Section1:100人以上の実績を持つインタビュアー

Section1:100人以上の実績を持つインタビュアー

これまでに棋士、デザイナー、職人、世界的企業の社長、芸能人やホストまで100人以上にインタビューし、記事を発信している田中氏。なぜ「インタビュアー」という仕事を選び、インタビューを続けるのか。その職業的価値観を聞いた。

 

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◇田中 嘉氏(日本インタビュアー協会認定インタビュアー)

 

Tanaka Yoshimi_1991年東京生まれ。6歳より能を始め宝生流仕舞課程を修了。高校時代にオーストラリア、英国ブライトン、ケンブリッジへの留学を経て慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)へ入学。清水唯一朗研究会でインタビューを学ぶ。19歳でインタビューを始め、大学2年時からはこれを生業としている。講師として、品川女子学院総合授業や文章編集セミナー、その他都立高校などでインタビュー講演を行う。2013年に「聴き方大学」を開講し、聴く力の普及活動をしている。

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  聞き手 入倉由理子(本誌編集部)

 

 

 

人の人生を生きられるのがインタビューの面白さ

 

入倉 肩書きがインタビュアーとなっています。仕事としてやっていらっしゃる。

 

田中 はい。大学2年生から、紙媒体やWebなど、さまざまな媒体でインタビューし、原稿を書く仕事をしています。

 インタビュイーはさまざまです。この夏は約3週間、太平洋の海を航海しながら船上で取材活動をしていました。取材対象は、地球の内部を科学的に解明する、文部科学省特別推進研究プロジェクトです。太平洋の海面から遥か6000メートル下の海底に、約20個もの観測機械を沈めているのですが、それらを回収して、データを取ります。実は今の科学では、私たちが住む地球という星について、未解明なことが多いのが現状だそうです。このプロジェクトは、それを解明する意味のある面白いプロジェクトなのに、世に伝わっていない。せっかくならば多くの人に伝えたい。そう思って、同行させていただくことにしました。

 

入倉 そもそも、なぜインタビューを始めたのでしょうか。

 

田中 インタビューという形式をとって活動を始めたのは、大学1年生の冬だったと思います。自分が出会うさまざまな魅力的な人と普通に話をしているなかで、自分が聴いたことを、インターネットを通してより多くの人に伝えたいと思ったのがきっかけでした。

 本気になったのは、大学2年生のとき。会社のインターンで任せてもらったインタビュー企画で、ある方を取材してからです。その方は、人の本音を引き出すことや人と深くつながることに関心を持っている、という点では、僕ととても似ていました。一方で、自分ととても対照的なところもあって、感情がものすごくオープンなんです。感情が外側に表出しにくい僕には、同じことはできないなと思いました。そのとき、田中嘉という人間が人と深くかかわり、本音を引き出すには、インタビューという手法がいいのかもしれないと思ったんです。

 

入倉 面白さはどんなところにあるんですか。

 

田中 一言で言うと、人の人生を“生きる”ことができるのがインタビューの面白さであり、インタビューでしかできないことだと思います。インタビューをするときというのは、事前に、その人のことを生い立ちから考え方、価値観、趣味まで、とことん調べます。どこの県で生まれたのか。どんな遊びをしていたのか。こだわりは何か。そして、想像も含めて「その人」がどんどん自分の脳内で膨らんだ状態でインタビューに臨みます。また、インタビューの最中も「この人の今の発言は、どんな意図があるのだろう」と考えます。このように人の人生に憑依することは、その人の「エッセンス」を自分のなかに取り入れていくことなんだと思っています。

 回数にすると既に100回以上はインタビューしているので、それくらいの人生に憑依していることになります。

 すると、僕がふととった行動のなかに、「これはこの間インタビューした、あの人の志向だな」と思う瞬間があったりするのです。インタビューは、人に何かを伝える行為であると同時に、自分が変化していくものでもあるのが面白い。

 

 

 

 

 

反射的に形を変える「水のようなインタビュアー」が理想

 

入倉 どんなインタビュアーでありたいと思いますか。

 

