グローバル企業採用責任者11人が語る パンデミックは採用をどう変えたのかリクルートワークス研究所 村田弘美(グローバルセンター長)

インタビュー結果と考察1:パンデミック×リモート採用

コラム連載では、パンデミックの影響を受けて、業績が向上した企業、業績が悪化した企業の人事が、それぞれの採用課題に対してどのような対応をしたのか。この1年半に起こった採用活動についての事象を、グローバル企業11社の採用責任者とアナリストとともに、パンデミック後の約1年間、さらにその半年後のレビューを行った。
インタビューを通じて浮き出てきた企業に共通する課題は、「人材獲得競争」「採用テクノロジーの再構築」「リモート採用」。本コラムでは、この3つ目の「リモート採用」に焦点を絞ってみたい。

パンデミック・シフトを組む企業

米国の採用現場においては、パンデミック以降は、①従業員のレイオフや一時帰休(furlough)に伴って、社内の人事異動へとシフトする企業、②従業員の新型コロナウイルス感染によって脆弱となった組織の人員体制を立て直す企業、③業績向上に対応してこれまでにない大量の人員を短期で新規採用する企業など、各所でパンデミック・シフトが起こった。 
【図表1】は業績と採用の変化を4象限に分類したものであるが、業績が悪化した企業は、レイオフ、一時帰休、人事異動など、内部労働市場での人員調整を行った。リセッションの経験から、解雇で人材を手放してしまうと、業績が回復した際に立ち上がりが遅くなること、新規採用しても育成に時間を要することから、できるだけ一時帰休や、社内で少しでも業績のよい部門や地域への人事異動などで、従業員を繋ぎ止める対応を取る企業が見られた。 
米国企業では、日本のような定期的な人事異動を頻繁に行わないことから、内部調達の体制を整備するために、まずHR組織体制の変更やシステムの見直しを急ぐ必要があった。
一方、従業員の感染急増によって運営が困難になった店舗や部署を立て直すために人事異動や新規採用する企業もあった。PCR検査薬の製造や、飲食のデリバリーなど、業績が急拡大した企業は、ニーズに対応するために人材の採用を急ぐなど、各所でさまざまなパンデミック・シフトが敷かれた。しかし、感染拡大防止という壁ができたことで、これまでと同じ方法で採用活動を行うことは非常に困難であった。

【図表1】パンデミック・シフト(業績×採用の変化)

図表1 パンデミック・シフト(業績×採用の変化)

候補者にリアルで一度も会えない採用が広がる

また、国土の広い米国では、これまでもテクノロジーを活用して効率的な採用活動を行う企業も多かったが、新型コロナ感染拡大防止策として、候補者との対面や接触を極力避ける必要性があり、これまでと同じ採用プロセスや採用活動をすることができない企業は、必要に迫られて採用活動そのものを非対面のリモート採用中心に変えていた。サービス職や現業職では、これまでと同じ採用方法を取ることもありすべてではないが、パンデミック以降は、多くの企業の担当者が「候補者と直接会うことなく採用を決定する」ということが常態化するまでに広がっていった。入社後も、一度も出社することなく、そのままリモートで就業する従業員が増えていった。出社を伴わない働き方が拡大することで、遠隔地、他国など、場所を問わずに就業することも可能になったため、採用候補者の対象層も拡大し、幅広く優秀な人材を確保できる。

「リモート採用」はニューノーマルに

ニューノーマル(New Normal)とは「新しさ」と「常態」を掛け合わせた言葉で、最近では、パンデミック以降の新しい生活様式や働き方などを指す言葉として用いられている。ニューノーマル時代の働き方はテレワークやリモートワークへと変わり、仕事における対面の場は、バーチャルの職場や、オンライン会議に置き換わったことで、企業の人事制度、人材育成、採用や、人事部にも変化への対応が求められた。
米国の新規採用については、新卒では、「キャンパスリクルーティング」「インターンシップ」「面接」の3つのプロセスをリモートに変更する必要に迫られ、変更した企業が多い。
新人導入研修は今までも対面に加えて、ウェビナー、eラーニングが活用されていたが、これまでよりオンラインは一般的になり、VRやARの活用も増えている。また、候補者との問い合わせや対話はチャット、オンボーディングもWEB会議システムやバーチャルで行われるなど、一連の採用プロセスは、リモートや自動化に移行している。

