世界の最新雇用トレンドソースコン・デジタル参加報告(前編)

候補者には4回のメールが効果的。Gemが促進する戦略的な採用活動

「ソースコン」が2020年3月24日と25日に開催された。コンファレンス会場はシアトルの予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、オンライン開催へ変更された。セッション数は2日間で合計16セッション。講演者が各自事前に講演を録画し、プログラムに沿って配信する形式で、各セッションの終わりには視聴者とリアルタイムで質疑応答をする時間が設けられた。通常のコンファレンスでは、スポンサー企業は会場のエキスポに出展するが、デジタル配信においては、セッションの間や昼休みにスポンサー企業の広告が流れた。

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講演テーマは3種類に分かれていた。1つ目は、採用候補者探しのテクニックを紹介するもの。開発されたばかりのソーシングテクノロジーの使い方や、従来の探し方では見つからない人材を見つける方法を伝授する。例えば、Marvin Smith氏(Lockheed Martin、Enterprise Talent Sourcing Lead)による「候補者にリクルーティングメールを開封してもらう方法」などのセッション。

2つ目は、採用活動を俯瞰的に見て戦略を考えるもの。今後発生する求人を予測して、適した人材を採用のパイプラインに入れておくことや、ソーシングチームの構成・育成の仕方を共有する。例えば、Amybeth Quinn氏(Walmart eCommerce、 Senior Manager、Talent Sourcing)による「ソーシングの舞台監督になる」などのセッション。

3つ目は、ソーサー個人の能力開発に焦点を合わせたもの。失敗しがちなこと、生産性の上げ方、未来のソーサーに必要となるスキルなどがテーマとなっている。例えば、Amy Schultz氏(LinkedIn、Senior Director、 Product Recruiting)による「未来に向けたリクルーティングチームを作るときに必要な3つのスキル」などのセッション。

レポートの前編では、ソーシングテクノロジーに焦点を合わせる。ソーサーは、人材発掘や候補者管理をするときに、様々なテクノロジーツールを駆使している。ソーサーが活用しているのは、どのようなツールだろうか。

候補者探しに不可欠、ウェブスクレイピングツール

ソーシングでは、最初に求人に適した候補者探しを行う。ソーサーは、特定の職種やスキルを持つ人材のリストが大量に掲載されているサイトを探し、そのページの情報をスプレッドシートにダウンロードして、求人要件を満たす候補者を絞り込む。多くの人材のリストが掲載されているサイトには、職能団体の会員ページやコンファレンスの参加者リスト、GitHubのような特定の職種向けSNSなどがある。リストには、氏名、連絡先、現在の勤務先など、様々なパーソナルデータが記載されている。それらのデータを自動でスプレッドシートに抽出してくれるウェブスクレイピングは、ソーサーには欠かせない技術だ。

04_Feig氏.jpgFeig氏の講演画像

講演者のBret Feig氏(IPG Mediabrands、VP Talent Acquisition)は、数あるウェブスクレイピングツールの中から、利用するソーサーのITリテラシー別に3つのツールを紹介した。一般人レベルにはInstant Data Scraper、中級レベルにはZapInfo、プログラマーレベルにはWeb Scraperを勧めた。概要は図表1のとおりである。

図表1 3つの代表的なウェブスクレイピングツールの使い方

04_2_table薄紫.jpg出所:講演をもとに筆者作成

ウェブスクレイピングツールの機能の特徴を挙げると、Instant Data Scraperは、1つのウェブページに表示されている情報をそのままスプレッドシートに抽出する。ZapInfoは、インターネット上をクローリングして、同一人物の情報を収集する。Web Scraperは、表示しているウェブページから取得する情報や、リンク先にある情報の抽出をソーサー自身が指定する。Web Scraperが最もカスタマイズ可能だが、その分労力がかかる。Feig氏は通常、手軽なInstant Data Scraperを使い、より高度なスクレイピングが必要な場合にZapInfo、Web Scraperへとツールのレベルを変えていくという。

候補者への連絡を自動化、データ解析で戦略的な採用活動を促進するGemのサービス

04_Bartel氏.jpgBartel氏

ソーサーは、求人要件に適した候補者を絞り込むと、次は候補者に接触して求人を紹介する工程に移る。この工程のサポートをするテクノロジーの一例として、Gemが提供するサービスがある。Gemは、候補者への初めての連絡からすべてのやり取りをデータでトラッキングし、採用につながる最も効果的なタイミング、連絡回数、メッセージ内容などを明らかにする。ソースコン・デジタルではソースコン編集者のMark Tortorici氏がGEMの共同創設者兼CEO、Steve Bartel氏にインタビューを行った。Gemの製品は、ソーシングとCRM(採用候補者管理)の2つのサービス領域が主体である。

ソーシング

・ インターネット上にある候補者のメールアドレスやSNSの連絡先を洗い出す。取得したメールアドレスが宛先不明でないかを「Never Bounce」機能で確認できる。

・ Gemのデータ分析によると、電話よりもメール連絡の方が、候補者へとステップアップする確率が高く、さらに候補者へのメールを4回送ると返信率が高いという。「リクルーター・プロフィール」を使えば、4回のメール・シークエンスを自動送信できる。例えば、最初と2回目は採用担当者から、3回目は採用マネジャーから、4回目は部署長から送信する、というように異なる送信者を指定することも可能。また、以前の会話内容を次のメールに挿入することができ、自動とはいえ人間的な触れ合いが感じられるように工夫している。

CRM

・ CRMは、企業が採用候補者を人材プールの中で管理し、求人条件に応じて人材を探し出す仕組みである。Gemの製品では、長期的な人材採用に向け、データを活用して戦略的に採用活動を行える。

・ GemのCRM機能は、候補者にオファーを出すまでのあらゆるタッチポイントをデータで記録する。メール開封率、クリック率、返信率、オファーを出すまでの連絡回数などのデータ解析が可能である。それらを職務別、部署別、地域別で検証できる。データを活かし、採用までにかかる期間の逆算や、目標達成するために適切な営業チーム人数の予測といった社内運営への応用もできる。

・ 初級者のリクルーター向けの製品では、メッセージを送信するのに効果的な時間帯、返信率を高める文章の長さや内容、件名、フォローアップの頻度など、データを基にしたアドバイスをする。

・ データプライバシーに関してのコントロールが可能である。例えば、以前接触した候補者が今後自社からの連絡を拒否した場合、「Do Not Contact」リストに追加すると、新規の求人でその人が候補者として選出されても、別のリクルーターが連絡することを阻止できる。

ソーサーが対象とする人材は、過去に自社へ応募した人と、まだ自社の求人に応募したことがなく、データベースに登録がない人の両方である。そのため、あらゆる場所に散在する人材の情報源から探す必要があり、大量の情報から優秀な候補者を効率的に発掘し、かつ人間的な関係を構築するために、最適なテクノロジーを利用している。前編では、インターネット上の情報から人材を発掘するという、最も一般的な方法に焦点を合わせて紹介した。後編では、通常のソーシングでは発掘できない人材の探し方に着目したセッションを紹介する。

取材・翻訳=田村紀子、TEXT=石川ルチア