Section2:若い才能に火を点けるには

Section2:若い才能に火を点けるには

デルタスタジオでは、科学、ビジネス、医療などさまざまな領域のリアルな体験を通じ、子どもの才能と可能性を引き出す「点火」のプログラムを提供する。子どもの才能と可能性を引き出す「点火」のプログラムを提供する渡辺氏に、若い才能をいかに開花させるか、そのために組織ができることは何かを聞いた。

 

—————————————————————————————————————————————————————

◇渡辺健介氏(デルタスタジオ代表)

 

Watanabe Kensuke_マッキンゼー・アンド・カンパニー東京オフィスに入社後、ハーバード・ビジネス・スクールに留学、マッキンゼー・アンド・カンパニー ニューヨークオフィスを経て、デルタスタジオを設立。渡辺氏は米国イェール大学で建築の授業を受講した際に、強く惹かれたが、「遅かった」という経験をした。「人が才能や興味をもっと早く見つけられれば、本人にも社会にとっても価値がある。そのためのきっかけを作りたい」ことを目指す。

—————————————————————————————————————————————————————

  聞き手 中竹竜二氏(日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター)

 

 

 

前倒しして経験を積ませることで、どんどん成長する

 

中竹 渡辺さんは、子どもの才能と可能性を引き出すプログラムを提供していらっしゃいます。子どもたちはどんな風に変わっていくのでしょうか。

 

渡辺 子どもたちの進化のスピードはすごいです。

 たとえば、マーク・ジェイコブズの生きざまに触発された小学校6年生の生徒がいました。その子は夏休み中に、自発的に服を「ゼロ」から作りました。代官山のおしゃれなお店で売っていてもおかしくない質の洋服です。そして、ジェイコブズが世界を飛び回るさまを見て、英語の勉強に取り組むようにもなった。いつか自分もあんな風に世界を股にかけ、世界のファッションアイコンと一緒に仕事をしたい。そんな思いが高じた結果だと思います。

 また、「デルタチャレンジ」という小学生が自分で企画して、自分で実行する旅のプログラムがあります。そこでは僕たちは子どもたちの安全を確保する以外には、ギリギリまで支援の手を差しのべません。いろいろ失敗させて、そこから学ぶことを大切にしています。

 たとえば、電車に乗り遅れそうになっても、何時間道に迷っても、お米を買い忘れて晩御飯がカレーのルーだけになりそうになっても、黙って子どもたちを見守っています。失敗をさせてから、「5分前集合」「事前に調べる」「買い物リストを作る」ということの重要性を自ら気付かせるのです。そうすると、子供たちは素直だし吸収力が高いので、3日間の合宿でみるみる成長し、顔つきまで変わっていきます。

 

中竹 子どもも、経験を積ませることでいろんな素養を身に付けられるということですよね。

 

渡辺 旅のプログラムでは、反省会をきちんとします。そうすると、出てくる反省点はたいてい大人と同じ。段取り、リーダーシップ、ものの言い方……。それらについて、小学生の子どもでも十分に気付き、それを修正して成長できるということなんです。さらに、この頃に人の幹は形成されてしまう。だからこそ、もっともっと前倒しで多様な経験をさせるべきだと思います。

 

中竹 僕は現在、ラグビーの世界で、「コーチのコーチ」という立場です。高校生を指導する指導者にその指導法をコーチする仕事なんですが、指導者たちは高校生に練習を任せるということを好まない。はなから「できない」と思っているからです。しかし、それは勝手な思い込みであることが多い。たとえ高校生であっても、自ら考えることによって、彼らが本当に有効だと思える練習メニューを組んで、実行することはできるのです。

 

 

 

 

失敗しながらもやりきったことが自信になる

 

渡辺 僕は日本の社会に最も欠けている教育の要素は、「コトを成す」体験、つまり「場数」を踏ませるということだと思っています。

 

中竹 具体的にはどういうことですか。

 

渡辺 先の旅の例で言えば、本当に何から何まで、子どもが自分でやるのです。まずは4日間かけて準備。その後に自分の親に旅の企画のプレゼンをして、許可が下りないと行けない。そのために、どこに行くのか、どうやって行くのかを計画し、キャンプ場の手配をして、食べるものを決め、それをどこで買うのか、予算をやりくりして、現地でのイベントなども相談して、すべてプランニングします。そうやって計画を立てても、バスに乗り遅れたり、雨が降ったり、さまざまなトラブルがある。それでも、最後までみんなでやりきるんです。

 

中竹 挫折しそうになったりしないんですか。

 

渡辺 キャンプ場から買い物に出て、いざ帰るときになったら、最終のバスがなくなっていました。結局、3時間歩いて帰ったんです。諦めてしまうかな、と僕は思ったんですが、全員で歌ったり、ゲームをしたりして、楽しんで帰ってきました。

 

中竹 何が悪かったのか、そのなかでもよかったことは何か、後で反省することによって、必ず彼らは進化しますよね。そして、何より失敗しながらもやりきったことが自信になります。そういう経験を、いくつも若いうちから重ねておくことが大事だとおっしゃっているんですね。

 

渡辺 僕が米国に留学していたとき、同世代の若者が自分よりもずいぶん成熟しているように思いました。幼少期から自立することを求められ、自ら考え、行動する場がたくさん与えられる。そして学校でも受験の際にもそのことが評価される。だからこそ自分の考えをしっかりと持ち、仕掛けることができる人材が輩出されるのだと思います。

 

 

 

 

「自分はこう思う」を外に発信し、行動に移すスピード感

 

