して配置するという受け身の前者に対して、後者は、自社のブランド力を高め、必要とするタレントを定義し、クラウド上にある膨大な情報に対して、さまざまな「HRテクノロジー」を駆使して、積極的にタレントにアプローチする。採用部門は、常に感度を高く持ち、状況に応じて採用プロセスを変えている。また、次々に登場する新しい手法を駆使するなど、戦略的なポジションへと進化している。

人事部門では、膨大な人事情報を人事管理システム(Human Resource Management Systems:HRMS、Human Resource Information System:HRIS)で一元管理している企業が多いが、近年はマスターデータと「HRテクノロジー」の専門サービスとの融合も進んでいる。採用、育成、給与管理、労務管理、行動管理、勤怠管理、アセスメントなど、人事が関わる一連の業務データの詳細分析や、人材のトータルマネジメントシステムの進化も加速している。
一方で問題もある。CareerXroads社がグローバル人事責任者を対象に行った調査によると、人事から最も多く挙がった懸念は、「『HRテクノロジー』やサービスの多さに圧倒されている」というものだった。「次々に発表されるツールを把握し、使いこなすのが非常に難しい」という。同社共同代表のジェリー・クリスピン氏は、「『HRテクノロジー』を分類し、質やコスト、人事にとっての使いやすさなどを見極める必要がある」と述べる。

HRテクノロジーのサービスは"28種類"

約14万あるといわれる膨大な「HRテクノロジー」のサービスにはどのようなものが存在するのか、弊所グローバルセンターのリサーチチームでは、デヴィッド・クリールマン氏(クリールマン・リサーチCEO)、ジェリー・クリスピン氏(CareerXroads共同代表)、ジョナサン・ケステンバーム氏(Talent Tech Labs:TTL、エグゼクティブ・ディレクター)をはじめ多くの専門家に協力していただき、その把握を試みた。
新しい分野のため、先行文献や研究論文などはないが、たとえばTTLでは米国の約1,500件のサービスを分類した「Talent Acquisition Technology Ecosystem」を公開し、状況変化に応じて3カ月に1度の頻度で更新している。当初の目的は混沌とした領域の整理であったが、サービス領域が多岐にわたること、新サービスの発生や撤退、業態の変更、頻繁なM&Aなどからも精緻な把握は困難で、エコシステムは不完全なままである。他にもエレイン・オーラー氏、ウイリアム・ティンカップ氏、カイル・ラグナス氏、ジョン・サムザー氏などがエコシステムを考案している。
グローバルセンターでは、前出のエコシステムを参考に、約1,000件のサンプル企業から各サービス内容をすべて見直し、人事の視点かつ日本の外部労働市場を考慮し、再分類を試みた。
結果、「HRテクノロジー」のサービスを、2016年10月の時点では「28種類」に分類した(図を参照)。たとえば、日本に多い新卒採用の分野などを追加している。私たちが普段活用している「HRテクノロジー」はほんの一握りにすぎないことが分かった。

図 HRテクノロジーマップ

※クリックすると拡大item_ttl_hrtech_00_TTL_ESMjpCircle1200.png出所:TTL "Talent Acquisition Technology Ecosystem"を基に再分類し筆者作成(2016.10)

HRテクノロジーマップは、2つの軸から成る。横軸は、1)ソーシング(候補者の発掘)、2)エンゲージメント(最適な人材を選ぶ)、3)採用(採用の事務的なプロセス)というタレント・アクイジション(人材獲得)の3つのステージを表している。縦軸は、4)求職者寄り(個人)のテクノロジーと、5)企業寄りのテクノロジーを表している。求職者と企業の両者にサービスを提供しているものもあるため、厳密な線を引くことは難しいが、サンプル企業のサービス提供の状況をみて分類した。ここでは、縦軸と横軸とで6つの大きなグループに分け、さらにそこから28種類のサービスへと分類した。内容は下記のとおりである。

28種類のHRテクノロジー
Aグループ 「求職者(個人)寄り」×「ソーシング」テクノロジー
01. Career Advice and Coaching キャリアのアドバイスやコーチング
02. Social CV and Resume Builder 効果的なレジュメ作りをサポート
03. Job Search Organizer 求人情報や応募手続きを一括管理
04. Social Networks SNSを利用した求人・求職活動をサポート
05. Employer Reviews 企業に関する口コミ情報や評価
06. Referral Tools リファラルプロセスを自動化

Bグループ 「求職者寄り」×「エンゲージメント」テクノロジー
07. Video Interviewing 録画やライブで面接を効率化
08. Interview Management Tools 面接日時・工程を管理する面接管理ツール
09. Crowd Sourced Recruitment 多数のフリーランサーに業務を分割して委託
10. Matching Systems 募集要件と求職者をマッチング

Cグループ 「企業寄り」×「採用」テクノロジー
11. Vendor Management Systems 非正規労働力を管理
12. Freelance Management Systems フリーランサーを管理
13. Recommendation and Reference 候補者の身元照会や信用調査を代行
14. ATS-Staffing Companies スタッフィング会社用の応募者追跡システム

Dグループ 「企業寄り」×「ソーシング」テクノロジー
15. Job Boards 求人・求職サイト
16. College Recruiting 新卒採用に特化したサービス
17. Job Marketing and Distribution 複数のジョブボードに求人情報を一括掲載
18. Job Board Aggregators オンライン上の求人情報を集約する検索エンジン
19. Social Search オンライン上の情報から人材を評価して候補者を発掘
20. Candidate Relationship Management(CRM) 採用候補者を管理
21. Temporary Labor Marketplace 高度専門職、フリーランサーへの業務委託
22. Brand Creation and Management 企業の採用ブランド構築および運用サービス

Eグループ 「企業寄り」×「エンゲージメント」テクノロジー
23. e-Staffing 専門職などの採用候補者を厳選してショートリストを作成
24. Recruitment Marketplace 企業とリクルーターや人材紹介会社の関係をサポート
25. Psychometric Assessment 採用候補者の心理や性格特性を測定
26. Skill Assessment プログラミングなど職種特定のスキルを測定
27. Resume Parsing Software 求職者のレジュメを解析

Fグループ 「企業寄り」×「採用」テクノロジー
28. ATS-Corporations 企業人事向けの応募者追跡システム

本コラムでは、はじめに28種類の「HRテクノロジー」について、どのようなサービスが存在するのか、サービス内容、ビジネスモデル、主要なサービス事業者などのポイントを解説する。次に、人事が注目している「HRテクノロジー」について有識者の意見や、人事責任者を対象としたテクノロジーの認知度調査の結果を紹介。「HRテクノロジー」の現状について考察する。

グローバルセンター
村田弘美(センター長)

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