北米のスキル重視採用-デジタル人材は学歴不問-【専門家の見解】デビッド・クリールマン氏(Creelman Research CEO)

優秀なデジタル人材を見逃さない「スキルベース採用」

スキル重視採用のインタビューでは、デビッド・クリールマン氏に企業や有識者のインタビューに協力いただいた。一連のインタビューを通じて、クリールマン氏の視点から北米企業におけるスキル評価の取り組みの現状や、採用選考プロセスの未来について語ってもらった。

【クリールマン氏プロフィール】
Hay Group、HR.comを経て、2003年にCreelman Researchを設立。カナダ・トロントを拠点に国内外で人事関連の調査やコンサルティングを提供する。近年の関心領域はアナリティクスやテクノロジー。最新の著書は『Management for scientists and engineers: Why managing is still hard & if it will get better』(2021年)。

北米企業がスキルベース採用に関心を持つようになったのは、デジタル人材の不足による採用難が一層深刻化したからである。打開策を探していた企業は、これまで学歴や経験を重視してきたために、選考過程で優秀なデジタル人材を見落としてきた事実に気付いた。たとえば、プログラマーのなかには独学で学んだ人材もいるが、実践的なスキルの有無は職務経歴書からはわからない。

採用の鍵は、デジタルスキルを保有している人材を見つけることである。企業は、以前から技術職の採用選考でスキル評価を行っている。一般的な方法は、現場マネジャーや社内の技術者が候補者に技術的な質問をして、スキルレベルを測るものである。面接では、候補者にプログラミングの課題に回答させるというような、特定のテストを行う場合もある。

近年は、多くのベンダーがスキルアセスメントを簡単かつ手頃な価格で提供しているため、極端にいえば、企業は求人に関心を持つ人材全員にスキルアセスメントを実施することができる。企業はこれまで、書類選考と面接の後にスキルアセスメントを実施して候補者のデジタルスキルを評価していたが、現在は選考プロセスの初期段階でスキルアセスメントを実施する企業もある。早い段階でスキル評価をすることで、コンピューターサイエンスを専攻していない、あるいは有名企業での就業経験がない候補者にでも、スキルを証明するチャンスが広がる。

スキルベース採用では、当初デジタルスキルの評価に焦点を当てていたが、企業はソフトスキルの重要さも認識することとなった。ソフトスキルのアセスメントツールは、職務適性や行動特性を評価できるため、選考プロセスの初期に実施することで、ポテンシャルの高い候補者を次の選考に進ませることができる。TestGorillaやCoderbyte、Codilityなどはテクニカルアセスメント(※1)を提供しており、Plum.io、Metrics Reportingなどはソフトスキルのアセスメント(※2)を提供している。

候補者を選別するための、適切なツールの組み合わせ

新しいツールに気を取られて、古いツールの価値を見落とすことはよくある。先進的なアセスメントツールだけでは、企業が採用を決定するのに十分な情報を得られない。職務経歴書に記載されている学歴や経験は、候補者が職務を遂行できることを示す重要な情報である。また、コーディングは独学で学ぶことができるが、チームの統率力や、大規模な組織でのマネジメント力は、経験から身につけるものである。このような能力を評価するには、従来の構造化面接が有効となる。スキルベース採用では、優れたアセスメントツールと、良質な構造化面接の連動が重要である。

推薦状や紹介状も有益である。候補者の職務適性を判断するうえで、その人と働いたことがある人の意見ほど貴重な情報はないだろう。有能な採用担当者は、特に重要なポジションの採用では、候補者の前勤務先の上司や同僚に連絡をして、実際の働きぶりを聞き出そうと尽力する。

これからのスクリーニングと選考のあり方

アセスメントツールの活用は、企業がこれまで見過ごしてきたデジタル人材を探し出すための重要な手段である。採用が困難なほかの職種でも、アセスメントツールによって潜在能力の高い候補者を特定することで母集団を拡大できるため、今後さまざまな分野で利用が拡大すると考えられる。

いずれは、企業が選考プロセスの中でスキルアセスメントを実施するのではなく、個人が率先してアセスメントを受けて、保有するスキルを自らが証明する時代になるかもしれない。
世界経済フォーラムや米国政府などが、個人が学歴や経歴をデジタルで管理する「スキルパスポート」「タレントパスポート」の導入を提唱しているが、そこに記録される情報には、アセスメントの結果と実施した組織による証明も含まれる。つまり、プログラマーが10件の求人に応募する際に、「タレントパスポート」を応募先企業と共有できれば、テクニカルアセスメントを受ける必要がなくなる。候補者は、ほかのスキルアセスメントを受検し、企業により豊富なスキル情報を提示するなど時間の有効活用もできる。受検費用は個人ではなく、結果を閲覧する企業が負担すべきだろう。

候補者の「デジタルフットプリント」も注目に値する。最近では、個人のオンライン行動履歴から、多くの洞察を得ることができる。採用担当者は、候補者のオンラインでの投稿、ソーシャルネットワークでのつながり、フォローしているYouTuberなどから、候補者のスキル、興味領域、性格を把握できる。デジタルフットプリントを調べる際には、法律やプライバシー保護に考慮する必要があるが、制約を適切に守れば、活用を妨げる障壁にはならない。
学者たちは、デジタルフットプリントから候補者に関する有益な情報を得られると主張している。スタンフォード大学教授のマイケル・コシンスキー氏の研究によると、Facebookユーザーが付けた「いいね!」を分析することで、その人の外向性など性格的要素を知ることができるという(※3)。

さらに、機械学習による候補者の口調や表情の分析、さまざまな能力を測定するゲーム、脳機能を直接測定するテストなど、多様なスキルアセスメントの方法が研究されている。アセスメントの分野は常に変化しているため、企業は新しいツールに気を配り、自社で活用する可能性を検討することをすすめる。

おわりに

マネジャーであれば誰もが、仕事の成功に必要な要素の1つは、個人の先天的な能力であると考えるだろう。英語に、「七面鳥に木登りを教えるよりも、リスを雇うほうが簡単だ」というフレーズがある。職務適性がある人材を採用するほうが、ない人材を採用して育成するよりも合理的であることを暗喩している。つまり、採用チームが職務適性のある人材を見出すことが、会社全体の成果につながると期待できる。

北米企業では、デジタル人材の採用にスキルベース採用を適用したことで、既存の選考プロセスの盲点が明らかになった。エントリーレベルのデジタル人材の選考プロセスでは、採用基準に学歴や経験を用いることで、職務適性のある人材を見落とすこともある。選考に活用できるツールが次々と開発されている。企業は既存のツールを定期的に見直して、選考プロセスを改善していく必要があるだろう。採用選考において職務経歴書と面接の価値がなくなることはないが、アセスメントツールによって有益な情報を得て選考に活かすケースが、今後さらに増えていくと考えられる。

(※1)ソフトウエア開発職に必要なスキル、主にコーディングスキルを測定する。
(※2)幅広い職種に共通するスキル、たとえば対人能力や問題解決能力などを測定する。
(※3)https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.1218772110