Section2:優秀な若者をいかに集め、開花させるか

中高生向けに「ITキャンプ」を開催する水野氏に、ITキャンプを通じ、中高生の意欲や才能をどう引き出すのかを聞いた。また、このプログラムには「メンター」として優秀な学生、大学院生が集う。彼らをどうやって惹き付けているのだろうか。

 

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◇水野雄介氏(ライフイズテック、代表取締役CEO)

 

Mizuno Yusuke_大学卒業後、教員を経験。既存の教育のあり方に疑問を持ち、中高生向けの「ITキャンプ」事業を2010年に立ち上げた。iPhoneアプリの開発やゲームデザインなどの最新IT技術を学ぶことによって、中学生・高校生の「創造する力」と「つくる技術」の習得を目指すプログラムである。経験がなくても参加でき、技術を習得できるカリキュラムが用意され、「楽しく」「自主的に」「自然と」学ぶことを目指す。

 

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  聞き手 中竹竜二氏(日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター)

 

 

 

子どもの「褒められたい」気持ちに応える

 

中竹 水野さんは中高生に向けて、「ITキャンプ」というプログラムを提供していらっしゃいます。なぜ、この事業を始めたのですか。

 

水野 教育を本当に変えたいという思いがありました。教育を変えるには、先生の質を上げる、国の制度を変えるなど、方法はさまざまありますが、僕はサービスから変えるのが最も早いと思った。本当に子どもが一生懸命になって、何度も来たくなる、受けたくなる教育サービスを作ることが大切だと考えたのです。

 

中竹 なぜ、ITという分野だったのですか。

 

水野 1つは、僕が学校の教師をしていたころの経験です。何人かの子どもがゲームを作りたいと言ってきました。作った子は「見てほしい」と持ってくる。彼らは褒められたいんだ、と思いました。ふだんは「やめなさい」と言われ、褒められることはない。実社会では求められている能力が、親には伝わっていませんでした。子どもが好きな領域ならば伸びる。そして学んでおけば、社会に出てから役に立つ。そういう学びの場を形にしたいと思ったのです。

 

中竹 ITという領域だと、興味を持つ子どもが限られることはないんですか。

 

水野 子どもの可能性を最大化したいというのが、僕が使命感を持って取り組んでいること。とはいえ、最初からすべての子どもに対しては無理です。たとえばクラスに45人いるとして、全員は難しい。それでもITに興味を持つ子が5人いるんだったら、まずはその子たちの可能性を最大化してあげる仕組みを作ることが大事だと思いました。

 それに、想像以上にITに興味を持つ子どもの数は多いし、その多様さにも驚かされます。当初、パソコンやゲームが大好きなおとなしい子をイメージしていたのですが、実際にはスポーツをやっている子や音楽をやっている子、リーダー格の子もいるというように本当にバラバラです。ITスキルは、もはや「みんなが身に付けたいもの」になっているんですね。

 

 

 

 

やらされたら、子どもはとたんに興味を失う

 

中竹 「ITキャンプ」のようなプログラムに参加して、自分が一生懸命になれるものを早くに見つけた子どもは、どんどんその才能を開花させていくでしょう。一方で、企業では「若者の意欲を引き出せない」と悩んでいる人事や現場のマネジャーが少なくありません。そういうなかにも、本当はいろいろな思いを持っているにもかかわらず、まだ開花していない若者がいるように思います。もちろん、年齢は異なりますが、意欲を引き出す秘訣はありますか。

 

水野 できる子はすぐできる。でも、できない子は2時間やってもできない。すると嫌になってやめてしまう場合があるんです。でも、たった1回できないことで嫌になったらもったいない。だから僕らは「メンター」という仕組みを作っていて、5~6人のグループに1人大学生が付いて、わからなかったら聞けるようにしています。小さな成功体験をどんどん積み上げることが大事だと思います。

 もちろん、そもそも楽しいこととか、ワクワクすることにしか子どもは反応しません。でも、それは分野の問題だけではなくて、「できる」楽しさが欠かせません。コードを書いている最中、そんなに楽しいかと言えば、難しいし、苦しいこともあります。でもできあがって、人に使ってもらい、レビューしてもらって、そして、何かの役に立つ。その成功体験が、次の頑張りにつながっていくんです。

