世界の最新雇用トレンドEREリクルーティングコンファレンス参加報告

データで見直す採用戦略

ERE Media(ERE)が2016年4月6日から3日間、ネバダ州ラスベガスにてコンファレンスを開催した。あらゆる業種・規模の組織のリクルーターとタレントアクイジションリーダー(TAリーダー)が互いの経験や課題を共有して人脈を広げ、新しいアイディアを組織に持ち帰られる機会になっている。

item_trend_ere_02_ExhibitionSpace.jpgReal Matchの展示ブース

コンファレンスには、全米各地の248社のリクルーターとTAマネジャーが出席した。展示ブースを出展したのは、従業員による企業評価サイトのグラスドアやインターネット上の情報から候補者を検索・スカウトする機能を持つエンテロをはじめとする、採用関連サービス企業47社だった。

コンファレンスはジェネラルセッション7つと分科会12セッション、さらに40名限定のワークショップで構成されていた。セッション内容は実務に密着しており、世界中の支社で一貫性がありながらローカルレベルでも適切な採用方法や、事業部門との連携により採用要請が発生する前に必要な人材の特性を特定しておくことを推奨するもの、人手不足が叫ばれているがソーシング経路や採用手法を変えれば人材は豊富にいるなど、企業が実際に直面して対処した具体例だった。

EREとは
リクルーターとTAマネジャー向けに採用業界のニュース、ホットな事象に関する意見、採用テクノロジーの評価などを提供する組織。毎年春と秋にリクルーティングコンファレンスを開催、ソーシングに焦点を置くコンファレンス「ソースコン」も年に2回開催している。

リクルーターの苦悩

item_trend_ere_02_RonMester_small.jpgEREの当時のCEOロン・メスター氏

EREがリクルーターを対象に実施した年次調査「2016 Talent Acquisition Survey」の結果報告では、採用責任者の要求に苦悩するリクルーターの姿が浮き彫りになった。リクルーターに対する採用責任者の評価は総じて辛口で、自分たちの方が優れた人材を見つけられると考える人が多かった。そのため、リクルーターは質の高い候補者を見つけることが、克服すべき第1の課題だと考えているようだ。採用までに時間がかかることや、テクノロジー面に難点があることが問題だと考えるリクルーターも少なくない。採用コストについては、約4分の1が1人当たり1,500~5,000ドルだと回答しているが、金額を把握していない企業も28%あった。

最近では、経営陣および事業部門に対し「積極的に戦略的な助言を行い、人材を一貫して発掘し、企業理念に則って採用過程の向上に努める」人材アドバイザー(Talent Advisor)の存在が話題となっている。もっとも、現実にはそのようなスーパースター的な役割を担えるのはごく少数。多くの場合は人材アドバイザーを前面に出して活用し、他のリクルーターはとにかく自分ができることをする、という姿勢で職務に臨んでいるようだった。

定着する人材を採用するためのデータ活用

2016年春のコンファレスは「データに基づいたタレントアクイジションのエキスパートになる」をテーマとし、各社がどのようなデータを収集・活用して採用に関する課題を解決したかが紹介された。最新の採用動向を分析したセッションでも、「オンラインコンテストの活用」や「ダイバーシティ確保のための匿名候補者評価」などに加えて、「データを基にした意思決定への移行」がリスト最上部に挙がっていた。米国企業は"離職率が非常に高いこと"が大きな課題。今も"採用する人材を直感に頼っている"ところが少なくないというが、データを基に決定すれば採用選考がより速く進み、採用後の業績も良く、人材の定着につながるという(サンフランシスコ州立大学のジョン・サリバン教授)。

企業事例1 Cumming Corporation
選考プロセスを見直して候補者に良い印象を与える

多くの米企業が近年重視しているのが「候補者体験」。結果的に採用に至らずとも、選考段階で候補者が会社に良い印象を持つことで企業ブランディングが向上し、優秀な人材を惹きつけることにつながるという原理である。良い候補者体験を提供する企業を表彰する団体もある。受賞企業の1社であるCumming Corporationは土木構造エンジニアや測量技師など、採用がたやすくない職種が多い。そこで候補者体験を良くするべく選考プロセスを見直した。

採用にかかる期間を短縮するため、書類審査や面接後の合否決定にかける日数に制限を設けた。すると、採用にかかる期間が短い方が書類審査を通過する候補者の割合が高く、その後採用に至る確率も高かった(図1)。また、選考プロセスに透明性を持たせるべく、候補者に現時点の状況や返答までの期間をこまめに連絡するようにした。結果、単純に候補者へのアップデート回数が多いリクルーターの方が、オファーを受諾される割合が高かった(図2)。つまり、候補者と密に連絡を取り、丁寧に扱うだけで採用効率が上がることが示された。

図1 採用にかかる期間と候補者が選考プロセスに残る比率
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図2 リクルーター別平均アップデート数とオファー受諾率
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企業事例2 SAP
自社で成功するEQを特定し、それを持つ人材をエグゼクティブに採用

アイリーン・オルティス‐グラス氏は講演「リーダーの評価」で、SAPのグローバル人材部長だった当時を振り返った。買収の話が持ち上がったころ、VP以上の人材が続いて退社し、その1年の離職率は40%に上った。通常、採用選考は候補者の技術的なスキルを基に決定するが、定着する人材を見極めるには別の点を見る必要がある。オルティス‐グラス氏は、成功するエグゼクティブとそうでないエグゼクティブを分けるのはEQ(社交性、柔軟性、沈着冷静さなど)だというデータを発見した。社内で活躍するエグゼクティブの行動特性を測り、それに当てはまる人材を採用したところ、さまざまな効果が表れたという。

  • 入社18カ月後以上の定着率が75%向上
  • 採用担当者に対する事業部マネジャーの満足度が38.2%向上
  • 事業部マネジャーの40%が行動特性データを人材育成計画に役立てた

採用テクノロジーの展望

インターネットを活用した求人活動が日常的になった今、そこから得るデータをどこまで、あるいはどのように使うかが鍵となっている。テクノロジーは採用のあらゆる面で活用されている。

item_trend_ere_02_Outside.jpg会場外の景色

  • 採用候補者を絞るためのレジュメ解析。定型化されていないレジュメを統一し、保存かつ検索できるデータに変換
  • 個人のスキルや人格を判断するため、候補者のブログやSNS上の投稿内容を言語分析
  • 過去の採用成功例をベースにしたアナリティクスを使った採用
  • シミュレーション、ゲームなど新しい手法での新人研修

積極的に求職活動をしていない有能な候補者は、リクルーターがリンクトインなどのSNSを精査して発掘するのが一般的だ。しかし、一部の候補者は多数のリクルーターから届く勧誘を敬遠して、そのようなサービスへの登録や投稿を控える傾向にある。依然として「従業員リファラル」が採用ルートとして評価が高い現実を見ると、採用テクノロジーにはまだ多くの課題と可能性が残されている。今後の発展に注目していきたい。

グローバルセンター
Keiko Kayla Oka(客員研究員)
石川ルチア