人材育成は企業にとって重要な戦略の1つだ。社員を育て、より大きな戦力として活用することで利益を生み出す。では、障害のある社員の能力開発はどうなっているのだろうか。 今回は、障害のある社員を、どのように育て戦力化していくかについて考えてみたいと思う。 議論の前提として、障害者雇用促進法と法定雇用率制度の存在を確認しておく。法律は、障害のある人が働く機会を保障している。 

第5回 コマツ

全社員が共有する“ノーマライゼーション”
障害者雇用の定石を変える

ノーマライゼーションとは、障害者と健常者が共存できる社会のことだ。コマツはその実現に取り組む。

トップの意思が新手を生み出す

「特例子会社という形が、本当にノーマライゼーションにつながるのか」
野路國夫社長のこのひとことで、特例子会社設立の案件は消え、代わりに人事部の一部門としてビジネスクリエーションセンタが生まれた。
「特例子会社の社長就任が決まって以来、どうやって会社を経営していこうかずっと悩んでいたので、新たな方向性が提示されて気持ちが高ぶりました」
と人事部ビジネスクリエーションセンタの初代所長であり、現在はシニアアドバイザーの木村道弘氏は語る。

建設機械・車両や産業機械などのメーカーとして、グローバルに事業を展開するコマツは、2006年12月にハローワークからの指導を受けた。全社員数における障害者の割合が、法定雇用率をかなり下回っていたためだ。
「業績が好調で雇用を増やしたために、分母が大きくなっていました。一方で、身体障害者を採用しようにも、労働市場に出てこない。そこで法定雇用率達成のために、まだ他社でも雇用が促進されていない、知的障害者を採用することになったのです」(木村氏)
グループ会社と通算して雇用率が換算できる、賃金体系や勤務時間などの労働条件を独自で決められるというメリットから、2007年、特例子会社設立に向けての準備が始まった。
そして、特例子会社の登記を翌日に控えた2008年1月に 役員会議が開かれ、人事担当役員から設立に関する最終報告があった。途中から野路社長は首をかしげ始め、報告終了後に冒頭のように言った。特例子会社をつくって障害者だけを別に雇用することが、真のノーマライゼーションになるのかと。

「障害者雇用は人事部に任せればいい」の声を払拭

人事部の一部門にしたのは、率先垂範の意味からだ。また、人事部が障害者を雇用することで、採用や異動の決済が迅速にできる。
まずは6人の知的障害者を2カ月のトライアル雇用期間を経て採用した。

「最初からメール集配を任せようと考えていました」 と現在の人事部ビジネスクリエーションセンタ所長・川地政明氏は語る。
メール集配とは、会社宛てに届いた郵便物や荷物を仕分けた後、各部署に届け、各部署から出された郵便物や荷物を回収するという仕事だ。
「組織の数も多いし、社内のことをよく知らないとできない仕事です。覚えるまでに半年くらいはかかるだろうと思っていました。ところが2カ月で覚えてしまい、時間を持て余すようになりました」(川地氏)
そこで、集配の台車に張り紙をして、「仕事のお手伝いができます」と発信したところ、コピー取りのほか、マニュアルの製本、清掃などの依頼があった。
こうした仕事は、社員がやるか、もしくは外部の業者に委託していたものだ。ビジネスクリエーションセンタが仕事を請負うことで、社員は本来の業務に専念できるようになり、 経費の削減にもつながった。
「社員も最初は、大丈夫なのかなという疑心がありました。でも、実際にフロアに毎日来るようになると、ひたむきに働く姿や仕事に対する真面目さなどが、社員の心に影響を及ぼしたんでしょうね。『百聞は一見にしかず』です」(川地氏)
じかに接する障害者の姿が、「障害者雇用は人事部に任せればいい」、といった声を徐々に払拭していったのである。

あるとき、健康保険組合から入力業務の依頼があった。個人情報のため、健康保険組合のオフィス内で作業するほかない。指導員の数も限られているため、パソコンができる障害のある社員を1人で送り出したところ、健康保険組合の社員がやり方を教えて、業務を完了した。 これが、現在は主な業務の1つになっている「出張作業」の始まりである。
他の企業でも、障害者が特例子会社のオフィスを出て他部門に出張し、シュレッダー処理のような業務を担うことはある。その際は特例子会社の社員が指導のために同行するケースが多い。コマツの場合は、指導員が同行しないという点だけでなく、出張先部門の社員の指示、監督、助言によって、知的障害のある社員が作業する。
現在では、人事部、コーポレートコミュニケーション部、経理部、総務部、開発本部、生産本部と、多様な部門に出張している。

目指すのは社員の「自立、自活」

こうした出張業務は、「正社員候補」を育成する能力開発のプロセスにもなっている。

コマツは知的障害者を期間社員として雇用し、身体障害者は正社員として雇用している。
これは企業として合理的な判断といえる。身体障害者よりも知的障害者の方が、能力の見極めに時間がかかるためだ。そのため、初期訓練コストを企業と社会がとのように分担するかは議論が必要とされるところではある。