中竹 実際に、渡辺さんの経験のなかで実感されたことはありますか。

 

渡辺 たとえば、ハーバード・ビジネス・スクールで、インドの貧しい村を訪問したことがありました。その村の多くの子どもは、小学校は卒業するものの、中学校には徒歩で2、3時間かかるため、行かないというのです。それを聞いて、ある同級生が帰りのバスのなかで「校舎さえ建てれば、教師や教科書は政府が用意してくれるそうだよ」と話していました。そのうち彼は仲間とプロジェクトを組んで、1年後にその村に中学校を作ってしまったんです。

 彼らは、現状を「そういうものだ」と受け入れるのではなく、「こうあるべきだ」と主体的に形作っていくための思考力と行動力がある。その強さを実感しました。

 

中竹 自分でリスクを負って、自分の思いを形にしようとして、失敗してはじめて学びになる。その繰り返しが「場数」ということですね。

 

渡辺 そういう経験が、日本では若いうちはなかなかできない。海外に出てあらためて実感するのは、日本人は平均的に、極めて優秀だということです。しかし、リーダー層を育成する土壌が不十分です。アメリカ流のリーダー教育をするのではなくて、日本のよさを活かしつつ、どのようにその土壌を作っていくかが私のテーマです。

 

中竹 渡辺さんの話から、2つの学びがあります。

 まず、自ら思いを持って、エンジンに点火して、何かコトを成すには、若いうちから「場数」を踏むことが重要であること。もちろん幼少期から経験を積めればいちばんいいのですが、そうでなくても、そういう経験が人を開花させる可能性がある、ということです。

 そして、もう1つは、日本という社会のなかでも、何かのきっかけで「場数」を踏んでいる若者は、コトを成すには十分なほど、成熟している可能性があるということでしょう。「若い」「仕事の経験が浅い」という理由で、若手に仕事を任せない、あるいは彼らの言うことに耳を傾けない企業がありますが、それはお互いにとって大きな機会損失だといえそうですね。

 

 

 

 

「コトを成す人材」をどう選抜し、どう開花させていくか議論すべき

 

渡辺 日本企業や社会には、考えなくてはならないことがいくつかあると思います。

 アメリカには、学校にも企業にも「エレベーター」があります。将来、リーダーとして期待されている層は、常に選抜され、一般とは違う速度の道が用意されているんです。そのように早くからリーダーとしての自覚を持ち、育成されてきた人材と対等に戦える人材を育てる日本流の方法を確立しなくてはならないと思います。サッカーでも、ラグビーでも全日本の育成選手はいますよね。

 

中竹 確かにそうです。そう考えると、ビジネスの世界でいないのは違和感があります。

 

渡辺 以前、かつて日本代表で活躍したサッカー選手が、日本代表をいかに強くするか、熱く語っていました。そのような熱意を持って「コトを成す人材」をどのように選抜し、どう開花させていくか議論すべきだと思うんです。そうやって、「仕組み」を作るのが1つ。

 そして、別の角度から見ると、組織文化の問題もあります。より年齢を問わず意見が言い合えて、思いや才能のある人材にはチャンスが豊富にある組織に変わっていく必要があるでしょう。

 

中竹 日本企業が抱える問題は、もちろん、さまざまあります。もともと組織構造や人事制度が年次管理を基本に作られていたせいもあって、組織のなかでの声の大きさが年齢と強く結びついています。

 さらに、これからは少子高齢化がますます進み、自然に任せると若者は会社のなかでどんどん減っていく。そうすると、彼らの声は相対的に小さくなります。

 結果、彼らの意見は届かないし、せっかくの才能も見えてこない、ということになりかねません。

 

渡辺 たとえば僕らのように、教育を変えていこうとする人がいる。そして、マーク・ジェイコブズに感化された子のように、多様な才能を開花させる子がたくさん出てくる。しかし、やはり壁になるのはペーパー重視の受験戦争ですし、年功序列を重視する大企業かもしれません。大企業の強みを生かしつつ、どうやって若者の感性や爆発力を用いてイノベーションを起こしていくか。その問題を企業はどう解決していくのか、考える必要があると思います。

 

 

 

 

突き抜けた個人は、「何をされたくないか」を再考する

 

中竹 若者だとしても、「場数」を踏んでいれば、任せられる力は十分あるのに、勇気がなくて任せられない企業も多いでしょう。渡辺さんはマッキンゼーにいらっしゃった。若いうちから困難なプロジェクトをたくさん任せられる印象があります。

 

渡辺 マッキンゼーでは常に「Stretch but achievable(今の自分の能力以上だけど頑張れば達成しうる仕事を任せる)」な仕事を与えられます。1年目の社員からプロフェッショナルとして扱われ、優秀な人材は年齢に関係なく昇進させます。マッキンゼーには突き抜けた個人が多く存在し、その突き抜けた個人は、スポーツのようにフェアで実力主義の環境を欲しているのです。

 

中竹 よく、企業の方から「今時の若者は挫折していないからダメ」「挫折した経験が重要だ」と聞きます。実際には、「挫折」が大事なのではなく、そこを乗り越えた経験が重要なのだとわかっているはずです。だとすれば、別に大人の世代が言うような挫折を経験していなくても、何か課題を乗り越えて「コトを成す」経験をしていれば十分でしょう。

 挫折をさせたいから難しい経験をさせるという考え方から、難しい課題に自発的に取り組んでいくような環境を作るという考え方に変えることが重要ですね。

 

 

 

▲ページTOPへ戻る