定点観測 日本の働き方高付加価値産業への転職(2020年11月版)

「定点観測 日本の働き方」最新値はこちら

経済活動との結びつきで考えたときに、転職はどのように位置づけられるか。産業の新陳代謝を促進するということは、転職の一つの大きな役割といえるだろう。

内閣府「国民経済計算」から、業種別に、1時間当たりの雇用者報酬の多寡と就業数の増減を比較してみよう(図1)。これをみると、1時間当たりの雇用者報酬が高い(生産性が高い)業種に就業者が移動しているとは限らない。たとえば、情報通信業(1時間当たりの雇用者報酬3,499円)の就業者数は2017年から2018年で前年比+4.1%ptと増加しているが、金融・保険業(同3,717円)の就業者数は前年比▲1.4%ptと減少している。高付加価値産業への転職は一部でのみ進みつつあり、産業の新陳代謝のスピードは比較的緩やかである。

円滑な労働移動を促進するためには、どうすればよいのか。次に、職種に着目した分析を行ってみよう。ここでは、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」を用いて、職種別に、同職種への移動と他職種への移動がどの程度の比率で行われているのかを確認した(図2)。

ここからは、専門性の高さによって職種間の移動の難しさには違いがあることがわかる。看護師・保健師(他職種からの転職割合9.0%)のような資格業では他職種からの移動が難しく、同様に小中高教員(同31.8%)も同職種からの移動が多数を占める。ソフトウェア関連技術職(同27.8%)も専門的な技能を要することから、他職種からの移動が比較的難しくなっている。

たとえば、どのような職業の人がソフトウェア関連技術職に転職しているのだろうか。JPSEDのサンプルで確認された前職の状況を表したものが表1となる。これをみると、一般事務など技術職以外の職種も散見され、人によってはこのような大胆な職種の転換を行っていることがみてとれる。

円滑な労働移動を促し、産業の新陳代謝を活性化するためには、労働者に専門的なスキルを身につけさせるための学びなおしが重要になってくる。人生100年時代の現代において、キャリアの途中でも新たな職に挑戦できるよう、学びなおしができる環境づくりを推進すべきだ。

図1 2018年の1時間当たり雇用者報酬と2017年から2018年にかけての就業者数の伸び(業種別)teiten9-2-1_201124.jpg

出典:内閣府「国民経済計算」

図2 他職種から転職した人の割合(職種別)※クリックで拡大しますteiten9-2-2_201124b.jpg

出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2019、2020」
注1:xa20_l19を用いたウエイト集計を行っている。
注2:一定以上のサンプルがあった職種のみを表記している。

表1 ソフトウェア関連技術職に転職した人の前職の状況teiten9-2-3_201124b.jpg

出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2019、2020」
注:現在ソフトウェア関連技術職についており、この1年間で転職をした79サンプルの1年前の職種内訳。ウェイトバック集計は行っていない。

文責:坂本貴志(研究員・アナリスト)
編集:リクルートワークス研究所
※2019年11月時点の本記事はこちら
「定点観測 日本の働き方」一覧へ戻る