全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2018介護の有無を会社に報告するメリットはあるのか 坂本貴志

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子育て世代を中心とした仕事と家庭との両立については、近年、政府や企業でさまざまな対策が講じられている。一方、仕事との両立に困難を抱えているのは、介護者も同様である。

しかしながら、介護者に対する支援については、子育てを行っている人に対する支援と比べると、これまで十分な議論が行われてこなかったのではないか。一億総活躍国民会議において介護離職者ゼロが唱えられるなど、介護者の仕事と家庭との両立の問題にスポットライトが当てられている今、介護と仕事の関係について、その実態を探る。

仕事をしながら介護を行っている人は多い

まず、リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」を用い、仕事をしつつ自身も介護を行っている人がどのくらいいるのかを検証する。

JPSEDでは、「あなたはふだん、家族の介護をしていますか」と介護の有無を把握する設問を用意している。この設問で、介護する家族がいて、かつ「自分がすべてしている」「自分が主にしている」「自分と家族で同等にしている」「自分以外の家族が主にしている」と答えた人を「介護をしている人」と定義すると、その割合は全数の8.5%となり(図1)、全国で937万人に上る。

※介護の有無を把握している公的統計に、総務省「就業構造基本調査」があるが、同調査では、介護ありの場合にその週当たりの頻度も同時に聞いているため、JPSEDより割合が低く算出される傾向がある。

また、働いている人の中で介護をしている人の割合をみると、就業者で8.6%、雇用者で8.1%、正規雇用者でも7.4%となる。働きながら介護をしているということは珍しいことではないとわかるだろう。

図1 就業状況別の介護をしている人の割合
注:x18を用いたウエイト集計を行っている。
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2018」

正規雇用者は、介護をしていても就労の調整は困難

介護者は介護と仕事との折り合いをどうつけているのか。介護離職が着目される中、ここでは仕事をしている人の中で、介護と仕事とがどのような関係性をもつのかをみていきたい。

家庭における介護が、仕事をしている人の働き方に影響を与えるとすれば、その影響が顕著に表れると考えられるのは労働時間であろう。そこで、介護者と非介護者の労働時間を比較したものが下記の図である(図2)。

図2からは、介護者がどの程度就業を調整しているのかは、その人の就業状態によって大きく変わることがわかる。つまり、就業者は介護している人のほうが非介護者よりも労働時間が1.8時間短くなるのに対して、雇用者は1.5時間短くなっている。さらに、正規雇用者に対象を限定してみると、その差は0.5時間に縮まる。

介護をしなければならない人が、就労の調整の結果として非正規雇用者や自営業になる可能性があるなど、因果関係までははっきりとはしないが、この結果は、雇用形態によって就労調整の容易さに大きな違いがあることを反映していると捉えても差し支えないだろう。すなわち、自営業者よりも雇用者のほうが、非正規雇用者よりも正規雇用者のほうが、介護を事由とした就労調整をしにくいということが、この結果から推察される。

図2 介護者と非介護者の労働時間
注:x18を用いたウエイト集計を行っている。
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2018」

会社に報告するメリットは実感できず

JPSEDでは介護の有無と同時に、介護をしている人を対象にそれを会社に報告しているかも聞いている。介護者が介護をしていることを会社に伝えている人の割合を算出すると、その比率は55.1%となり、逆に44.9%の人が会社に報告していないことがわかった。

子どもをもつことになった場合など家庭に大きな変化が生じたときは、仕事を調整する必要性などが生じるため、会社に報告するのが自然である。しかし、介護の場合はなぜおよそ半数もの人が会社に介護をしていることの報告をしないのか。もしかすると、介護をしていることを会社に報告したところで、本人に何らメリットがないということに労働者は気づいているためなのではないか。

そこで、介護をしていることを会社に報告した人と、報告していない人で働き方にどのような変化があるのかを探ったのが図3となる。この結果をみると、確かに会社に介護をしていることを報告したところで、週労働時間は有意な変化はみられていない。しかしながら、有給の取得率は会社に報告を行っている人のほうが高い傾向にあり、勤務時間の柔軟性についても高い傾向がある。

図3 介護をしていることを会社に報告している人と報告していない人の働き方の違い(介護をしている正規雇用者に限る)
注1:半分以上有給休暇を取得している割合については、有給休暇の取得状況の設問について、
「すべて取得できた(100%)」「おおむね取得できた(75%程度)」
「おおよそ半分は取得できた(50%程度)」を合計した割合を示している。
注2:勤務時間の柔軟性がある割合については、勤務時間を選ぶことができたかという設問に対して、「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」と答えた人の割合の合計。
注3:x18を用いたウエイト集計を行っている。
出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2018」

しかしながら、介護を行っていることを会社に報告している人ですら、勤務時間の柔軟性があると答えた人はわずかに17.8%にすぎず、さほどメリットはないというのが実態なのであろう。介護をしていることを会社に伝えても大きな配慮を得られないのであれば、労働者が会社にその旨報告するインセンティブはなかなか生まれてこない。現状は、おそらくこのようなことが多くの会社で起こっているのであろう。

介護を事由とした離職を防ぎ、仕事と介護を両立するためには、会社が介護者に対して一定の配慮を行うことが欠かせない。当事者が会社に介護の有無を報告することは、そのスタート地点に立つための行為でもある。

介護者にとって、会社に介護をしている事実を報告することにメリットを感じられる環境を作る、企業はまずそこから始める必要があるだろう。まだまだ、介護者に対する企業の取り組みは緒についたばかりであるというのが実情なのだろう。

坂本貴志(リクルートワークス研究所/研究員・アナリスト)

・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。