田中 難しい質問ですね。あえて言うとしたら、「水のような存在」を目指しているのかもしれません。ゆるぎないものを軸に持ちつつ、多様な話し手にシンクロできる人間。いろいろな意味があるのですが、たとえば、ある話し手に1つの質問をして、それに対する返事が来たときのことを考えてみてください。そのとき、インタビュアーというのは「つっこむかつっこまないか」ということを瞬時に判断しなくてはいけない。インタビューには1つとして同じ瞬間がなく、時間は流れていくので、そこで常に柔軟に最適解を出していくのはとても難しいことです。それは意識的な感覚では追いつかなくて、水のように反射的に形を変えなければなりません。

 同時に、自分の「人間としての色」も、透明でありたいと思うんです。世界にいる多様な人の光を吸収しつつ、自分のエネルギーに変えて、人を輝かせられる人でいたいです。

 

入倉 そうした「水のような」インタビューをすることで、何を実現したいと思っているのでしょう。

 

田中 インタビューのいちばんの特徴は、未だ世の中に知られていない事実や、その人がふだん口にしない心の底にあるものを引き出すことだと思っています。そのような「情報」を人に伝えることで、読んでいる人に驚きや感動をもたらせたら素晴らしいと思います。

 

 

 

 

1つのメディアだけのインタビュアーになりたくない

 

入倉 そんな田中さんですが、就職先は出版社ではありませんね。

 

田中 僕は1つのメディアだけのインタビュアーではなく、いろいろなジャンルに携わりたいと思っています。研究者や技術者から、AV女優のインタビューまで。そして、すべての人を読者対象にしたい。自分自身が、あらゆる情報を伝える「メディア」でありたいのです。

 人の心の奥底を探り、情報を引き出す「インタビュー」という幹があって、それが原稿を書くという仕事だったり、コンサルティングだったり、場合によってはアートだったり、さまざまな枝葉となって上に伸びていく。そんなあり方が理想です。

 1つの会社から収入を得るというよりは、楽しいと思える仕事や活動でちょっとずつお金を得ながら暮らすような働き方でいいんじゃないかな、と思っています。

 

入倉 1つの会社で一生働く、という意識は持っていないのですね。

 

田中 それはわかりません。ただ、僕が通っているSFCにいると、1つの会社でずっと働くというキャリアプランを持っている学生のほうが少ないように思います。意識はどんどん変わっていますね。

「これをやりたい」「これが楽しいからやる」というように、自分の欲求を正直に出している人が増えてきているのではないでしょうか。それは、どちらかというと若者のほうが多いかもしれない。でも、上の世代でも、そんな風に欲求を強く出している方もいます。そういう方は、本当に素敵だなと思います。

 

 

 

 

学びたいことがあるから会社に入る

 

入倉 少し意地悪な言い方をすれば、そのようなキャリア観と経験、スキルを持っているならば、就職しなくてもいいのでは、と思うのですがどうでしょう。

 

田中 こんなことを言える立場ではないのですが、きっと会社に就職しないとできないこともあると思いますから(笑)。たとえば億単位の事業にかかわって、多くの人と協業するなどということは1人ではできません。

 それから、「学び」。本当に自分のことだけをやりたくて、十分なスキルがあるならば、1人で動いていたほうがいいのかもしれません。でも、僕はそうじゃない。学びたいことがある以上、企業に入る意味があると思います。それにもちろん、内定先の会社の事業に共感しています。

 企業に入れば、社内外を含めていろいろな人とかかわりを持ちます。そうすると、当然、理不尽なことも不可解なことも経験し、苦しむと思うんです。でもその苦しみは、インタビュアーとしての糧になると確信しています。なぜなら、人は結局、自分が経験している範囲ないし想像できる範囲でしか話を「聴く」ことができないし、そうでなければ相手にも失礼だと思うからです。

 

入倉 インタビューが日常の仕事になって、「人に聴くこと」が増えていくと、それ自体がコモディティ化して、それほど一つひとつを大切にしていかなくなるリスクはないでしょうか。

 

田中 そうなったら、インタビューの仕事を辞めればいいと思います(笑)。それよりもまず怖いことは、就職して自分は変わってしまわないだろうかということです。ある種のフレームワークやルーティンのなかで働くことは、大組織のなかでの効率的な行動ができるようになるという意味では糧になる一方で、柔軟な発想や、自分らしい考え方、行動スタイルが失われていくのではないかと。

 そんなリスクも理解しながら、きちんと学び、価値を生み出す。そんなスタンスで社会に出ていこうと思っています。

 

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