フレキシブル・ワーク 欧米の「新しい働き方」を支える政策・制度米国の「フレキシブル・ワーク」

フレキシブル・ワークの現状

米国には、フレキシブルな勤務形態に対応する国としての制度はない。米労働省(DOL)によると、公正労働基準法(FLSA)には、フレキシブルな勤務形態に関する規定がない。従って、フレックスタイム制など従来とは異なる勤務形態は、それぞれの企業や事業体ごとに、雇用主と従業員との契約として考えられている。
世界的にフレキシブル・ワークの取り組みは広がっており、大手グローバル企業を中心にフレキシブル・ワークを取り入れるのが一般的になってきたが、近年最も進んでいるのは、シリコンバレーなどのスタートアップ企業のエンジニアで、働き方はスーパーフリー(完全に自由)で、成果主義というものだ。一方、一部のグローバルカンパニーでは、在宅勤務制度を廃止している。

大統領経済諮問委員会の報告(Work-Life Balance and the Economics of Workplace Flexibility Report 2014)によると、 4分の3を超える雇用主が、一部の従業員に始業・終業時間の定期的な変更を認めているが、大部分の従業員に認めている雇用主はわずか4分の1程度である。フルタイム労働者の66%が、何らかの形でフレキシブル・ワークを認められている。

フレキシブル・ワークを奨励する政府政策

1993年、育児介護休業法(FMLA)は、深刻な健康状態にある場合など、従業員に勤務のスケジュール調整を受ける権利を認めたが、その際に有給であることは求めていなかった。
2010年3月、オバマ大統領は「職場の柔軟性に関するホワイトハウス・フォーラム」を主催し、フレキシブル・ワークについて国民的な議論の口火を切った。これを受けて、米労働省女性局が「職場の柔軟性に関する国民との対話」を主催し、全米の一連のフォーラムで実施された。2011年度の大統領予算では、高齢の親族や障害のある家族を介護している人を支援し、また質の高い保育サービスを利用できるようにする取組みが導入された。

  • 在宅勤務推進法
    オバマ政権は2010年に在宅勤務推進法案を可決し、在宅勤務が連邦政府機関の重点課題となった。2009年には在宅勤務の選択が可能な職員のうち、日常的に在宅勤務を実施しているのは10%であったが、2011年9月には 21%となり、この政策の成功が証明された。
  • 共働き・一人親家庭に関するホワイトハウス・サミット
    2014年6月、女性・少女に関する大統領府評議会、労働省、米国進歩センター(CAP)が主催する「共働き・一人親家庭に関するホワイトハウス・サミット」が開催され、一連の施策の中で、連邦政府機関に、職場の制度を見直し、ペナルティを心配することなくフレキシブルな勤務形態を「求める権利」を連邦職員に付与するよう求めた。

州および都市レベルの取組み

一部の州、都市では、介護する立場にあることや病状に基づいた差別を禁止し、従業員が、より柔軟性の高い勤務形態を要求できる法律や施策が可決されている。

  • サンフランシスコ市の例
    サンフランシスコ市は雇用関係を規制する政令制定に関して先駆者と考えられている。2014年1月1日に発効された「ファミリー・フレンドリーな職場に関する条例」(Family Friendly Workplace Ordinance)では、20人以上の従業員を抱える雇用主に対し、育児(18歳以下の子供を持つ)や介護(65歳以上の親や深刻な病状の家族を持つ)を支援するために、勤続6カ月以上の従業員が、柔軟な勤務形態を要求することを認めるよう求めている。
  • バーモント州の例
    バーモント州でも、2014年にサンフランシスコ市と同様の措置が導入された。ここでは「フレキシブルな勤務形態」を「勤務日数や勤務時間の変更、始業・終業時間の変更、在宅勤務、ジョブ・シェアリングなど、従業員の通常の勤務形態の中期的または長期的な変更」と規定している。
  • カリフォルニア州の例
    カリフォルニア州では、2002年9月23日に有給家族休暇(PFL)制度を導入し、2004年7月1日に発効した。有資格の労働者が家族の世話をするために仕事を休む場合、最長6週間まで賃金の一部(通常賃金の55%)を支給する。この制度の原資は、従業員が負担する給与税で賄われ、雇用主が費用を直接負担することはない。

産業界およびNGOの取組み

「1 Million for Work Flexibility」は、職場の柔軟性をサポートするための全米規模の取組みである。求人サイト「FlexJobs」がフレキシブル・ワークを提唱し、NGO、学術機関と協力して、2013年に立ち上げた。現在、NGOのWorking Mother、MomsRising.org、Mental Health Americaなど、60を超える団体が参加し、意識の向上や啓発、情報提供やイベント、参加促進などさまざまな活動を行っている。
また、Working MotherなどのNGOが、「ナショナル・フレックス・デー」を毎年10月第3火曜日に実施。フレキシブルな勤務形態などファミリー・フレンドリーな施策を推進している優れた雇用主を選ぶ、「働く母親ベスト100社」を発表している。

スーパーフリーの働き方を選択したスタートアップ企業

オフィス犬も多い

米国で最も進歩している働き方は、シリコンバレーのIT企業やスタートアップ企業だろう。就業形態や、企業によってルールはそれぞれ異なるが、在宅勤務など働く場所や、労働時間も自由という働き方である。プロジェクトなどで多忙な時期には集中して働き、閑散期に、あるいは仕事量をうまくコントロールして長期休暇を取得する。企業には、無料の食堂やスポーツジム、運動場、ランドリー、ストレスを緩和するオフィス犬など、遊び心のある快適なオフィス空間を提供するため趣向を凝らしている。通勤の専用バス(Wi-Fi付き)もある。優秀なエンジニアに最適な労働環境を与えることは、リテンションにもつながる。一律のルールに全員が合わせるのではなく、個人ベースのフレキシブル・ワークができる。ただし、個人はそれに見合った高い成果を期待されるなど、米国流は真のバランス感覚を問われる。

自宅のようなオフィス

グローバルセンター
村田弘美(センター長)

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