専門家が語る、現地人材採用のコツ個人主義、実力重視を好むロシア人材

Tatiana Baskina氏 Alexey Zelentsov氏

ロシアでは、不安定な経済情勢を背景に、企業が求める人材が変化している。ロシア・CIS諸国で人材紹介事業を展開するANCOR(アンコル)社のタティアナ・バスキナ氏とアレクセイ・ゼレンツォフ氏が、ロシア労働市場の動向と、現地で有能な人材を採用する際に知っておくべきロシア人の働く価値観について語る。

◆ 採用方法は、リファラル(縁故)から実力重視に移行している。
◆ 組織よりも、個人の成果をモチベーションにするロシア人。

個人主義、実力重視を好むロシア人材


経済情勢の悪化による労働市場の変化

現在のロシアの労働市場は、不確実な要素が多く後退している。2008年の経済危機後に大量解雇や採用凍結が見られなかったものの、2014年の景気後退は全ての業界が影響を受け、採用人数は全産業において前年比15%~25%の範囲で減少した。企業は2015年も引き続き状況を見守る方針を示しており、採用を抑制して給与の上昇を4%~6%の範囲に留める予定である。(商業部門の年収上昇率は2010年以降、8%~10%である。)
失業率は不安定な経済状況を反映して、現在5.3%前後で推移している(2014年12月時点)。2015年の予測は難しいが、失業率が大幅に増える事はないと見ている。国内では労働人口が減少し、資格を有するスペシャリストやマネジャー人材も相当数不足しているため、失業率はさほど上昇しないだろう。

転職者は全般に少ないものの、過去数年は増えており、モスクワやサンクトペテルブルクなど大都市に人気が集中している。ロシアでは、マネジャー以上の管理職や高度な技術を有する専門家の転職はあまり一般的でなく、新卒や大量採用で就職した人の方が頻繁に転職する。経済情勢の悪化により、現在勤務する会社で働きながら、転職のオファーを待つ従業員が多い。

労働市場の問題すべてが2015年に解決されるとは思わないが、大きな変化が起きるのは確かである。まず、就業構造が変わるだろう。危機の影響を受けた企業の従業員はその業界を離れ、新たなスキルや専門性を身に付けて異なる分野の道を探すと見られる。そして企業は貴重なスペシャリストを囲い込んで給与を増やし、臨時従業員や派遣社員を起用することで、従業員の生産性向上に努めるだろう。
また、人材サービス会社は、新商品の導入や様々なソリューションを提供して、モバイルやオンラインサービスなど候補者発掘の先進的なツールを使いこなし、厳しい競争に勝ち残っていくことだろう。人材サービス分野では、人材データを管理するストレージやシステムが急速に伸びている。また、人事プロセスの自動化も、効率的でビジネスの生産性を高めるため、景気動向とは関係なく引き続き増えるだろう。またソーシャルメディアを利用して人材を探すリクルーターも増加している。


世代によって異なる、仕事の価値観

ロシアで有能な人材を採用する際には、採用後の定着にまで目配りする必要がある。特に多くの企業が気を使うのは、世代間の問題。マネジャーの多くはX世代(1960年代半ば~70年代半ば生まれ)でその部下はY世代(X世代後の、70年代半ば~90年代生まれ)であるが、Y世代が十分マネジャーに就く条件を満たしている場合もある。弊社が最近行った「ジョブサーチにおける優先事項」に関する調査によると、全ての世代において転職中に最も重視する条件は「給与」であった。しかし新世代だけでみると、マネジャーの性格、フレキシブルな就労時間、自宅などでの遠隔労働といった別の条件も就職先を選ぶ際に重視している。(このような傾向は、地域、業種、職種などによって異なる。)
一方、雇用主が最も問題視する点は、従業員のやる気、忠誠心、そしてHRブランドの競争力であった。

そのほかに、グローバル企業では様々な人種・国籍の従業員が共に働くチームが増え、異文化コミュニケーションの能力が必要とされている。海外での就労機会を求める新しい世代にとって、このような職場や業務も極めて魅力的に映る。ロシアで国際的な職場を提供できる企業は、今後価値のある人材を獲得できるだろう。

(Tatiana Baskina氏)

個人的な繋がりから、実力重視の採用方法へ

ロシア企業の多くはこれまで、従業員の紹介で人材を発掘する「リファラル採用(縁故)」を主流としていた。この採用戦略の目的は、従業員の人脈を通して人のつながりを構築し、企業文化を強化することにある。この方法で求められる人材は、採用要件を満たすだけでなく、企業の価値観や目標を共有でき、社内での人的交流や企業文化にも順応できなければならない。しかし最近では、市場の激しい変化に対応するために、「新たな外部人材の採用」に戦略を切り替える企業が増えている。求められるのは、質の高いサービスを提供するための迅速な判断力、マニュアル対応できない顧客サービスの方法、新たなBPOの開拓など、競争力を付けるための、あらゆる改革に対応できる人材である。

この採用戦略を取り入れた経営陣は、新たに採用した人材に既存の企業文化や価値観を押し付けるような事はしない。むしろ、企業にとって有利となる別の文化や価値観を持った人材を求めている。海外経験、最新の技術、ビジネス・プロセスの改善策、もしくは企業経営に変革をもたらすコンセプトを持つ人である。


個人主義のロシア人

ロシアには能力の高いマネジャーが多数存在し、プロフェッショナル人材の紹介サービス会社を利用すれば、容易に人材を見つけられる。それでも現地の日系企業が人材獲得に苦戦している一因は、「日本企業では、各個人の権限や判断の余地が少ないようだ」というイメージが根強いことにある。
意欲的で成功を収めているロシア人のマネジャーにとって、上司に完全服従するという日本の風習は受け入れがたい。日本企業は、ロシアの歴史や文化、ロシア人の性格や考え方を許容しなければならない。そして、ロシア人が組織やグループだけでなく個人の成果をモチベーションにしている事を心得てもらいたい。有能で積極的なロシアの人材は、「機械の歯車」ではない。彼らは、自分達のアイデアに耳を傾けてもらえる機会のある場所で、やりがいを感じる。また、経験や個人の成功が企業の価値となり、企業のロシア戦略の一端を担っている実感を求めている。

(Alexey Zelentsov氏)

Alexey Zelentsov(アレクセィ・ゼレンツォフ)氏
ANCOR社、販売管理部 次長
ケリー・サービスCISの地域ディレクター、デジタル・デザイン会社での役員、を経て、2012年にANCORホールディング入社、北西部の販売ディレクターを務めた後に、2014年より現職。Saint Petersburg Electrotechnical University (ETU)卒業。
Tatiana BaskinaTatiana Baskina氏(タティアナ・バスキナ)氏
ANCOR社、プロフェッショナル事業部 副部長
採用と人事コンサルティング部門に18年以上携わる。グローバル企業の消費財メーカー、英エグゼクティブサーチ会社、ロシア人材サービス会社を経て、1999年にANCOR入社。
サーチ・コンサルタントとしてキャリアを開始し、CIS地域の採用、HRコンサルタントで管理職を務めた後、2014年より現職。米国Case Western Reserve UniversityでMBA取得。