まとめ:「若い才能」たちを腐らせるな

まとめ:「若い才能」たちを腐らせるな

若い才能たち、若い才能をよく知る方々へのインタビューを通じ、本企画の監修者でもある中竹竜二氏に、若い才能と出会い、協業するために、私たちがすべきことを聞いた。

 

 

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◇中竹竜二氏(日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター)

 

1993年早稲田大学人間科学部入学。4年時にラグビー蹴球部の主将を務め、全国大学選手権準優勝。1997年卒業後、単身渡英。レスター大学大学院社会学部修了。

2001年三菱総合研究所入社。2006年より早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。2007年度から2年連続で、全国大学選手権制覇。2010年2月退任。同年4月より、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターに就任し、指導者の育成、一貫指導体制構築に務める。2012年度はラグビーU20日本代表監督を兼任。著書に『判断と決断』(東洋経済新報社)、『鈍足だったら、速く走るな』(経済界)、『人を育てる期待のかけ方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『リーダーシップからフォロワーシップへ』(阪急コミュニケーションズ)、『挫折と挑戦』(PHP研究所)、『部下を育てるリーダーのレトリック』(日経BP社)などがある。

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  聞き手 入倉由理子(本誌編集部)

 

 

 

 

学校や組織、国を超えて同じ使命感を持つ仲間を増やす若者たち

 

ロンドンの東、コックニー地区に住む青年がいた。彼は同じロンドンに住む人から「あなたは誰か」と尋ねられると、誇りを持って「私はコックニーだ」と答えた。そんな彼がオックスフォードに旅をした。そこで「あなたは誰か」と問われると、彼は「私はロンドン人だ」と答えた。さらに彼は、フランスに渡った。そして同じ問いに「私はイングランド人だ」と答えた。同じように、アジアに行けば「ヨーロッパ人」と、そして、宇宙に旅をして、違う星の住人に尋ねられたら、「地球人」と自らを紹介した。

言うまでもなく、「彼」は同じ人である。しかし、彼はその度ごとに境界線を引き直し、自らのあり方を変化させ、仲間の数を増やしていったのである。

 

 

入倉 このストーリーは、中竹さんが英国レスター大学大学院時代に書いた小論文の一部だと聞きました。この話の本質は、“仲間”の境界線をどこで引くか、ということですね。

 

中竹 そうです。もし、自らを営業部の部員ととらえていれば、システム課は仲間ではありません。A社の社員だととらえていれば、B社は仲間ではない。日本人だととらえていれば、他国の国民が仲間だという認識が薄くなります。この線の引き方によって、問題解決の手法が変わる。今回の取材を通じ、多くの若者が既に “地球人”の領域に至っているように思いました。それはとても、頼もしいことです。

 

入倉 具体的にはどういうことでしょうか。

 

中竹 たとえば、あるメーカーで不良品が出たとしましょう。原因は、工場の生産現場にある。このメーカーにとって、問題解決のゴールは、二度と不良品を出さないことです。

 組織の最小単位「個人」の視界で状況を見ると、自分の担当領域でのミスでなければ、問題を抱えた担当者が必死に解決しようとする姿を眺めるだけに留まります。

 組織の境界線を生産現場のチーム全体ととらえると、チームメンバー全員が責任の当事者になる。その場合、二度と不良品を出さないために、チーム全体の仕組みを見直し、前後の連携に配慮したコミュニケーションを真剣に考えます。

 会社全体を仲間と見れば、不良品を出した社会的責任に思いが至る。他部門と連携を取り、信頼を取り戻すために、より安全性の高い生産システムの開発に取り組むでしょう。

一般に、ミドルエイジ以上の多くは、会社全体を“仲間”ととらえるのが最大でしょう。ITという強い武器を物心ついたころから使いこなしてきた若者たちは、学校や組織、国を超えて同じ使命感を持つ仲間を増やし、その仲間とつながってさまざまな問題解決に取り組んでいます。

 

入倉 若者のほうが、“仲間”の範囲が広いということでしょうか。

 

中竹 自らを地球人だととらえる彼らは、組織も国も超えて、世界全体を仲間にすることができます。世界の仲間に問いかけて、革新的なアイデアを出すのです。先の例で言えば、環境を改善する生産システムというように。閉じた組織の既存の考え方に慣れた世代から見れば、時にそれは“破天荒”なアイデアかもしれない。だからこそ、受け入れにくいのかもしれません。でも、本当にそれでいいのでしょうか。

 

 

 

 

「世界に必要なもの」という目線でコトを起こす

 

入倉 では、どうすればいいと考えていますか?

 

中竹 私たちが慣れ親しんだ企業社会では、部署や会社で線を引く。すると、隣の部署も隣の会社も敵になる。世代間でも同様で、間に線を引き、違いをことさら話題にします。

 僕がスポーツ界に対しても、産業界に対しても、優れたチームマネジメントや優れた若者について語ると、「それはとても稀有な、特別な例ですね」とか、「スポーツの世界ではそうかもしれませんね」というように、“自分とは状況が違う”と、言い訳を探すように線を引きがちです。

 仲間の線を引くことはすなわち、「敵」を設定することです。「敵」が多ければ多いほど、そこからは知恵や知識を取り込むことができません。

若者の強みは、意味のない線を引かないところにあるのかもしれません。今回、深く取材をするまで、私は若者たちも同様に、上の世代に対してネガティブな感情を持っている、つまり“敵”のような認識があるのではないかと思っていましたが、そこは誤解でした。

