フレキシブル・ワーク最前線 ~新しい働き方が組織を変える~ヤフー株式会社 ピープル・デベロップメント戦略本部長 湯川高康氏

ヤフー流働き方改革 「週休3日制」を検討へ

本社移転を機に働き方を変革、「週休3日制」の検討開始

2016年10月1日、ヤフー株式会社は本社(約5,700人)を東京都港区赤坂から千代田区紀尾井町の「東京ガーデンテラス紀尾井町」へ移転した。移転が決定したのは約2年前。この間に「働くとは何ぞや」という根本的な問いかけから始め、オフィスにいる意味、働く環境から得られる"気づき"や人と人とのコラボレーションで生まれる"価値"などについて喧々諤々の議論の末、新オフィスのコンセプトを決めた。これと同時にワークスタイルに関しても制度面から見直しを行い、ヤフー流の「働き方改革」の具体策を発表した。

中でも社会的に注目を浴びたのが「週休3日制」の導入の検討だ。これについてピープル・デベロップメント戦略本部本部長の湯川高康氏は「週休3日制は、その実現を目指してもっと労働生産性を上げよう、という経営のメッセージ。実現に向けてITやAIを活用して自動化できるものは任せ、もっと人間でなければできない創造的で付加価値の高い業務にシフトしていこうという提案です」と説明する。今後日本では労働人口の減少に伴い、社員の子育てや介護との両立がしやすい働き方やリモートワークなど幅広い選択肢を用意することが課題となる。 週休3日制実現に向けては、「曜日選択制の週休2日制や労働時間自体の増減など、さまざまな働き方のリズムの試行錯誤が必要。」と湯川氏は語る。IT先進企業の働き方改革への具体的な取り組みについて見ていこう。

オープンコラボレーション&グッドコンディション&ハッカブル

コワーキングスペース「LODGE」内のテーブルやソファは可動式で自由にレイアウトを変えられる

机をジグザグに配置したフリーアドレスで社員同士のコミュニケーションが活発に

新たな働き方を目指す新オフィスのコンセプトは3つある。
1つ目は「オープンコラボレーション」。全館フリーアドレスとし、机の配置もあえてジグザグに配置して部門の枠を越えたコラボレーションを誘発する仕組みとした。17階には社内外の誰でもが出入り自由な「コワーキングスペース「LODGE」を設置し、連日のイベントのを開催している。LODGEに設けられた内スタジオでのプロモーション映像の公開収録や、「擬似3D画像」をはじめとする最先端のコンテンツやUIの研究開発をおこなう研究チーム「先端技術室」の実際の研究の様子をオープンにするなど外部との交流が自然に図れる設計になっている。
2つ目が「グッドコンディション」で社員が安全・安心な環境で働けるよう食堂や診療所、マッサージルーム、仮眠スペースなどを充実させた。社員食堂や、カフェは 、食事をするだけでなく、フリーアドレスの一環として仕事や情報交換ができるスペースとした。
3つ目が「ハッカブル(未完成の、修正可能な)」で床や壁の一部をわざと打ちっぱなしのデザインにしたり、デスクなども基本的に可動式として自由にレイアウトが変更できるようにしている。IT企業らしく「未完成」であることをポジティブに捉え、完璧であることよりもチャレンジブルであり続けることをオフィスでも表現している。これら3つのコンセプトで従業員の働き方を変えることにより、新たなイノベーションを起こすことが新オフィスの狙いだ。

軽井沢や静岡からも通勤可能、自転車での快適通勤も

「働き方改革」では通勤にも目を向けた。住む場所の選択肢を増やすために10月から「新幹線通勤制度」(月額上限15万円を補助)と「自転車通勤」(月額5千円支給)を解禁した。「同じ金額を出すなら会社の近くで住宅手当を、という声もありましたが新幹線通勤の狙いは住む場所の多様性を実現したいということ。地域の魅力や課題を再発見したり、そこでの貢献の仕方を考えたりしながら、最終的に自社のサービスにも生かせたらいい。また親の介護や子育てで地元に帰るといったケースで役に立つ場合があると思います」と湯川氏。実際に静岡県や長野県から通勤するケースも生まれている。 自転車通勤に関しては従来は、駐輪場スペースなどの問題で実現できなかったが、本社移転を機に80台の駐輪場を確保、希望者を募ったところほぼ同数の希望があり全数埋まっている状況だ。「自転車通勤は通勤ストレスからの解放や健康促進が目的です。いったん直線10キロ圏内の人を対象としており、都内の練馬や自由が丘から通勤することも可能です」(湯川氏)。

リモートワークも生身のコミュニケーションも選択可能な環境を

新しい働き方への社員の反応は実際どうなのだろうか。湯川氏は「全館フリーアドレスでずいぶん働き方が変わったことを実感します。以前は目の前に部下がいたので、それだけでなんとなく意思疎通ができていた気がしていましたが、今は席がバラバラなので会った瞬間に声をかけて『あれ、どうなってる?』と進捗を確認するようになりました。エレベーター待ちでも以前はスマホでメールチェックなどをしていたのですが、今は『最近どう?』と会話する雰囲気に変わってきて、むしろ前よりもコミュニケーションの頻度が増えた気がします」と説明する。働く場所の多様性への取り組みについては約2年半前から「どこでもオフィス」というリモートワークの制度を導入しているが、10月からはこれまでの月2回から5回まで利用できるようにし、全社員の約半数が利用する。一方で「直接コミュニケーションを取ったほうが結局一番早い」という意見も多く、新オフィス自体も会社に来ると何かいいことがあるから社員が集まってくるということを前提にしている。「その人の置かれた状況に応じてリモートワークも通勤も選べる。多様性に対応した働き方の選択肢を増やしていきたいと思います」(湯川氏)。

週休3日制は今の労働のあり方への問題提起

「週休3日制については、事前に社員には社長の宮坂から話していましたが、 実際に報道に出たときには、社員から驚きをもって迎えられた部分もありました。しかし、今は『じゃあどうやったらできるのか』というふうに変わってきて、労働時間や働き方に対する意識の高まりを感じます」と湯川氏。実現までのロードマップについては、いきなり週休3日制ではなく、まず、有給取得率を上げ、土日を選択制にしたのち、一人当たりの生産性の向上を図りながら、週休2.5日制や労働時間の選択肢を増やすなどの段階を踏む可能性があると話す。「週休2日制自体、始まったのが半世紀前で実は普及率が50%超えたのはつい最近のこと。週休3日制はさらにハードルが高いと思いますが、これだけ世の中が進化しているのに人の生産性が上がっていかないのはむしろ退化だと思います。週休3日制は今の労働のあり方に対する一つの問題提起だと考えています」(湯川氏)。今後、労働力の確保が企業の課題となっていく中で、短時間労働や副業を認めることで優秀な人材の確保につながるという狙いもある。「週休3日制実現にはまだまだ課題がありますが、『我々はITの会社なんだからきっと実現できる』という志をもって取り組んでいきます」と湯川氏は力強く結んだ。

プロフィール

湯川高康氏
ヤフー株式会社
ピープル・デベロップメント戦略本部長
略歴
・2003年 ヤフー株式会社入社、新卒及び中途採用担当
・2005年 人事部 給与厚生 リーダー
・2008年 人事本部 人事厚生室長
・2012年 人事本部 人事企画室長
・2013年 ピープル・ディベロップメント本部人事企画室長
・2014年 ピープル・ディベロップメント統括本部 ピープル・デベロップメント戦略本部長