Section2:海外就職する若者たちの価値観とは?

Section2:海外就職する若者たちの価値観とは?

日本を飛び出して海外で働く若者たちの価値観や行動スタイルを、森山氏に聞いた。「日本に帰ってくることを前提としない」「軽い引っ越しのような感覚で海外に就職する」など、若者たちの価値観の大きなシフトを感じているという。

 

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◇森山たつを氏(海外就職研究家)

 

Moriyama Tatsuo_早稲田大学理工学部卒業後、外資系システムベンダー、日系大手自動車メーカーに勤務。退職後、「ビジネスクラスで世界一周」を敢行。そのとき、海外の主に日系企業で若手日本人の採用ニーズが多くあることを知った。そうした情報をSNSやツイッターを通じて発信し、海外就職研究家となる。主にアジア諸国で「海外就職ツアー」を開催する。『セカ就! 世界で就職するという選択肢』(朝日出版社)など、著書多数。

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  聞き手 入倉由理子(本誌編集部)

 

 

 

アジア諸国で現地採用される、ポジティブな若者たち

 

入倉 アジアに若者が単身でわたって、現地採用で主に日系企業に就職しているということですが、実際にはどんな状況なのですか。

 

森山 私自身がアジアで働こうと各国を回っていたとき、「けっこう仕事があるな」と思いました。しかも、魅力的な仕事です。確かにハイレベルな人材を求める企業もあるのですが、日系企業の場合、そうした層は基本的に駐在員が占めています。現地採用の場合、「TOEIC600点程度で十分、日本で3年くらい働いた若者」を求める企業も多いことを知りました。そして、実際に若者がそういう企業に就職しています。

 

入倉 人数はけっこういるんですか。

 

森山 たとえばジャカルタ。私は2012年に「ジャカルタ就活ツアー」を企画し、日本から数十人の若者を連れて現地を訪問しました。そして、「就職して実際にはどうか」をリアルに伝えるために、現地で既に働く若者と交流する場を設定しようと思いました。そこで、僕のツイッターで、「ジャカルタで働いている人、飲み会やるから集まって」と呼びかけたら、日本人の若者が30人以上、あっという間に集まりました。

 

入倉 どんな若者が多いんですか。

 

森山 もちろん、日本の職場環境や労働環境がよくないというマイナス面から海外就職した人も少なくありません。しかし、日本経済が縮小しているなかで、もっと広いところ、これから伸びていくところで仕事がしたいという人もいます。多くの人は、混在型ですね。私の印象では、ジャカルタで新しいチャンスを見つけて、自分の生き方を決めるのだ、というポジティブなマインドの若者が多い気がします。

 

 

 

 

若者にとって、海外就職は単なる「引っ越し」

 

入倉 日本企業の採用面接の現場では、海外に行っていたという若者に対して、「モラトリアム」という評価を下すことが少なくありません。

 

森山 そのとらえ方は、現状を正しく認識していないかもしれません。「モラトリアム」ということは、海外に行って、将来日本に帰ってくることを前提としているわけで、「本業とする場は常に日本にある」というイメージです。しかし、今後は日本が本業の中心であり続けるとは思えません。日本のシュリンクした市場ではなく、売り先はダッカだったり、デリーだったり、バンコクだったり……と、新興国にどんどん移っています。だから、日本で働くことが偉いわけでは決してありません。

 

入倉 そういうことは、若者の多くは理解しているということですか。

 

森山 全員とは言いませんが、かなり理解していると思います。将来、日本で働きたいという若者がいる一方で、かなりの割合でずっとジャカルタで働きたいと思っている若者もいます。そして、大きく違うのは、彼らの意識です。1つ前の世代と比べて、海外就職ということを、それほど大ごととらえていないのだと思います。彼らにしてみれば、「引っ越し」のようなものでしょうか。

 

入倉 どういうことでしょうか。

 

森山 たとえば、仙台で生まれた人がいます。そして、高校までは仙台で過ごしました。その後、東京の大学に入って、卒業後は大阪本社の会社に就職するとします。これは、ミドルエイジにとって普通のことです。しかし、その後は理解を超えていきます。テレビを日本で作っていたけれど、売れなくなった。じゃあ、ジャカルタでテレビが売れているみたいだから、ちょっと仕事を探してみようかな、と思って現地に引っ越し、就職先を見つける。そして、今度はインド工場の立ち上げのために引っ越し……。そんな風に、軽く世界を転々とする人が現実的にたくさんいるのです。

 昔は、生まれた土地で一生を過ごす人がほとんどでした。しかし、東京など都市圏に引っ越すのは普通になった。次は、地球全体にその領域が広がってきているのです。

 

 

 

 

面白いと思うことには、とことん「肉食」

 

入倉 そうした変化を理解していないと、若者のことも見誤ってしまいますね。

 

森山 そうですね。価値観の多様化は、かなり進んでいると思います。かつては車、お金、ブランドものなど、興味の選択肢が5、6種類しかなかったものが、今は100万通りくらいあります。話を聞いていると本当にそれぞれで、調べようとすればインターネットを使って無限に調べられる。だから、マスメディアや大企業が提供するような情報や商品に興味を示さないのも当然です。それに興味を示さないから「草食」「意欲が足りない」というのはかなり偏った見方ですね。みんな、面白いと思うことには、とことん「肉食」。ただ、それは大人のスコープに入っていないものなのです。

 

入倉 では、興味を持てることであれば、かなり一生懸命やるということですね。

 

森山 そこは、すごい力を発揮します。私が接していて感じるのは、スピード感です。『リーン・スタートアップ』(日経BP社)にあるように、世界の企業の潮流は、スピード感のあるアジャイルなモノづくりです。それと同じような身軽さを日本で持っているのは、若者です。

 先ほどの引っ越しの話と一緒で、「面白いから、明日やろうか」みたいな感じ。今日話したことが、明日にはアプリとしてできあがっている。そんな感じです。

 

入倉 そういう若者は、日本の大手企業には興味を持たないのですか。

 

森山 私は米国系の大企業に勤務していましたが、確かに大企業になれば、日本の大手企業と同様にスピード感は落ちるんです。ただ、そのなかにあっても、常に面白いことをやろう、変えていこうとする人が組織を動かしていきます。

 海外に出ていく若者のなかには、「これはおかしいなあ」と思っていても指摘できない日本企業の文化に嫌気がさしている人が少なくないと思います。

 

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