 彼らの線の引き方は、所属する組織でも世代でもない。価値観や行動スタイルが同じかどうか。あるいは、相手のそれをリスペクトできるかどうかです。一般論は別として、取材した若い才能たちは、組織や世代を超えた仲間がいて、そのなかには「師」と仰ぐ存在もいました。私たちはこうした彼らの態度に、今こそ学ぶべきだと思います。

 

入倉 確かに、今回の取材を通じ、若者たちが自らのワクワクに忠実に、コトを起こしていることに驚かされました。

 

中竹 ワクワクの対象は、もちろんそれぞれでした。「世界に必要なこと」「使命感を感じられること」「憧れること」……。それを実現するために、スキル云々を抜きに、共感する仲間を集めています。だから、彼らは組織の壁も世代の壁も楽々と越えるのです。

 

入倉 大人の目線で見ると、いかにも「穴だらけ」でした。「楽しそうではあるが、ビジネスモデルとしてどうか。利益を生むのか」「本当に世の中へ広がっていくのか」と言いたくなったりしますよね。

 

中竹 でも、彼らにしてみればそれはナンセンスなのです。まずはワクワクに力点を置き、自らの思いを実現するためにどうしたいのかを真っ先に考えます。その後の事業化、プロの仕事への転換のプロセスで悩んだり、壁にぶつかったりしますが、試行錯誤しながらそれぞれ結果を出しています。

 かつて、新興国のBOP(ベース・オブ・ピラミッド)向けのビジネスが儲かると、誰が考えたでしょうか。そこに初めに注目した人は、競合に勝つため、より高い利益を挙げるためというよりは、地球人として自分がしなければならないことを強く意識したからこそ、イノベーションにつながったのだと思います。結果的にそれは、その企業の新興国での優位性につながり、大きなビジネスとなっています。

 

入倉 そうですね。こういうビジネスは、明らかに長い間、日本人が得意としてきた欧米のキャッチアップ型では実現できません。

 

中竹 これも「仲間の線」の引き方の問題です。多くの企業が、生産拠点として発展途上国に展開し、そこで雇用を生み出してきたのは、とても立派なことだと思います。しかし、欧米や日本など、先進国だけが世界を牽引していくには、もはや限界がある。世界中にはさまざまな問題があって、それを解決し、よりよい世界を作っていくには、世界中の人が知恵を出し合わなければなりません。

 安い労働コストを求めて世界中を転々と移転するビジネスは、やはりそこに上下関係があります。雇用する側、される側。そこには厳然たる「線」があって、お互いがその線を隔てて、自分の利益を守ろうとして向こう側を見ている。そうではなくて、対等に知恵を出し合い、お互いに利益のあるビジネスにしていく。理想論に思えるかもしれませんが、若い世代のなかから、必ずそういう事業が生まれると僕は考えています。

 

 

 

 

若い才能の心を揺さぶる人とプロジェクトを探せ

 

中竹 早稲田大学ラグビー蹴球部の監督時代の、忘れられないエピソードがあります。それは、全国大学選手権の決勝戦前日のことでした。僕はマネジャーなどのスタッフ、選手たちを前にこう言いました。「明日、勝てなかったらすべては監督である私の責任だ。だから、思い切りやってほしい」。すると、僕の言葉をさえぎるように、リーダー格の選手が、「プレーするのは僕たちですよ。だから、僕たちの責任だ」と口を揃えました。すると、スタッフたちも、「いえ。選手たちは極限まで頑張った。もし負けたら、それを支援しきれなかった私たちの責任です」と言い切ったのです。

 このとき、監督、選手、スタッフの間に責任の境界線はありません。全員が当事者意識を持ち、同じゴールを目指す仲間です。

 仲間の線を引き直すことの効果は、広く共感できる人を集められるだけではなく、全員が共有するゴールに対する当事者意識が高まることも大きいと思います。結果、ゴールを達成できる可能性が格段に上がるのです。

 

入倉 つまり、私たちが若い才能と出会うためにも、彼らと協業するためにも、それによってより高いゴールを達成するためにも、「仲間の線を引き直す」ことが欠かせないということですね。具体的にはどうしなければならないのでしょうか。

 

中竹 彼らのインタビューを通じ、もう1つ驚いたことは、対人リテラシーが非常に高いことでした。

 ネットの世界に閉じ、仲間同士でゆるくつながる若者たちは、コミュニケーションスキルが低いというイメージを多くの大人は持ちがちです。しかし、実際にはきっかけはITでも彼らは会いたいと思えば必ず人と会い、付いていきたい人には付いていき、お互いに心を揺さぶられる瞬間を大事にしています。

 整理すると、「仲間」の核になるものは、企業名でも部署名でもなく、そこにある使命感やワクワクであり、あるいは、使命感やワクワクを体現する「人」です。彼らと出会おうと思ったとき、組織のなかに彼らの心を揺さぶるようなプロジェクトや人が存在するかどうかが重要なのです。

 

入倉 これは、私たちが十数年にわたって企業を取材してきた実感ですが、現場にはたくさんのワクワクするプロジェクトがあり、そこに熱意を持って取り組む人たちが確かにいるのです。問題は、そうした人をどうやって彼らと出会わせるか、ですね。これこそ、仲間の線を引き直し、社員が積極的に外で活動することを奨励して、若い才能と出会って組織に呼び込んだり、若い才能とプロジェクトを進める機会を設けたりすることが欠かせないでしょう。もちろん、固定観念やコンプライアンス問題が多くの企業で邪魔をするかもしれません。

 

中竹 Tehuさんの取材で聞いた、「で?」という言葉が耳に強く残っています。「So What?(それがどうした?)」という意味で彼は使っていたのですが、あれこれ言い訳せずに、やれることを全部やってみたのか、と大人に問いかけたいようです。私たちは、まだまだできることがたくさんありそうです。

 

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