世界の最新雇用トレンドSHRM2016年アニュアルコンファレンス参加報告(2)

ギグ・エコノミーの急増と強まる監視

柔軟性を武器に拡大するギグ・エコノミーと個人事業主

米国には比較的古くから労働者として扱われない個人事業主が多く存在している。会社としては個人事業主の利用は労働コストの削減と柔軟な労働力の確保という大きなメリットがあるが、その一方で分類ミスというリスクが伴う。本来労働者として分類されるべき人を個人事業主として利用すると、当局により分類ミスが指摘された時に未払い賃金(時間外労働、食事、休憩含む)の支払い、未払い付加給付の支払い、罰金および利息の支払い、弁護士費用、州法上の責任、刑法上の責任などが企業に科せられる。加えて、社員のモラールの低下や社会的信用の失墜にもつながるおそれがある。

item_trend_shrm2_column_Trend04_conferenceMC_JHA.jpgコンファレンスMCのJuana Hart Akers氏

ここ数年、米国では個人事業主の数が増加している。UberやLyftといったテクノロジーを使ったライドシェア会社の台頭がその背後にある。一節には50万人以上の人がUberのドライバーとして働いたことがあるともいわれるが(※)、彼らは労働者ではなく個人事業主としてUberと契約している。

また、米国労働統計局が2015年に公表したデータでは伝統的な労働以外で収入を得るフリーランサー数が5,300万人にも上っていて、その要因のひとつはギグ・エコノミーの拡大であるとしている。

税収確保に向けて厳格化する法的規制

ギグ・エコノミーが拡大する一方で、訴訟も多発している。
Brenda Kasper弁護士のセッション「公正労働基準法適用除外?個人事業主?分類ミスの危険を理解し、それを回避する」で紹介された最近の事例では、カリフォルニア州のUberとの契約内容に疑問と不満を持ったドライバーが自分は個人事業主ではなく労働者であると分類ミスを訴え、和解に至ったケース(Uberが複数のドライバーに1億ドルを支払う)や、同様の内容でLyftとドライバーが和解したケース(Lyftが複数のドライバーに約1,200万ドルを支払う)、また、FEDEX で個人事業主として働くドライバーが分類ミスを訴え、会社側と和解したケース(20州の約1万2,000人のドライバーに対して2億4,000万ドルを支払う)がある。

UberやLyftはギグ・エコノミーの代表格といえるが、その他にも「ミールシェア」「便利屋」「旅行ヘルパー」「スキルシェア」など類似の契約で個人事業主を利用するさまざまなビジネスがある。今では高齢者から幼児までがテクノロジーを活用するようになり、ビジネスの領域は広がり続けている。つまり、これは個人事業主の数が今後も増加する可能性が高いことを示しており、当局の監視もますます厳しくなるだろう。数年前から内国歳入庁や連邦労働省といった関係省庁の間では、労働者vs個人事業主の分類ミスの監視を強化している。

item_trend_shrm2_column_Trend04_ExpoHall.jpgセッションの合間ににぎわうエキスポ会場

企業にとっては労働コストを削減し、使用者責任を回避するためにも、個人事業主の利用は維持したいし、働く側にとっても柔軟に働ける個人事業主という労働形態は魅力的な部分が大きいのは確かだ。しかし、連邦や州政府にとっては、本来労働者として分類されるべき人が個人事業主として分類されると、支払われるべき雇用税、失業保険税や労働災害補償税などが減ることになり、見逃すわけにはいかないのが本音である。双方の利益を守るための激しい攻防が、エンドレスに続くのは避けられないだろう。

監査の前に企業ができる救済措置

米国の内国歳入法(連邦税法)は非常に細かい上に膨大で、しかも毎年改正があるため、素人ではとても太刀打ちできない。今回のSHRMでは労働法や税法を専門とする弁護士が個人事業主に関するセッションを担当し、詳細な説明を行っていた。

いったん内国歳入庁の監査が入り、分類ミスが確定すると、先に述べたようにさまざまな責任が科せられるため、企業としては監査を避けたいところである。内国歳入庁は監査に入る前の段階で3種類の救済措置を用意しており、分類ミスの可能性がある場合に企業が自らいずれかの措置を使って分類ミスの有無を申告できるようにしている。

Jason Sheffield弁護士のセッション「それほどインディペンデントではない個人事業主:労働者分類ミスの矛盾を理解し、解決する」では、労働者性の判断基準(図1)から、救済措置(図2)や監査(図3)について説明されたが、救済措置の規定は複雑でわかりにくいものだった。当局は分類ミスの監視を厳しくするだけでなく、透明で明快な規定に変えることを検討してもよいのではないだろうか。

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SHRM参加報告第3回目では、次世代リーダーの育成と、フレキシブルワークの環境でバーチャルチームを管理し統率する方法についてのセッションに着目していく。

(※)Wizardson Inc., "Uber: How to Make Money as an Uber Driver: An Overview of the Uber Global Taxi Empire And an Analysis of the Ways You Can Use it To Generate Income,". Kindle Edition.

グローバルセンター
Keiko Kayla Oka(客員研究員)

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