「コマツには『社員はかけがえのない財産である』という理念があります。身体障害者は正社員で、知的障害者は期間社員というのは、この理念と矛盾するのではないかと。そこでビジネスクリエーションセンタの就業規則に、正社員への転換項目を入れました」(木村氏)
評価は、管理者と指導員全員でそれぞれがつけた点数を持ち寄って決める。評価が最低2年以上連続で「優」であれば、正社員に登用となる。「良」の場合は7〜8年間維持すれば正社員だ。出張業務ができることは、正社員への必要条件になっている。2010年4月には1人、正社員に転換した。

目指しているのは社員の「自立、自活」だ。毎年昇給し、正社員になれなくとも、勤続9年目には、東京都の生活保護レベルの年収に到達するように賃金体系が設計されている。これは最低賃金の水準以上の金額になる。
また、「自立、自活」を達成できるように、能力開発のための仕組みもある。
評価結果は保護者と障害者それぞれの生活支援センター(*)にも報告する。関わる人全てで、できる部分とできていない部分を確認するためだ。そして、できない部分は強化し、すでにできる部分はその力をさらに伸ばすための育成計画を考える。さらに、各生活支援センターの職員にも参加してもらって「生活支援センター会議」を4カ月に1回開催。各生活支援センターが培ってきたノウハウやアイデアを出し合って、全員の能力開発に努めている。

「最初は誰もそこまでできるとは思っていなかった。でも、彼らの能力の高さが分かったんです」(木村氏)
拠点への水平展開を可能にしたのも、社員が障害者の能力を認めたからだ。
2010年4月に石川県の工場にビジネスクリエーションセンタ分室を開設したのをはじめ、既に5カ所に分室がある。工場に分室をつくるにあたっては、人件費は人事部が持ち、各工場は仕事だけを用意すればいいという環境をつくっている。また、指導員は工場で働く社員から任命するが、所属は本社人事部となる。今後は、日本全国の工場に分室をつくることを目指すという。

コマツでは、トップが理想とするノーマライゼーションが全社員に浸透しているといえる。
カンパニーの語源はラテン語のcompanio「一緒にパンを食べる仲間たち」だという。障害のある人もない人も、「一緒にパンを食べる仲間たち」にできる職場こそ、カンパニーといえるのではないだろうか。
(2011.02.28)

(*)障害者就労・生活支援センター
公益法人(社団または財団)や社会福祉法人、特定非営利活動法人(NPO)などが運営する。就職に関する相談、仕事上の悩み、健康上の問題など、障害者の暮らしや仕事について、総合的な支援を行う。

【監修=高崎健康福祉大学 健康福祉学部医療情報学科 准教授 眞保智子氏】
【Text=湊 美和】 

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ビジネスクリエーションセンタ全員の集合写真  






メール集配作業。手際よく届いた荷物を確認

 





事業部・部門ごとのボックスに仕分ける






 
メールの配達と集荷。二人一組で行う







メール集配とあわせて、シュレッダーの点検や清掃も







出張作業のパソコン入力。
ルーチンワークの場合は指導員からの指示はない







封筒の宛名張りの出張作業

 お話を伺った方 

会社概要

  ■創業/1921年 
■本社所在地/東京都港区赤坂 
■大阪事業所所在地/大阪府大阪市 
■従業員数/連結4万0,909人、単独8,269人 障害者170人、うち知的障害者24人(※重度6人含む)
■事業内容/建設・鉱山機械、ユーティリティ(小型機械)、林業機械、産業用機械などの製造・販売
(前列左)人事部ビジネスクリエーションセンタ所長・川地政明氏、
(前列右)、人事部ビジネスクリエーションセンタ兼人事グループ・遠山純子氏、
(後列左)コーポレートコミュニケーション部広報グループ・古米直子氏、
(後列右)人事部ビジネスクリエーションセンタシニアアドバイザー・木村道弘氏


◇ 5回の連載を終えて◇

東京都、神奈川の特例子会社の経営者やマネジャーが中心となって設立したNPO法人「eキャリア・雇用プロジェクトk」(理事長・伊藤忠ユニダス代表取締役社長・萩原能成氏)は、2010年に慶応義塾大学商学部1、2年生を対象とした寄付講座「障害者雇用の現状と今後の方向性」を開いた。
企業の経営者や人事担当者が、実際に障害者の能力を生かしていく過程や雇用管理について講義を行う。学生が障害者雇用への理解を深めると同時に、将来、障害者雇用を進める一翼を担うことを期待している。
2010年は今回紹介した企業のほか、東京電力やブリヂストンなど20社が参加し、2011年も開講が決まっている。
障害者の雇用は、ダイバーシティの観点からいっても、法律的に見ても、拡大の方向にある。日本企業はさらに積極的に障害者を活用していかなければならないだろう。障害の有無にかかわらず、企業は社員それぞれが持つ能力を見極め、それを生かしていくことが重要だといえよう。
◆ 『障害者の力を生かすマネジメント』バックナンバー
  第1回 眞保智子准教授 『障害者の力を生かすには仕事とのマッチングが鍵』 
  第2回 伊勢丹ソレイユ 『本業に直結する業務を担うことで特例子会社が親会社の利益創出に貢献』 
  第3回 第一三共ハピネス 『能力を見極め、力が発揮できる仕事を開拓 職域拡大でグループ全体の業績に貢献する』 
  第4回 横河ファウンドリー 『“適材適所”で、社員の能力を引き出す レベルの高い仕事によって、経営を黒字化』 
  第5回 コマツ 『全社員が共有する“ノーマライゼーション”  障害者雇用の定石を変える』 

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