リモート採用の例

(1)キャンパスリクルーティング → バーチャルイベントプラットフォーム
今までは、大学が主催するキャリアフェアや企業の採用担当者が訪問する「キャンパスリクルーティング」が一般的であったが、パンデミック後は、リモートのイベントに切り替える必要性があった。
・利用したツール:Brazen
・事例:Centene Corporation

(2)インターンシップ → バーチャルインターンシップ
米国のインターンシップは、採用に直結することが多く、インターンシップの選考そのものが本採用の手段の1つとして位置づけられている。パンデミック後は、リアルなものから、非対面の形式に切り替える企業が増えている。インターンシップには、企業自らが実施するものと、サービスプロバイダーを介して提供されるものとがある。オンライン化によって大学の低学年など早期から優秀な学生との関係構築をする企業もある。
・利用したツール:Microsoft Teams、Zoom
・事例:Celanese、EY、Roche、Marsh McLennan、Uber

(3)対面面接 → WEB面接(オンライン面接)・ビデオ面接ツール
WEB面接には、ライブで行う同期型と、録画をする非同期型の2種類がある。同期型は対話を通して相手を理解でき、相手の状況に合わせて質問などができるというメリットがある。録画面接は、大量採用を行う際のエントリーレベルで行われる場合が多い。候補者は都合のよい場所や時間で録画撮影を行い、採用担当者は録画をまとめて視聴することができるため、選考のスピードを速められる。また採用に関わる関係者と録画を共有することで、客観的に候補者を評価できる。対面ではないため、感染予防策になること、また時差の異なる地域に住む、あるいは他社に雇用されているので就業時間中に面接を受けることができない候補者との面接も可能となる。
・利用したツール:Microsoft Teams、Zoom、HireVue、PARADOX、PredictiveHire、Modern Hire
・事例:Lowe's Companies、Marriott International、Celanese、EY、Roche、Marsh McLennan、Uber、Thoughtworks、Centene Corporation

パンデミック後もリモート採用は継続する

全体概要は【図表2】のとおりであるが、インタビューを通じて、最も浸透していたのはオンライン面接である。一部のサービス業や現業職を除くと、ほぼすべての企業が取り入れている。移動を伴わないため、数回に及ぶ面接スケジュールの調整が容易で、録画や記録も取れる、候補者と採用担当者にとって効率的で柔軟なツールと評価も高い。Zoom、Microsoft Teams、Slack、Skype、Webex、Google Meetのようなビデオ会議ツールや、ワークサイト内のビデオツールを利用する場合と、HireVue、PARADOX、PredictiveHire、Modern Hireといった面接に特化した機能を持つツールを利用する企業とに大別される。後者の場合、一番手間がかかるといわれている採用担当者と候補者との面談の日時設定を容易にしていることや、面接の質の向上、アセスメントのサポート機能などが付加されており、大量採用には欠かせないものとなっている。

【図表2】パンデミック下でのリモート採用(概要)

パンデミック下でのリモート採用(概要)インタビューでは、今後の採用活動についても聞いているが、ほぼすべての企業が、「パンデミックが収束しても、リモート採用を継続する」と回答している。【図表3】はリモート採用・面接方法の例を記したものだが、今後の採用面接は、完全なリモート、リモートとリアルのハイブリッド、リアル、バーチャルなどから各企業の状況に合わせて最適な方法を選択すると予測でき、元のリアルのみの採用活動に戻ることはほとんどないと思われる。
パンデミックによって起こった地殻変動によって、いわば強制的にリモート採用へと移行せざるを得なかったが、結果として、採用プロセスの最適化や期間短縮、コスト削減につながるなど、これまで以上のパフォーマンスを上げた企業も多い。
テクノロジーは進化し、より便利なものとなっている。企業からは既存の採用プロセスのような人間味のある自動化ツールや、採用から入社後のエンゲージメントの向上に至るまで、1つのシステムで管理、完結できる多機能なプラットフォームが求められている。近いうちにそれも実現するだろう。

【図表3】リモート採用・面接方法の多様化

リモート採用・面接方法の多様化