世界の最新雇用トレンドデジタル社会における、人材サービス会社の成長機会

2022126日から7日にかけて、Staffing Industry AnalystsSIA)主催のエグゼクティブフォーラム欧州がロンドンで開催された。コンファレンスのテーマは「デジタル社会における成長機会」。人材サービス会社のエグゼクティブ280人超が参加した。セッションは、未来学者のGerd Leonhard氏によるゲスト基調講演など計20で、内容は「候補者体験を向上させるテクノロジー活用」「労働力ソリューションのエコシステムにいるユニコーン企業」「自動化と法規制」など多岐にわたった。

本コラム前編では、世界経済のなかでの人材サービス市場を俯瞰したオープニング基調講演、「デジタル社会における成長機会」を紹介する。

拡大する人材サービス会社の役割

2013年以降、人材サービス市場が最も成長したのは中国、アイルランド、ポーランドの3カ国で、200%超成長した(図表1)。一方、英語圏の市場の成長率は低かった。

図表1 人材サービス市場の国別推定成長率(20132022年、単位:%)

図表1 人材サービス市場の国別推定成長率(2013~2022年)出所:Staffing Industry Analysts

SIAグローバルリサーチ・エグゼクティブダィレクターのJohn Nurthen氏によると、人材サービス会社全体で人気の高い海外展開先は米国、米国の人材サービス会社に人気があるのは英国やドイツ、オランダであった。人材サービス会社は実際に成長した市場とは異なる市場に関心を寄せていることがわかる。また、2050年までの人口増加が予測されている地域は、インドやパキスタン、ナイジェリア、コンゴ民主共和国などの8カ国であるが、いずれも典型的な人材サービス市場ではない。欧州の人口は2026年をピークに減少し、高齢者の割合は現在の19%から30%へ上昇すると予測されている。欧州で事業活動を行う人材サービス会社は、よりクリエイティブかつアジャイルに、人材を調達しなければならない。

必要なスキルを持つ人材を調達できない場合は、人材サービス会社が人材を育成して顧客企業に紹介することが不可欠となる。たとえばThe Adecco Groupがデジタル分野の教育研修会社であるGeneral Assemblyを買収したように、リスキリングとスキルアップは人材サービス会社の事業の一部になると考えられる。ほかにも、人材サービス会社が労働力分析や人材のつなぎとめなどを行い、採用前後における顧客企業の課題を解決するようになった。「人材紹介や派遣を意味する『スタッフィング』は、もう人材サービス会社の事業を正確に表した言葉ではなくなっている」とNurthen氏は述べた。

テクノロジーへの投資も、人によるきめ細かなサービスへの需要も継続する

世界にはインフレや内乱・国家間の分裂、気候変動対策の失敗など、市場の成長を阻害する懸念材料が複数あるが、労働市場がタイトなため、イタリアを除く各国の失業率は、22年間で最低の水準となった(図表2)。

図表2 2000年以降の国別失業率と2022年第二四半期の失業率(単位:%)

図表2 2000年以降の国別失業率と2022年第二四半期の失業率出所:OECDおよびStaffing Industry Analysts

人材サービス会社がリセッションへの備えとして行った、あるいはリセッションに入った際に行う措置を聞いた調査では、「人員を削減した(する)」企業は計43%であった(図表3)。割合が高かった回答は、「不況に強い企業・業種への営業を強化した(する)(計82%)」「事業の焦点を絞った(絞る)/収益性の低い事業を縮小した(する)(計81%)」であった。また、「テクノロジー以外のコストを削減した(する)」の計80%に対して、「テクノロジーへの投資を削減した(する)」は計37%と、不況であってもテクノロジーへの投資を継続する企業が過半数を占めた。

図表3 欧州の人材サービス会社がリセッションへの備えとして行った、あるいはリセッションに入った際に行う措置の割合(単位:%)

図表3 欧州の人材サービス会社がリセッションへの備えとして行った、あるいはリセッションに入った際に行う措置の割合出所:Staffing Industry Analysts (2022) Europe Staffing Company Survey 2022: Staffing Firm Preparations and Plans for Recession, and Tips on How to Survive a Recession If It Comes

デジタライゼーションによる自動化と合理化によって、機械が人間の仕事を奪うとの懸念があるが、現実はより複雑で、逆の例もある。たとえば英国では、2003年から2018年の間に、自動洗車機の台数が5割減の2000台になったのに対し、手洗い洗車事業者数が5割増の2万件となった(図表4)。この例は、人は経済性と効率性だけを重視するわけではなく、人の手による丁寧な仕事を好む場合があることを示している。

図表4 2003~2018年の英国における自動洗車機の台数と手洗い洗車事業者数の変化

図表4 2003~2018年の英国における自動洗車機の台数と手洗い洗車事業者数の変化出所:The Atlantic Magazineおよび2018年議会委員会

人材サービス業界でも同様で、企業や求職者は求人・求職活動にプラットフォームを利用することもできるが、リクルーターによる丁寧なサービスへのニーズはなくならない。ただ、「顧客企業は人材サービス会社の違いがわからないため、価格設定で選定せざるをえない」とNurthen氏は指摘した。裏を返せば、人材サービス会社は他社との差別化を図ることで、価格を下げずに顧客を得ることができる。たとえば、英国では賃金といえば週払いが主流だったが、日払いやオンデマンド払いの選択肢もできた。さらに、スペインの人材派遣会社Jobandtalentは、「前払い」という極端な選択肢を計画している。このように、賃金の支払いスピードと柔軟性が、人材サービス会社の差別化要因になる可能性がある。

スキルギャップの拡大により、人材サービス業界の見通しは明るい

図表5は、1440年から2030年までのテクノロジーの発展と人間の適応力の変化を示したものである。1990年代後半に、「テクノロジー」の変化が「人間の適応力」を追い越したことがわかる。テクノロジーが人間の適応力を上回ったときの2つの線の乖離部分が「スキルギャップ」である。テクノロジーは指数関数的に成長することから、今後もスキルギャップは拡大し続けると考えられる。つまり、企業がスキルの高い人材を見つけるのが難しい状態が続くため、人材サービス業の長期的な安定したニーズを示唆している。

図表5 テクノロジーの発展と人間の適応力の変化

図表5 テクノロジーの発展と人間の適応力の変化出所:Barclays Equity Gilt Study (2018) およびThomas Friedman “Thank You for Being Late”

Nurthen氏は、「今後、世界経済に何が起ころうとも、人材サービス業界がなくなることはないだろう。見通しが明るいこの業界の役割は、顧客企業に適材を見つけ、人材が有益な雇用を得られるよう支援することである」と締めくくった。

取材=坂井裕美、翻訳=平松理恵、TEXT=石川ルチア