世界の最新雇用トレンドデジタル化でアップスキリングとリスキリングが必須な近未来

2022年3月1日から3日にかけて開催された、Staffing Industry Analysts(SIA) 主催のExecutive Forum North America。ここでは、SenseのPankaj Jindal氏によるチャットボットについてのプレゼンテーション、LinkedInのGreg Brasher氏による未来のスキルについてのプレゼンテーション、そして、基調パネル「リーダーシップとスタッフィングの未来」について紹介する。

AIチャットボットを利用して採用過程を効率化する

Sense共同創業者 Pankj Jindal氏Sense共同創業者 Pankj Jindal氏

初日の同時進行セッション「考えを実行に移す」枠で行われたSense共同創業者のPankaj Jindal氏のプレゼンテーション「AIチャットボットがボトムラインをターボチャージし、候補者の経験を変革する」では、同氏はAIチャットボットの種類と機能を説明し、企業がAIチャットボットを導入することでどのようなメリットを得られるかについて事例を交えて詳述した。

Jindal氏によると、チャットボット=バーチャルアシスタントは、テキストメッセージや音声を通して、人と会話ができるAIベースのプログラムで、人間と同じように言葉を理解できる。チャットボットは大きく5つの種類に分類される。

1つは、ウェブサイト・チャットボットで、これは年中無休で候補者とコネクトでき、候補者経験を向上させることを可能とする。医療従事者などシフト制で忙しく働いている人は真夜中にしか時間がない場合があるが、そういう時でもチャットボットを利用することで、真夜中でもリクルーターを介さずに会話ができる。チャットボットでは20~30秒の間に多くの情報を得ることができるため、リクルーターは後で内容を確認して、候補者の都合の良い時間に連絡を取り、候補者の要求に応える。この種のチャットボットはエクスポジションのブースなどでも利用されている。

2つ目はスクリーニング・チャットボットといわれるタイプである。リクルーターの労働時間の7割は、候補者へのリーチングやスケジューリング、資格認証や事前審査の確認などに費やされているが、これらはチャットボットを利用することですべてオートメーション化が可能である。どの産業においても応用して使え、職種、仕事内容に応じてカスタマイズできる。

3つ目はスケジューリング・チャットボットである。リマインダーやスケジュールの変更を自動的に実行し、候補者経験の向上とリクルーター業務の削減を手助けする。

4つ目はリアクティベーション・タレント・チャットボットといわれるもので、これは休止状態の候補者を活性化するのに使われる。チャットボットが1日に数千人の候補者にリーチすることで、不足している情報を補完し、候補者プロフィールの充実化を可能とする。

最後の1つはFAQチャットボットで、候補者の一般的な質問に回答するタイプである。企業の方針やブランドに合わせてカスタマイズできる。

Jindal氏は、チャットボットを導入して、候補者数を増やすとともに、リクルーターの業務を削減し、その結果、収益を拡大した企業の事例をいくつか紹介し、チャットボットの4つの機能を説明した。
1つ目の機能は消極的な候補者のリアクティベーション、2つ目は応募段階の効率化、3つ目は面接の迅速化、そして4つ目はオンボーディングとアップスキリングに効果的なデータベースの充実化である(図表1)。

図表1 主なチャットボットの機能図表1 主なチャットボットの機能出所: Pankaj Jindal, “How AI Chatbots are Turbocharging Bottom Lines and Transforming the Candidate Experience,” 2022 Executive Forum North America, March 1, 2022.

未来に備えたアップスキリングの重要性――2025年のトップ10スキル

2日目の同時進行セッション「考えを実行に移す」枠で行われた、LinkedInグローバルアカウントヘッドのGreg Brasher氏によるプレゼンテーション「大改造の後:スキルに焦点を合わせた未来」だ。LinkedInはメンバー数8億1,000万人を誇るビジネス向けのネットワークサービスだが、実は取り扱う求人件数も年間約2億件と非常に多い(2022年3月公表の数字)。そのため、LinkedInが保有する労働市場関連のデータは膨大で、興味深いレポートを何本も発表している。LinkedInが近年のコンファレンスで幾度となく強調しているのが、アップスキリングとリスキリングの重要性である。Brasher氏が今回のプレゼンテーションで発表したのも未来のスキルに焦点を合わせた内容だった。

