全国就業実態パネル調査「日本の働き方を考える」2018所得補てんだけでなく、成長機会を求めて ―副業潜在層の副業目的 萩原牧子

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2018年は副業元年といわれた。一億総活躍社会を目指す政府の働き方改革の中で、2018年1月に厚生労働省がモデル就業規則を改正。禁止されてきた副業を原則認めて、副業を促進する方針へと舵をきったからだ。とはいえ、改正後に実施された企業調査(労働政策研究・研修機構2018)によると、「副業・兼業を許可する予定はない」が75.8%であり、多くの企業が引き続き副業を禁止している状況である。

一方で、副業先を探せるプラットホームが発展したこともあり、個人にとっての副業のハードルは下がっている。すでに正社員の1割超が1年の間に副業を経験していることは、以前のコラム(10人に1人―正社員の副業実態と企業メリット)で報告した通りだ。今回は「全国就業実態パネル調査2018」に新たに加えた「副業実施意向」と「副業をしたい・した理由」の設問を集計し、正社員の副業動向をみてみよう(※)。

副業実施者と潜在層で4割超

まず、「副業実施意向」をみてみる。副業をしていない正社員のうち「今後は副業をしたい」と回答したのは33.5%であった。正社員全体を100%として再集計すると(図1)、10.2%が副業を経験し、31.9%が副業意向をもつ。フルタイムで働く正社員といえども、副業実施者と潜在層で4割を超えているのだ。

図1 正社員の副業実施と意向(%)

次に、「副業をしたい・した理由」をみてみる(図表2)。まず、副業実施者の副業理由(複数回答)をみると、「生計を維持するため」(45.8%)、「貯蓄や自由に使えるお金を確保するため」(35.6%)が高く、収入補てんを目的にした従来型の副業が多くあることがわかる。一方で、「新しい知識や経験を得るため」(11.2%)、「様々な分野の人とつながり、人脈を広げるため」(10.4%)、「自分の知識や能力を試してみたいため」(8.1%)といった、近年、新しい副業のあり方として注目されている、成長機会を目的とする副業も存在している。

図2 副業をしたい・した理由(複数回答、%)
続いて、副業潜在層である意向者の副業理由(複数回答)をみると(図2)、副業実施者と比べて、従来型の収入補てんを目的としたもの、そして、成長機会を目的とするもの、ともに、大幅に高い割合であることがわかる。背景としては、働き方改革の長時間労働の是正の動きの中で、収入が減少した人が副業意向をもち始めたこと、また、「副業元年」の多くの報道もあって、収入補てんという側面以外の、成長機会としての新しい副業の在り方が認知されてきたことなどが考えられる。

図3 副業目的別成長実感(計、%)
注:「仕事を通じて、『成長している』という実感を持っていた」の設問に対し、「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」を選択した者の割合。

副業目的で異なる成長実感

最後に、副業実施者の副業目的別に、仕事を通じた成長実感を比較してみたい(図3)。副業をしていない(27.1%)より、している(32.4%)ほうが、仕事を通じた成長実感を持つ割合は高い傾向にあるが、副業目的により成長実感の高低は異なることがわかる。従来型の収入補てんを目的とした副業実施者の成長実感は、副業をしていない場合と大きくは変わらない一方で、「社会貢献したいため」(48.0%)、「新しい知識や経験を得るため」(47.9%)、「様々な分野の人とつながり、人脈を広げるため」(45.0%)、「自分の知識や能力を試してみたいため」(44.8%)は、成長実感が非常に高い。

副業潜在層の副業目的には、新しい知識や経験を得る、人脈を広げて活かすという成長機会を求めるものが多いことが図2で確認された。成熟社会においては、かつてのように、失敗を許容する成長のバッターボックスを企業内で十分に提供できなくなってきた。そうだとすると、彼・彼女らの副業意向を受け入れ、副業を成長機会として活用するという方法は企業にとってもメリットがあるのではないだろうか。

※すべてウエイト(x18)集計

萩原牧子(リクルートワークス研究所/主任研究員・主任アナリスト)

・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。