北米のスキル重視採用-デジタル人材は学歴不問-Big Viking Games ロベール・センジョック氏(人事法務部長)

アセスメントと技術試験で「ミスフィット」な人材を発掘する

ソーシャルゲームを開発するBig Viking Gamesは、先端IT企業とは違う採用戦略を模索していた。採用ターゲットと選考方法を変え、学位を重視しないスキルベース採用を導入したことで、優秀な人材の獲得に加えて、採用にかかる期間の短縮と多様性の向上といった効果が表れている。同社が取り組んでいるスキルベース採用のプロセスについて、人事法務部長のロベール・センジョック氏に伺った。

【Big Viking Games】2011年設立、本社所在地はカナダ・オンタリオ州。モバイルゲームおよびソーシャルゲーム会社。代表的なゲーム製品は、FacebookやスマートフォンでプレイするYoWorldとFishWorld。従業員数は約90名で、同国の独立系ゲーム会社としては最大規模。従業員は国外在住の人を含めて完全リモートで働く。カナダの「働きがいのある会社」や雇用主ランキングトップ100に選出された。

――御社が、スキルベース採用を取り入れている背景を教えてください。

ゲーム業界で人材を確保するのは容易ではありません。当社は小さな会社ですから、先端IT企業のような高額な給料は支払えませんし、製品名で人材を惹きつけられるほどの知名度もありませんので、他社とは違う採用戦略が必要です。そこで、私はCEOに「ミスフィットな人材を採用ターゲットにしましょう」と提案しました。ここでいう「ミスフィット」とは、デジタル人材の典型的なプロフィールに当てはまらない、という意味です。つまり、有名な大学のコンピューターサイエンス学科を首席で出て、GoogleやMetaのような一流IT企業でソフトウエア開発職のキャリアを積んできた人材ではないということです。ほかの多くの企業とは違う層を採用ターゲットにして、選考方法も変えました。

アセスメントは候補者を次の選考に進めるためのプロセス

――具体的に、どのような選考方法に変えたのですか。

最初に、当社のソフトウエア開発者に必要な技術スキルと、仕事の進め方に合う特性や資質を明確にしました。たとえば技術面においては、ゲームの基盤をモバイルとVR(仮想現実)やAR(拡張現実)へと移すなかで、Unityというゲーム開発のプラットフォームを使います。そこで、Unity開発職には、Unityのアソシエイトかプロフェッショナルの認定資格(※)が必要です。この資格を保有していない人には、社内で育成してから取得してもらいます。

資質の面では、不確実性に対応できることや、度重なる変更に屈しないレジリエンスが重要です。私たちの開発スタイルは、既存のものを壊しながら速く進んでいくアジャイル型なので、スケジュールや仕様が頻繁に変わります。大企業の多くが求める、緻密に計画を立てて実行するウォーターフォール型を得意とする人材とは対照的な人材が適しているのです。

次に、これらの要件を満たしているかを確認するために、応募者にアセスメントを実施します。アセスメントは、候補者をふるい落とすためではなく、選考に残すための手段です。レジュメに素晴らしい実績が記載されていなくても、実際は有能な開発者だったといったことがあるため、入社後に活躍する可能性がある人を見逃さないようにする工夫です。

当社のアセスメントは、TestGorillaの製品を利用しています。同社が提供する200以上のアセスメント製品のなかから、一般知的能力(GMA)、技術スキル、性格を測る4つの製品を候補者にオンラインで受験してもらいます。測定する技術スキルは職務によりますが、ブロックチェーンやUnity、JavaScriptなどのアセスメントを使用します。全体の所要時間は約30分です。

アセスメントの結果、一般的に必要な技術スキルと資質があると判断した候補者には、自社で開発した技術スキルの試験を実施します。提示したパラメータにもとづいて、候補者にゲームを作成あるいは最適化してもらうのですが、試験時間は3時間に及び、9割近い人が不合格という非常に難しいものです。以前はこの段階で離脱する候補者が多く、完了率は56%でした。ところが、TestGorillaのアセスメントを技術スキル試験の前に実施すると、試験の完了率が83%まで上がったのです。ステップが増えたのに完了率が上昇したのは、TestGorillaの結果を候補者に渡していることが、理由の1つだと考えています。通常、候補者は自分のアセスメント結果を確認できませんから、メリットがあるのでしょう。

最後はエンジニアリング担当副社長との面接で、私が候補者を推薦する材料として、アセスメントの結果が役立ちます。「レジュメの内容は募集要件に合致しないが、頭が良くて必要なスキルを持っており、特性も当社にフィットする」と説得できるのです。

採用選考にかかる期間が94日から26日へと短縮

――選考方法を変えたことで、どのような効果があったのでしょうか。

スキルベース採用を導入したことで、学位がなくても高いスキルを持つ人材を多く採用することができました。代表的なのはアルバーさんという従業員の例です。彼は高卒で、プログラミングのブートキャンプにも参加したことがなく、YouTubeを見て独学で勉強して、当社に応募しました。4つのアセスメントも、技術スキル試験の結果も良く、非常に優秀でした。彼は、これまで応募した企業から面接に呼ばれたこともなければ、アセスメントを受けさせてもらったこともないと、喜んでいました。まさに彼のような人材こそ、私たちが求める「ミスフィット人材」です。

また、採用選考にかかる期間が短縮しました。私が2021年5月に入社したときは、選考に94日かかっていたのですが、現在は26日になりました。さらに、多様性も向上しています。女性従業員の割合は、ゲーム業界の平均よりも高い38%、BIPOC(黒人、先住民と有色人種)の割合は50%を超えています。学位や職歴にこだわらず間口を広げたことで、スキルが高い人材の獲得にとどまらず、ほかの課題の改善にもつながったのです。

インタビュアー=デビッド・クリールマン(Creelman Research) TEXT=石川ルチア

ポイント
  • 多くの企業が対象にしているスペックの人材を求めるのではなく、自社にとって必要なスキルと資質を明らかにし、4つのアセスメントと技術スキル試験による選考で、それらにマッチする人材を探す採用戦略へと変更した。
  • ポテンシャルのある候補者が選考プロセスから離脱しないよう、アセスメントの長さや使い方に配慮する。
  • アセスメントの結果は、学位と実務経験がない候補者のスキルの高さや、職務との適性を証明する材料として活用できる。

(※)Unityの認定資格は、ユーザー、アソシエイト、プロフェッショナルの3つの段階がある。アソシエイトは、高校卒業相当の学力があり、Unityを扱うキャリアを目指す人のための資格。プロフェッショナルは、Unityの職務経験が2~4年ある人のための資格。