Brasher氏は世界経済フォーラムの「仕事の未来に関する報告書2020」(The Future of Jobs Report 2020)の内容を引用して、働く人材の50%が2025年までにリスキリングが必要となると訴える。では2025年のトップスキルとはいったいどのようなものなのか。Brasher氏が共有したトップ10スキルは以下の通りである(世界経済フォーラム「仕事の未来に関する報告書2020」より)。

  • ­ 分析的思考&イノベーション­
  • アクティブラーニング&ラーニング戦略
  • 複雑な問題解決力
  • 批判的思考&分析­
  • 創造性、独自性、イニシアティブ
  • リーダーシップ&社会的影響力­
  • テクノロジー活用、モニタリング、コントロール
  • テクノロジー設計&プログラミング­
  • 回復力、ストレス耐性、柔軟性
  • 論理的思考、問題解決力、アイデア形成

Brasher氏はこれらに加えて、コミュニケーション力も必要不可欠なスキルであると主張する。
さらにBrasher氏は今後需要が高まる職種と需要が低くなる職種を挙げて、需要が低くなる職種に就いている人は、需要が高まる職種に転換することを考えたほうがよいと示唆した(図表2)。

なお、新しいスキルをオンラインで習得するのに要する時間は、「コンテンツ制作」「セールス」「マーケティング」などで1~2カ月、「製品開発」「データ&AI関連」などで2~3カ月、「クラウドコンピューティング」「エンジニアリング」で4~5カ月と比較的短いらしい。それならば、これを機に筆者もリスキリングに挑戦するべきかもしれないと思った。

図表2 需要が高まる職種と低くなる職種図表2 需要が高まる職種と低くなる職種出所:The World Economic Forum, “The Future of Jobs Report 2020,” October 2020, shared at Greg Brasher’s session, “Beyond the Great Reshuffle: A Skills Focused Future,” 2022 Executive Forum North America, March 2, 2022.

スタッフィングの近未来

最後にスタッフィング業界のリーダーたちが参加した「リーダーシップとスタッフィングの未来」というタイトルの基調パネルの内容を簡単に紹介したい。議題のなかで最も白熱した議論になったのは人材不足による危機と、アップスキリング&リスキリングだった。SIAのBarry Asin社長は、現在の深刻な人材不足の原因について次のように語った。「人材不足は、短期的には新型コロナウイルスによるパンデミックが引き起こしたものだが、中期的にはオートメーション化が進んだ結果である。長期的な観点からみると、米国は歴史上初めて労働人口の減少を経験するという重大な局面を迎えているが、これを打開するには市場全体の破壊的な変革が不可欠である」。パネルディスカッションでは、オートメーション化やデジタルトランスフォーメーションは避けられない進化だが、それによって労働の機会が奪われると懸念する必要はなく、それよりも企業の課題は高価値の仕事を生み出すために、どうやって人材を惹きつけ、かつ、どの部分をオートメーション化するかを的確に判断することだという意見で一致した。

人材不足という現状で働き手の選択肢は増えているようにみえるが、その一方でデジタルトランスフォーメーションがアップスキリングやリスキリングの必然性をもたらしているのも事実である。デジタルトランスフォーメーションによって、リモートワークが浸透し、グローバルな労働力への需要と期待が広がっている。パネルは、企業が、消費者、働き手、クライアントが求めるものを理解して、そのためのプラットフォーム構築を進め、「ワンクリック・ワールド」ともいえるシームレスなサービスの提供が加速するだろうと、近未来のスタッフィングについての予測で議論を締めくくった。

基調パネルの参加者基調パネルの参加者:左からDISYS CEO兼創業者 Mahfuz Ahmed氏、ManpowerGroup 北米社長 Becky Frankiewicz氏、モデレーターのSIA社長 Barry Asin氏、Allegis Global Solutions社長 Chad Lane氏、Kelly社長&CEO Peter Quigley氏。

TEXT=Keiko Kayla Oka (客員研究員)