フレキシブル・ワーク 欧米の「新しい働き方」を支える政策・制度デンマークの「フレキシブル・ワーク」

ワーク・ライフ・バランス事情

経済協力開発機構(OECD)が調査したワーク・ライフ・バランスの評価が高い国ランキングでは、デンマークの得点は10点満点中9.1とオランダに次いで2位に位置している()。
ワーク・ライフ・バランスを測るもう1つの重要な指標は余暇時間とその質である。デンマークでは、フルタイム労働者は平均して1日の67%、つまり16.1時間を私生活(食事や睡眠など)と余暇(友人や家族との交流、趣味、ゲーム、コンピュータ、テレビなど)に費やしており、豊かな時間を過ごしていることが窺える(OECDの平均は15時間)。

フレキシブル・ワークを奨励する政府政策

デンマークでは、職業上の衛生安全に関する法令や、休息時間、労働時間、夜間勤務などに関する幅広い基準として、EU労働時間指令を導入している。
デンマークの賃金および労働環境は、基本的に労働組合と雇用者組織の間で締結された労働協約により確立されている。ソーシャルパートナー、すなわち賃金労働者と雇用者が合理的な方法で問題を解決できる限り、政府はなるべく賃金および労働環境の規則に介入しない。

政府の役割は、失業者のためのセーフティネットと積極的な雇用の取り組みを保障すること。政府とソーシャルパートナーの責任分担がデンマークの労働市場モデルの基盤となっている。
デンマークの労働市場モデルの背景にある哲学は、"ソーシャルパートナーが労働市場で生じる問題に最も優れた洞察を持つ"というものである。ソーシャルパートナーは、政府よりも迅速かつ容易に、目下の課題に見合う解決策を提示できる。デンマークの労働市場は、"争議よりも協力"が特徴で、経済成長と高水準の雇用および社会保障を組み合わせた柔軟な「フレキシキュリティ」政策は、積極的労働市場政策を中心とする労働市場改革、解雇・退職自由原則(柔軟性)、充実した社会保障・失業給付制度(安定性)の3つのゴールデン・トライアングルがうまく機能し成功を収めたモデルとして広く知られるようになった。

  • 労働時間
    デンマークには、労働時間に関する基本法はない。労働時間は雇用契約によって決まり、それが場合によって労働協約や事業所協定の一部となっている。しかし、デンマークの法律では労働時間に関して、「11時間ルール」「週に1昼夜の休暇を取得する権利」および「48時間ルール」という3つの明確なルールを盛り込んでいる。
    1つ目の「11時間ルール」は、労働環境法によって定められたもので、 従業員が24時間内に11時間の休息をとる資格を持つことを規定している。2つ目のルールは、労働環境法に従い、従業員は「週に1昼夜の休暇を取得する権利」を持つ。また、3つ目の「48時間ルール」は、労働時間法の規定により、1週間の平均労働時間は期間4カ月で計算して48時間(時間外労働を含む)を超えてはならないとしている。
    加えて、労働時間法では、夜間労働者は期間4カ月で平均した1日当たり労働時間が8時間を超えてはならない、としている。労働環境法では、18歳未満の労働者の労働時間は同一セクターで働く労働者の通常の労働時間を超えてはならない、労働時間は24時間当たりに8時間を超えてはいけないと定めている。
  • パートタイム勤務
    基本的に、デンマークの労働時間は週37時間と定められている。雇用者・賃金労働者法上のパートタイム労働では、労働時間が週8時間を超えていなければならない。賃金は、短縮労働時間に対する比率で算出される。例えば、週37時間の職務で労働時間が7時間短縮されている場合、1カ月の賃金は基本的に37分の30を掛けたものとなる。2014年の時点で、デンマークの労働力人口の24.6%がパートタイム労働者であった。
  • 時間外労働規制
    前述のとおり、デンマーク労働時間法の下で、労働時間の上限は時間外労働を含め48時間であり、期間4カ月の平均として算出される。時間外労働の定義は、労働協約の定めに左右される。そのため、通常の週労働時間を超えた労働時間のみを時間外労働とみなすと定めた労働協約もあれば、時間外労働に通常の1日当たり労働時間を超えた労働時間を含める労働協約もある。
    デンマーク労働時間法の前述の規則以外に、夜間労働を禁止または制限する法令はない。日曜出勤は禁止されておらず、適用可能な唯一の規則は前述の条項で、従業員はこれに従い7日ごとに1日の休暇を認められなければならない。
    時間外労働の割増賃金については、通常の給与の150~200%の額を支給する。一部の労働協約では、従業員はこの給与を受け取るか、給与に代わって休暇を取得するかを選ぶことができる。

フレックスタイムの導入は約97%

デンマークは、フレックスタイムを導入している企業の比率が高い国の1つである。柔軟な取り決めを行っている企業の比率は約97%(図表)であり、こうした取り決めは、労働協定の目的の1つとしても機能している。デンマークの労働文化と一致して、大半の雇用者は従業員が職務を遂行すると信頼しているため、フレックスタイムは極めて一般的に利用されている。

図表 デンマーク企業が導入するフレックスタイムの主要3形態とその比率
出所:Ibid

デンマークのフレキシブル・ワークは企業が主導

上記のとおり、デンマークではソーシャルパートナーが主導してさまざまなフレキシブル・ワークが推進されている。中でもDanske Bank、LEGO、Siemens、Novozymes、Lærernes Centralorganisationなどの企業の先進的な取り組みは、アワードなどで高く評価されている。
たとえば、ユニバーサル・バンクのDanske Bankでは、従業員のスキル、専門技能、会社への貢献を最大の資産と考えて、フレキシブル・ワークを、教育水準が高く創造性に富んだ従業員を採用する機会と捉えている。詳細なガイドラインを作成し、労働時間の貯蓄制度(タイム・バンク)や、個別化への対応をすることでリテンションにも有効性が高いという。
また、LEGOでは、玩具業界で初めて、国連グローバル・コンパクトに署名し、人権、労働基準、腐敗防止、環境に対する支援をしている。同社は、情報技術を駆使したリモートワークをはじめ、圧縮労働時間制、週休3日制を職場に導入し従業員の満足度を高めている。

デンマーク企業の特徴としては、早朝勤務のシフトなど労働時間や休暇制度の改革だけでなく、企業としての意思や目標を明確にし、労働者が集中して仕事に取り組める働きやすい環境や、健康管理にも配慮している。結果、労働生産性の向上にもつながる。また、労働者側もこのような制度を活用することで、より多元的かつ自律的な働き方へとつながっているようだ。

グローバルセンター
村田弘美(センター長)

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