人生100年時代の働き方東洋インキSCホールディングス株式会社 グループ人事部 労政部長 栗林 誠氏/グループ人事部 人材開発グループ グループリーダー 関野純二氏

63歳・65歳の2ステップで定年引き上げ。 シニア世代倍増に備え、制度を再構築

シニア世代の比率が7%(2013年)から15%(2025年)に倍増

東洋インキグループは1896年に創業、印刷インキに始まり、現在では液晶パネルの色材や、自動車・エレクトロニクス分野の接着剤など数多くの機能性製品を提供する。事業のステージは世界中に広がり、22カ国で約70社、8,000名以上の社員が働く。同社では2014年9月に定年を63歳へ、2018年9月には65歳へと段階的な引き上げを行った。引き上げの背景としては厚生年金の支給開始年齢の引き上げによる無年金期間の発生、ならびに高年齢者雇用安定法の改正による65歳までの雇用義務への対応がある。また、社内的な状況としても60~65歳のシニア世代の比率が、2013年当時の7%から2022年には11%、2025年には15%となる見通しで、存在感を増したシニアに対する期待の高まりがある。同社グループ人事部人材開発グループの関野純二氏は次のように語る。

「2002年から再雇用制度を導入しており、多くの社員が定年後も継続して働いていたため、定年延長についても社内の抵抗感は少なかったと思います。63歳・65歳の2段階としたのは親の介護なども含めて60歳をゴールにキャリアプランを設計済みの人への配慮や退職金の支給が一気に5年先送りになることへの抵抗感を緩和するためです。経営層からは一気に65歳で、という意見もありましたが、現場の声を拾って慎重に決定しました」。

「シニア正社員制度」を導入、上司面談も真剣に

定年引き上げにあたっては新たに「シニア正社員制度」を導入、従来の再雇用制度に比べてシニア世代の役割を明確化し、最大で年収が180万円アップするなど処遇改善を行った。60歳時点で社員は全員「シニア正社員」に移行、新たな役割等等級制度が適用され、個々にシニア役割グレード(S1~S4の4段階)が設定される。シニア正社員への移行者は毎年約60人前後で、S1、S4は希少、S2・S3がほぼ半々の割合という。60歳以前同様、シニアにも目標管理制度が導入され、各期の目標設定と評価を実施することでモチベーション向上を図った。グループ人事部労政部長の栗林誠氏は、「再雇用制度の時代にも上司との面談は制度としてありましたが、実質的に会社の期待を伝えたり、日々の行動に対して上司がフィードバックしたりといったことは、形骸化していた部分がありました。今回のシニア正社員制度では目標設定時、中間報告、期末振り返りの3回、上司と本人の対話をしっかりとやってもらうことにしました。評価は相対評価で5段階に分けられ、年間賞与に反映されます」と新制度の狙いを説明する。

シニア正社員移行後も同じ職場で能力を発揮

関野純二氏

シニア正社員に期待する役割は大きく3つある。1つは豊富な経験・知識を活かした確かな業務の遂行能力、2つ目が現役世代に対する技術・技能の伝承、3つ目が当該領域における高度な専門家としてのスキルだ。シニア正社員移行後も、原則としてそれまでと同様の役割・仕事を継続、フルタイム勤務だが、健康への配慮から夜間のシフトからは除外する。同社では役職定年も60歳としており、シニア正社員が役職に就くケースはない。
「シニア正社員になった時点で全員と面談し、家庭の状況や仕事への取り組み方について伺った上で役割調整、目標設定などを行います。どの会社でも共通の課題かもしれませんが、管理職だった人ほど役職がなくなったときの心の準備ができておらず、年下上司との関係性などに戸惑うケースが見られます。例えば営業なら引き続き自分の顧客を持って動く、インストラクターになる、部長付で一担当者として活躍するなどその個人の希望と能力に応じて最適な役割を担っていただき、あくまでも新しい役割・目標を基準に行動評価を行います」(関野氏)

旺盛なシニアの労働意欲、課題は健康の維持

栗林 誠氏

定年延長についての社内の受け止め方は、シニア移行時の面談などの結果によると「やれるところまで頑張りたい」と前向きに捉える声が多いという。
「単身者が増えていたり、まだ子供が大学生だったりというケースも多く、ここ数年は『まだまだ本気で働きたいし、給料ももっとレベルアップしてほしい』という声が多く挙がっています。毎年、社員全員に『自己申告』という形で仕事の業務量ややりがい、職場のコミュニケーションなどに関してデータを取っていますが、シニアの社員についてはモチベーションや相互のコミュニケーションの低下は見られず、データ的には問題がないと思っています」(関野氏)
今後さらに70歳定年などを視野に入れた場合、課題は社員の健康維持だと栗林氏は語る。
「40歳あたりから健康を意識した働き方をしていく必要があると思います。健康診断の充実であったり、福利厚生面ではカフェテリアプランにスポーツクラブの利用補助を組み込むといったことは以前から実施しています。労働組合との協同で『3カ月間で何キロ歩きましょう』といったウォーキングのイベントも実施しています。病気のシグナルを見逃さないよう、健康診断で何か問題が見つかった場合は、有無を言わせず業務命令で100%医務室に出頭してもらうようにしています」(栗林氏)

"会社の期待"がシニアのモチベーション

東洋インキグループ全体では8,000人超のグループ社員のうち、海外の社員が約6割を占める。グローバル社会では定年制がない国がほとんどであり、いつまでも日本の制度中心で組織の制度設計を行っていていいのかという問題意識もある。
「個人的には、65歳定年の次は定年制のあり方についても考えるべきかなと思っています。理想論ですが、いくつになってもやりがいを感じられる会社でありたいですし、仮に本人にとって他に違う目標が見つかればそちらに移っていければいい。そういう意味で65歳以上の生き方は会社が決めるのではなく、その人の意志に任せられる仕組みがいいと思っています」(関野氏)
「再雇用で長くお勤めの方に聞くと『会社として必要だと言ってくれるなら喜んでやります』とおっしゃる人が多い。私自身も似た感覚で、会社として『ぜひやってほしい』という場があれば頑張りたい。そうでなければ若手に活躍の場を譲り、地域活動なり趣味なり一所懸命打ち込めることに没頭したいと思います」(栗林氏)
人生100年時代に向けて会社と個人の新たな向き合い方、多様な生き方への模索が続く。

プロフィール

東洋インキSCホールディングス株式会社
グループ人事部 労政部長
栗林 誠氏

略歴:
福岡県出身。
1991年 東洋インキ製造株式会社入社
2018年1月 現職、現在に至る。

東洋インキSCホールディングス株式会社
グループ人事部 人材開発グループ
グループリーダー
関野純二氏

略歴:
東京都出身。
1995年 東洋インキ製造株式会社入社
2018年1月 現職、現在に至る。