 また、場の設計も大切です。僕らはできるだけ、ITキャンプを「社会が広がる場」にしてあげたいと思っています。ITだからといって、バーチャルな世界にこもるのではなくて、リアルな場であることの価値を追求しているんです。

 単純なことですが、この場で本当に友達ができることや、大学生とつながって、いつでも質問できる。あるいは、起業家の方や研究者の方に来てもらって、話をしてもらったり。そうやって、ITだけではなく、多様な分野、多様な人に触れることで意欲的になっていけると思います。

 

中竹 特に伸びている子の特徴はありますか。

 

水野 伸びている子の家庭環境には、共通点があります。何かを「やらせる」のではなくて、好きなことができる環境を作っています。子どもがやりたいことがある場に連れていく、その領域に携わる人に会わせる、というように。自由にさせる、という家庭内の雰囲気を作って、できたら褒めて、ダメでもしからない。次にできることを考える。やらされたら、子どもはとたんに嫌になりますよ。

 

 

 

 

トップ人材をドラフト会議で指名するような「出口」を作りたい

 

中竹 それは、企業はやはり、反省点がありますね。では、ITで才能を開花した人を、どうすれば社会で活躍させていけると考えていますか。

 

水野 「入り口」と「出口」づくりが急務だと思います。イメージは、野球の世界です。高校野球をやっている子は全国で16万人。そのなかのトップは、ドラフト会議で球団から指名を受ける。親も、自分の息子に野球の才能があるならば、プロ野球選手になれれば幸せかもしれない、という道筋が見えています。ITの世界も、こうなればいいと思っています。

 ITキャンプのような仕組みで、多くの子どもがこの世界に入ってくる。そして、部活のような形で切磋琢磨して頑張って、トップの子は企業がドラフトで指名する。そうしたら、親も、子も、学校も一生懸命になりますよね。

 これは決して非現実的なことではなくて、英国の高校生が作ったアプリの会社を、ヤフーが3000万ドルで買収する、というようなことが起こっているんです。

 

中竹 新卒一括採用で、みんな同じ採用のプロセスに乗せて、同じ処遇で採る、というようなやり方では、そういう若い才能を採用するのは難しいですね。買収という形でなくても、優秀な学生と個別に契約するくらいのスタンスも、いずれは必要になるかもしれません。

 

 

 

 

社会的使命感を語ることで、優秀な学生が集まる

 

中竹 子どもに成功体験を積ませるために、先ほど伺ったメンターの大学生の役割は、とても大きい気がします。

 

水野 そうですね。彼らは、家庭教師や塾の講師をすれば、時給2000円、3000円を軽く稼げるような優秀な学生たちです。私たちの日給はそれに比べるとかなり安いのですが、それでもうちに来てくれています。

 

中竹 どうやって集めているんですか。

 

水野 教育を変えたいというビジョンや社会的使命を語り、ITスキルが身に付くという話をすると、皆、興味を持ってくれます。

 メンターはそれなりに大変な仕事です。たった3日間で子どもに成功体験を積ませるには、マネジメント能力が必須です。オリジナリティのあるものを作って、ほかの子と違う発表ができて、達成感を持つ。それを時間内に完結させるために、メンターはキャンプ中、夜中まで子どものために資料を作ります。彼らも「つらい」と言いますが、最終日、生徒の発表が終わった後、生徒が泣いているのを見ると、皆、「やってよかった」と思うようです。

 メンターの採用は、今、仕組み化を進めています。IT企業を中心に5社と提携して、採用と研修を一緒にやっています。大学生にとっては、スキルも身に付くし、企業とのコネクションもできる。企業にしてみれば、優秀な学生と出会うきっかけになる。みんなにとっていい仕組みなんです。

 

中竹 今回取材した多くの若者たちが集まるのは、強い使命感を持つ人やプロジェクトの周りです。水野さんも、まさに優秀な人材を集めるために、使命感やワクワクすることをこの仕組みのなかに埋め込んでいるんですね。