フレキシブル・ワーク 欧米の「新しい働き方」を支える政策・制度ドイツの「フレキシブル・ワーク」

フレキシブル・ワークを奨励する政策

ドイツには、フレキシブルな働き方を提供するための政府の特別なプログラムはないが、数多くのフレキシブル・ワークの法定モデルが提示されており、フレキシブル・ワークの導入は進んでいる。
標準的な契約では、働く場所や時間を規定している。欧州連合の労働時間指令は週の労働時間の上限を48時間としており、英国とマルタを除く各加盟国ではそれを適用する。
それに準じて、ドイツの法定労働時間は1日8時間、上限は10時間としているが(労働時間法 Arbeitszeitgesetz)、実態は、産業別組合と使用者団体によって、週単位の労働時間を決め、労働協約を結んで実行する慣行がある。法定休日は24日で、日曜日および法定祝日は就業させてはならない。また、労働時間終了後に連続して休息時間(Ruhezeit)を11時間以上与えなくてはいけない。超過勤務は基本的にはないが、残業をした場合には「労働時間口座」に残業時間を貯めて、後日まとまった休暇の取得などに利用できる制度を持つ企業が多い。

労働時間を短縮できる権利

ドイツでは、6カ月以上在職している従業員には、労働時間を短縮できる権利があり、下記の条件を満たすと短時間労働者への転換ができる(図表1)。フルタイム労働者と比較して短時間労働者の労働条件が著しく劣ることがないように、パートタイム労働者を保護する明確な法令上の規定を設けている。

図表1 労働時間の短縮が受けられる前提条件
出典 www.globalworkplaceinsider.com

ワークシェアリングから次のステップへ

ドイツといえば、ワークシェアリング。ドイツの時短への取り組みが、欧州をはじめ、世界にワークシェアリングとして知れ渡ることになったのは、1993年の不況期にフォルクスワーゲン社が導入したモデルケースである。賃金を10%カットする代わりに労働時間を週35時間から28.5時間へと短縮し解雇を回避する。ドイツの企業は一時的な経済不況をカバーするための制度として、多くの時短モデルを導入した。結果、解雇の回避はできたが、高齢者など熟練労働者の労働時間が減ることで生産性の低下や、国際労働力の低下にもつながり、一律的な時短については結果として本来の目的を果たせなかった。しかし、ここで得た労使間協議の経験は、次の段階へと活かすことができ、不況を脱出した現在の多彩な制度の創出へとつながっている。

多彩なフレキシブル・ワークの法定モデル

ドイツの企業は、労働時間の短縮のほか、短期交代労働、フレックスタイム、ジョブシェアリング、部分退職(段階的定年退職)、無定形労働(個人は働く場所、期間を自由に選択する)、信頼労働時間制度(労働量は一定で、個人は労働時間、場所、期間を設定する)、自律的労働、労働時間口座、期間幅モデル、モジュラー制度、生産時間制、サバティカル、フルタイム・セレクト休暇などが法律によって定められており、企業は適切なモデルを活用し柔軟化を図っている(図表2)。在宅勤務についての定めはなく、従業員と雇用主との間での合意によって実現されている。

図表2 ドイツのフレキシブル・ワークの例

フレキシブル・ワークを導入した企業への表彰制度

このような制度を利用して、ワーク・ライフ・バランスを充実させた企業に対しての表彰制度も設けられた。たとえば、"Arbeitgeber Awards"では、フレックスタイム、在宅勤務、パートタイム・フルタイム労働、無料保育、育児休暇などに取り組む企業に対して表彰し、Bosch、Vodafone、Siemensなどが受賞している。また、"ワーク・ライフ・バランスに優れたドイツ企業(上位10社)"や、"ベスト・エンプロイヤー"といった表彰制度でも大手企業が受賞している。

日本ではどのような制度が有効か

ドイツの多彩な制度は、働き方改革への取り組みが始まったばかりの日本において、非常に興味深いものが多い。例えば、高齢化の進む日本においても、段階的な定年退職制度などは、最も活用しやすい制度であろう。加齢に伴う心身の変化に関しては個人差も大きく、個人の状況に合った引退制度は理にかなうものであるし、サバティカル休暇制度は、人生100年時代を生き抜くために、キャリアに向き合い、足りない知識やスキルを強化する時間としても有効に活用できるだろう。

グローバルセンター
村田弘美(センター長)

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