世界の最新雇用トレンドCollaboration in the Gig Economy 2019 参加報告

今や世界で3兆ドルの市場規模に成長したといわれるギグエコノミー。テクノロジーを駆使した新たなプレーヤーが市場に参入する一方で、業界内での吸収合併も頻繁で、その動向から目が離せない状況だ。Collaboration in the Gig Economyは、スタッフィング・インダストリー・アナリスト(Staffing Industry Analysts、以下SIA) が毎年開催しているコンファレンスで、ギグエコノミーの最新トレンドを紹介し、今後の見通しを予想するものだ。今年は、「タレントサプライチェーンを結びつけ、最適化する」というテーマのもと、2019年9 月10日から3日にわたってカリフォルニア州サンディエゴにて行われた。 

SIA社長Barry Asin氏による基調スピーチ

コンファレンスはSIA社長Barry Asin氏の基調スピーチ「ギグエコノミーの融合とタレントサプライチェーン」から始まり、パネルディスカッション、3つのテーマに沿った同時進行のセッション、「ギグエコノミー版シャークタンク」と称するスタートアップのコンペティションなどが行われた。また、展示会場では大手HRテクノロジー会社やスタートアップを中心とする合計32社がブースで製品を紹介していた。 

ここでは今回のコンファレンスで紹介されたギグエコノミーの最新トレンドと、見どころのひとつであった「ギグエコノミー版シャークタンク」を中心に紹介する。

ギグエコノミーの最新トレンド

まずは、SIA社長 Barry Asin氏の基調スピーチからギグエコノミーの最新トレンドを紹介したい。 

世界で39億人がインターネットへアクセスしているという現在、他社とのコミュニケーションはいつでもどこでも可能である。デジタルトランスフォーメーションは日々進化し、人の働き方からタレントとリクルーターのかかわり方まで、雇用を取り巻く世界も変わりつつある。 

SIAでは、ギグエコノミーには「個人事業主」「派遣労働者」「直用の臨時労働者」「SOWコンサルタント(*1) 」「ヒューマンクラウド」の5形態が含まれるととらえているが(*2) 、2018年の米国でのギグエコノミーの人材規模は約5,300万人、経済規模は1.3兆円にものぼるという (*3)。現在のところ、個人事業主の規模が大きいが、ヒューマンクラウドが非常に速いスピードで成長している (*4)。興味深いのは、ヒューマンクラウドの一形態とされる、オンラインスタッフィングの仕事の発注はその約40%が米国からなされているが、受注先の70%はアジアだということだ。ギグエコノミーでは、テクノロジーの利用により、国と国の間の垣根が低くなり、よりグローバルなビジネス、より多様な働き方が可能になっているのがわかる。

ギグエコノミーの5形態 2018年の人材規模

ギグエコノミーの5形態 紫_1.png

*一部重複あり
出所 Staffing Industry Analysts 2019 Gig Economy Reportに基づき作成

そして、それはスタッフィング業界においても同様である。伝統的なスタッフィング会社Randstadがヨーロッパの最大手フリーランス・マーケットプレースTwagoを買収したり、フリーランス・マーケットプレース大手のUpworkが企業とフリーランサーを結びつけるUpwork Proを設立したり、業界内の融合が進んでいるが、グローバルレベルでの吸収合併や投資も増えている。 

Barry Asin氏によると、2017年から2019年にかけて、オンラインスタッフィングやリクルーティングチャットボット分野への投資が拡大しているという。たとえば、オンデマンドスタッフィングのWonoloが2018年、シリーズCラウンドでBain Capitalから3,200万ドルの資金調達を、AIチャットボットで知られるAllyOが2019年、シリーズBラウンドでSapphire Venturesなどから4,500万ドルの資金調達を行っている。 

コボット "Sawyer"

また、最近、コラボレーティブロボット、コボットの利用が世界的に広がっている。ヨーロッパにはコボットを派遣スタッフとして派遣する事業を展開している会社もあるほか、ロボティックスあるいはロボティックス・プロセス・オートメーションも好調だ。そして、忘れてはならないのがブロックチェーンによるイノベーションだが、インターネットを利用する上で、最大の課題であるセキュリティの面で、ブロックチェーンは効果的があると期待されている。

ギグエコノミー版シャークタンク

ギグエコノミー版シャークタンクは、新規事業がそれぞれのセールスポイントを5分間で発表し、どこがもっとも優れているかをシャーク(審査員)と観客が決めるというものだ。司会はSIAのJohn Nurthen氏が、シャーク(審査員)は、Thomas Jajeh 氏(Twago)、Jody Miller氏 (Business Talent Group)、Gary Swart氏(Polaris Partners)、Fabio Rosati氏(Snag)の4名が務めた。書類選考によってファイナリストに選ばれた5社が順にプレゼンテーションを行った後、審査員と各ファイナリストによる熱のこもった質疑応答が交わされた。各社の概要は次の通り。

シャークタンク・ファイナリスト

Keeper Taxhttps://www.keepertax.com/)Paul Koullick氏

trend_写真2KeeperTax.jpgKeeper Taxは、ギグワーカーのための確定申告・会計管理ソフトウェアを開発。大手のソフトウェアよりも安価な料金で個人事業主などが節税できる工夫をこらしている。現在、利用者は5万人、4,000万ドル以上の節税を実現したという。

