1.自律人材輩出のカギは現場への徹底した権限移譲

 <フィンランド内閣府長官(元教育相) オッリペッカ・ヘイノネン氏 プロフィール> 

 

 1964年生まれ。ヘルシンキ大学で法律を学ぶ。中学教師を経て、1991~1994年

フィンランド教育大臣特別顧問。1994~1999年、教育大臣。2002年からフィンランド国営放送取締役。2012年より現職。

 

 

 

 

 

 フィンランドは、OECD(経済協力開発機構)が3年に1度実施する国別の学習到達度調査(PISA)で、2000年、2003年と2回連続で「学力世界一」となった。牽引したのは、Works誌123号『進化する人と組織』に登場したオッリペッカ・ヘイノネン氏(現・内閣府長官)である。

 

 彼は、1994年に29歳で教育大臣に就任。児童たちの学習目標は示しつつも、学習指導要領の項目数を3分の1に削減した。それによって教科書検定もなくし、教師たちは自ら教材を準備し、学校ごとに独自のカリキュラムを作ることが可能になった。その狙いは、単に知識を詰め込んだ人ではなく、問題解決能力を身につけた、自律的な人材を輩出することにあった。
 
 ヘイノネン氏は、教育大臣就任後もさまざまな組織を運営してきたが、「部下に目標を達成させることではなく、目標を達成するためのスキルを部下に身につけさせることだ」と、人材マネジメントの要諦を説明する。そこには、教育現場だけでなく、企業組織にも通ずる「自律的に個人の成長を促す」という経営哲学がある。

 ヘイノネン氏の教育改革が功を奏したのか「今はまだ断定できない」と本人は言うが、フィンランドは、世界経済フォーラムが毎年実施するIT競争力ランキングで2013年に世界144カ国中1位を達成した。フィンランドは、今、モバイルやインターネット関連のベンチャー集積地として輝きを増している。

 その代表格が、2010年の設立からわずか3年で30億ドルの価値を持つ企業に急成長したソーシャルゲーム会社、スーパーセルだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スーパーセル フィンランド・ヘルシンキ

 

 事業内容:モバイル/ソーシャルゲーム開発、インタラクティブ・エンターテインメント。2010年の設立からわずか3年で30億ドルの価値を持つ企業に急成長した。

スーパーセル社のゲームの代表作は「クラッシュ・オブ・クランズ」「ヘイ・デイ」。

 

 

 

 

 

<スーパーセル CEO イルッカ・パーナネン氏 プロフィール> 

 

22歳の時からゲーム業界に携わる。2010年6月スーパーセル社を共同経営者の1人として設立。ゲームの主流が据え置き型ゲーム機や携帯型ゲーム機からスマートフォンとタブレット端末に移ると考えた。

 

 

 

 

 

 

<スーパーセル オフィスマネジャー エリセ・ラヤラ氏 プロフィール> 

 

 2011年スーパーセル社に入社。幼稚園の先生、リムジンカーのレンタル業などを経て、ウエブストアに7年間勤務した後に現職。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ITベンチャー企業の急成長 自律性と他律性とのバランスルール

 

 

 スーパーセル社は、ソーシャルゲーム産業においてはトップクラスの業績を収めるが、従業員数は130人に留まる。創業者の1人でCEOのイルッカ・パーナネン氏は、現状では従業員規模を増やそうと考えていない。彼は、「いい人が見つかった場合だけ採用する」とし、HRも担当するエリセ・ラヤラ氏も、「積極的な採用は行っていません。採用するとすれば、自律的な人材のみ。たとえ、世界一のプログラマーであってもです」と語る。

 

 スーパーセル社では、社員の自律性には徹底的にこだわる。パーナネン氏は、「幹部は従業員に何をすればよいか指示しない。幹部の役目は、部下自身が才能を発揮できる環境とチャンスを作ることだ」と話す。

 

 会社は社員の自律性と企業の他律性との折り合いをつける場だ。この折り合いのつけ方が社員と企業双方の悩みどころといえるが、社員の自律性と会社の収益や他律性とのバランスを取るためのルールがここにはある。

 

 たとえば、製品開発の段階では、CEOや幹部が「このプロジェクトはダメだ」と思っても社員の発想をつぶすことはない。幹部の考えはどうあれ、試作品の市場テストで厳密な数値目標を掲げ、目標を達成すれば商品化し、そうでなければプロジェクトは終わる。

 

 社員の勤務体系も毎日10時から15時というコアタイムを設け、その時間帯以外は、柔軟な働き方を許容している。

 

 

 

<スーパーセル ゲームクリエイター トウコ・タフコカリッオ氏 プロフィール>

 

 2008年ヘルシンキ大学において、理論物理学で博士号を取得。2009年カナダ・ビクトリア大学に留学。2011年に自ら制作したゲームがヒット。同年、スーパーセル社に入社。妻は中学校の数学教師、4歳と2歳の子どもを持つ。

 

 

 

 

 

 

小さなセル(単位)各自が判断できる専門家集団で構成

 

 

 ヘルシンキ大学で理論物理学の博士号を取得した後、2011年末にスーパーセル社に入社したゲームクリエイター、トウコ・タフコカリッオ氏は「自由と協調のバランスを取り、合理性を追求する風土がある」と言う。

 

 アイディア勝負に思えるゲーム制作だが、商品化には発案、コーディング、プログラミング、キャラクターデザインなど複数のスキルと知恵が必要になる。CEOのパーナネン氏が採用すべき「いい人」の条件に、ゲーム制作に対する情熱、潜在力だけでなく、「ここにいる、みんなとうまくやれる人」を挙げるのはこのためだ。

 

 なるべくメンバー同士で議論して、合意形成を目指す。意見が衝突した場合には多数決で決めず、デザインに関することはデザイナー、プログラミングに関することはプログラマーなど、各担当責任者が決定する。

 

 優秀な人材だけを集めても、パレートの法則に照らせば、一生懸命頑張る人は2割になってしまう。働く人の懸命度が「2:6:2」の比率にならない防御策について、タフコカリッオ氏は「スーパーセル社では小さな単位(セル)にしていくこと。また、専門家でセルを構成すること」と、社名の由来に重ねて説明した。

 

 会社発足4年目を迎え、優秀な人材が集まるなか、CEOのパーナネン氏は「私がもし今から、入社しようとしても絶対に入れない」と笑う。しかし、パーナネン氏による、自律的な人材が活躍できる場を設定する力。そして、人をつなぐスキルが組織全体に浸透していることが、スーパーセル社急成長の原動力になっているといえよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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