グローバル企業採用責任者11人が語る パンデミックは採用をどう変えたのかCareerXroads クリス・ホイト氏(共同代表)

インタビュー結果と考察3:パンデミック禍で採用プロセスの見直しが加速

CareerXroadsは2021年2~3月に、企業の人材獲得部門リーダー、業界コンサルタント、専門アナリストなど11人にインタビューを行い、新型コロナウイルスによるパンデミックが採用活動に与えた影響について語ってもらった。インタビューを通して、共通の事象、懸念、パッションが顕著に見られた。パンデミックは特定の業界に大きな影響を与えたが、業界にかかわらず、今後の人材獲得に関して、共通のアイデアやニーズを持っていることがわかった。

パンデミックが企業の採用に与えた影響

2020年に、大半の企業では採用数の減少が顕著であった。ホスピタリティは、パンデミックの影響を最も受けた業界である。Marriott International(以下、Marriott)グローバル人材獲得イノベーションズ・プログラムス・ソリューションズ担当副社長のクリス・ヴァン・バヴェル氏は、2020年3月に同社の施設の約9割を閉鎖し、前例のない大規模な一時帰休を余儀なくされた。1年後、宿泊客が増加し、ワクチン接種の普及効果も期待されるなか、Marriottの採用チームは、一時帰休した従業員を組織に呼び戻すという課題を抱えていた。ほかのインタビュー対象の企業と同様に、採用ブランディング、求職者へのメッセージ、バリュープロポジション(求職者に提供する価値)の見直しに焦点を移した。競争が激化する採用市場では、求職者との接点に思いやりと独創性を持つことが鍵となる。

また、候補者との感情的なつながりの強化が必要であることもわかった。exaqueo創設者兼CEOのスーザン・ラモッテ氏は、リクルーターは人材プールに多数の候補者を集めるだけでなく、人材と直接つながることが重要であるという。リクルーターは、パンデミックが候補者に与えた影響を考慮し、候補者と気持ちでつながることにシフトした。

リモートテクノロジーの台頭

パンデミック以降、人材採用にリモートテクノロジーを利用する企業が急増した。面接やオンボーディングはすべてリモートで行われるようになった。

多くの企業が、人事・採用部門におけるテクノロジーの合理化や自動化を求めている。マーケティング、人材と仕事のマッチング、面接スケジュールの管理、オンボーディング、候補者や従業員からの意見収集など、採用活動全般の自動化を進めているところだ。採用目標の予測、達成、分析に役立つデータ解析の機能を持つテクノロジーを活用している。

Uber Technologies, Inc. (以下、Uber)は、CRM(候補者関係管理システム)とATS(応募者追跡システム)のアップグレード、社内のネットワーキングや人材の流動化、従業員のスキル開発を促進するために社内のギグプラットフォームを立ち上げるなど、多くの技術シフトを行った。グローバル人材獲得・モビリティ担当副社長のダニエル・モナハン氏は、人材獲得アカデミーの立ち上げを主導し、採用では多様な視点や背景を持つ人材の育成に取り組んだ。

2020年の採用活動の減速は、多くの企業が、これまで着手できなかった人事・採用部門をサポートする新しいプロセスやソフトウェアを導入する機会となった。たとえば、Celaneseは、ビデオテクノロジーとショートメッセージ(SMS)を使った採用活動を導入、精度向上に注力し、候補者との接点を増やした。

リモート採用へのシフトは、グローバルな規模で採用活動を行う機会にもつながった。Uberでは、「ボーダーレス・リクルーティング」を実施、地域間のサポートが可能となった。Thoughtworksでは、この機会に人材を発掘する範囲をグローバル規模に広げた。

インタビュー対象企業の人材獲得部門リーダーの多くは、採用とオンボーディングのリモート化によってプロセスが迅速となり、面接プロセスでは多くの障壁がなくなったという。リモート採用やオンボーディングの今後の見通しはまだ不透明だが、利用するメリットは明らかである。効率性の向上で、大きな改善余地があることがわかった。2022年現在、テクノロジーの合理化と自動化の課題は、これまで以上に優先度が高くなっている。

新卒採用

新卒採用やインターンシップは、これまでと同じ流れにはならないかもしれない。インターンシップの実施企業は、フルリモートのインターンシップ、バーチャルキャリアフェア、リモート説明会を実施した。多数の大学キャンパスを訪問しなくても、新卒採用は成功することを証明した。また、指定校の訪問はできないが、母集団の形成を見直すことで、女性やマイノリティというこれまでアプローチしていない層の人材が非常に増えた。これは予想外の成果で、インタビューしたすべての企業が綿密な分析を行っている。

EYの人材アトラクション&獲得グローバルリーダーであるダン・ブラック氏によると、同社の採用の40~50%をインターンシップと新卒採用が占める。リモートによるインターンシップやキャリアフェアに移行することで、インターンシップは大きな成功を収め、人材獲得や採用チームの大きな気づきとなった。

F. Hoffmann-La Rocheも、2020年秋の新卒採用をオンラインに切り替えたことで、HBCU(歴史的黒人大学)やHIS(ヒスパニック系学生受け入れ大学)にも対象を拡大した。同社のピープル&カルチャー部門南北アメリカ採用プラクティスリードのテラ・ドイル氏は、多様性を示す数値が、前年よりも大幅に改善されたと話した。

ベンダーとの関係性

大企業はこれまで、大量採用や非正規人材の採用において、ベンダーとの関係に依存することが多くあった。しかしパンデミック以降は、顧客企業にとっての、「テクノロジーベンダー」と「ビジネスパートナー」の違いが明らかになった。苦境に陥った顧客企業に共感し、契約形態や利用料金などの変更に応じたベンダーは、顧客企業と真のパートナーシップを築いた。一方、柔軟性を欠いたベンダーは、今後の契約更新時に顧客企業から反発を受けると予想される。

たとえばLowe’s Companies(以下Lowe’s)では、人材獲得担当副社長のロバート・ドータリー氏によると、従業員の新型コロナ感染で、店長を含む大量の人材が欠員した際に、RPO(採用代行)会社に即時に連絡した結果、多様性があり質の高い人材を採用することができた。採用にかかる日数が12~14日から2~3日へと短縮し、人材不足の課題を解決した。今後、Lowe’sは、大量採用には、RPO会社とのパートナーシップを活用する計画である。

今後の展望

パンデミック下において業績が向上した企業にとって、2020年後半から2021年にかけての採用市場は非常に厳しく、多くのリーダーが、これまでのキャリアで経験したなかで最も競争が激しかったと指摘した。
2022年後半の期待や予想について質問すると、ほとんどの企業が、採用数は以前と同等の回復を見込める、人材獲得競争はさらに激化すると予想した。