Parker Deweyhttps://www.parkerdewey.com/)Jeffrey Moss氏

trend_写真3ParkerDewey.jpgParker Deweyは、大学生向けのマイクロインターンシップを行う。短期プロジェクトで働く機会と、そこからインターンシップや雇用へとつなげる機会を大学生に提供する。同社が紹介する短期プロジェクトに参加することで大学生は自分に自信を持つことができ、企業は優秀なタレントの発掘が可能となる。学生は企業ではなくParker Deweyから給料を支払われる。マイクロインターンシップから雇用へつながった場合、紹介料は徴収しない。

Appjobshttps://www.appjobs.com/)Tobias Porserud氏

trend_写真4Appjobs.jpgAppjobsはスウェーデンを拠点とする、フリーランス・マーケットプレース(Uber、TaskRabbitなど)のアグリゲーター。ギグワーカーは数回クリックするだけで自分のやりたい仕事を見つけることができる。

Khonvo https://khonvo.com/)Andrew Rising氏

trend_写真5Khonvo.jpgKhonvoはリクルーターの業務を容易にするツールを展開している。Eメールの管理・分析などを行う。

F | Staffhttps://www.fstaff.com/)Justin Clarke氏

trend_写真6FStaff.jpgF | Staffは、トラック運転手専門の派遣会社。独自開発のアプリを使い、クライアントの要請に応じて、ただちにトラック運転手を派遣する。

観客の投票では Parker Dewey が選ばれ、審査員の投票ではKeeper TaxとAppjobsの2社が選ばれた。個人的には、大学生のマイクロインターンシップを運営するParker Deweyの活動がユニークで成長性が高いと感じ、同社に一票を投じた。翌朝、偶然にも同社のスタッフと朝食会場で話をする機会があったが、米国ではインターンシップ先を見つけるのに苦労している大学生が意外と多く、そのような学生にとってマイクロインターンシップはインターンシップや就職への貴重なブリッジになっているという。有名大学を出ているとか、成績が素晴らしく優秀であるといったごく一部の学生は、就職活動で有利に動けるが、残念ながらそういう学生ばかりではない。マイクロインターンシップは就職活動で出遅れた学生に、就職への機会と働く自信を提供するフィールドとなっているようだ。

シャークタンク・ファイナリストと審査員

コンファレンスを終えて

ギグエコノミーで働くことを選択する人の多くは、その理由として「柔軟性」を挙げている。「他の仕事が見つからなかった」という消極的な理由でギグワーカーになった人は少ない。Upwork、Shiftgig、MBO Partnersなどでフリーランサーとして働く人が実際の経験を語ったセッション「労働者のためのギグエコノミーを作る―ベストフリーランサーのためのベストプラクティス」のパネリストも皆、フリーランサーにとって「柔軟性」が大きなウェイトを占めており、自ら進んでフリーランサーになったと述べていた。 

今回、コンファレンスの前夜に、カリフォルニア州にてギグワーカーを保護するAssembly Bill No.5(以下AB5法案)が上院で可決したというニュースが流れた(後日、同州知事が法案に署名)。そのため、各セッションでは、同法案成立の影響について言及する声が頻繁に聞こえた。

「ギグエコノミーの拡大―今後の規制の動向」というセッションでも、複数の参加者がAB5法案成立について不安を示していたが、Camille Olson弁護士の話では、同法案には24の例外規定があり、たとえば、医療専門職、建築士、会計士、IT専門職などは同法の適用を受けないという。ただ、カリフォルニア州においてフルタイムで働くライドシェアの運転手などは適用を免れるのは難しく、ライドシェア会社の「労働者」として取り扱われ、同州の労働法典や失業保険法の対象となる可能性がある。そうすると、運転手が客を乗せずに待機している時にも賃金(最低賃金)の支払いを受け、会社規則に反した場合には解雇され得る、ということになり、会社・運転手双方への影響は非常に大きい。

気になるのは、同様の法律が他州でも成立するかどうかという点だが、すでにニューヨーク州では複数の労働保護団体が結束し、類似の法律の成立を目指して動きだしている。現在ギグエコノミーを牽引しているともいえるUberなどが、どのような対抗策を出しているのかも注目されるところだ。

TEXT=Keiko Kayla Oka (客員研究員)

(*1)SOW とはStatement of Work の略で、明確な契約に基づいて短期のプロジェクトベースで専門サービスを提供するコンサルタントのこと。
(*2)ギグエコノミーの定義はさまざまで、オンラインの中間媒体を用いて仕事をする人のみをギグエコノミーの構成要員ととらえる調査もある。
(*3)Staffing Industry Analysts 2019 Gig Economy Report
(*4)ヒューマンクラウドとは、オンラインスタッフィング(Upworkなどを通して個人が行う短期の仕事)、クラウドソーシング(Amazon Mechanical Turkなどを通して複数の人が行うマイクロタスク)、オンラインサービス(Uberなどを通して行うサービス)の総称。