人材育成は企業にとって重要な戦略の1つだ。社員を育て、より大きな戦力として活用することで利益を生み出す。では、障害のある社員の能力開発はどうなっているのだろうか。 今回は、障害のある社員を、どのように育て戦力化していくかについて考えてみたいと思う。 議論の前提として、障害者雇用促進法と法定雇用率制度の存在を確認しておく。法律は、障害のある人が働く機会を保障している。 

第3回 第一三共ハピネス

能力を見極め、力が発揮できる仕事を開拓
職域拡大でグループ全体の業績に貢献する

第一三共ハピネスは、国内大手の医薬品メーカー第一三共の特例子会社である。設立は、三共と第一製薬が統合し、現在の事業会社が誕生したのと同じ2007年の4月だ。だが、設立の準備は前身である三共において2000年から進められていた。
「慢性的な雇用率の低さを解消するために、試験的に知的障害のある方を6人採用しました」と管理グループグループ長・金崎拓郎(かなざき たくろう)氏は語る。  
まずは、家庭用洗濯機で洗濯をしたり、組織を限定して名刺を作成したりと、障害者の能力を確認することから始めた。その結果、対応できる職域は広いと判断し、2006年の特例子会社設立を目指すことになった。
2005年に金崎氏が赴任したときには、既に27人の障害者を雇用し、環境整備も終わっていた。だが、肝心の仕事がなく、いかに時間をつぶすかに頭を痛めたという。 第一製薬との統合の話が浮上したことで設立の時期が遅れ、その期間に障害者が担う業務量の確保と職務内容の幅を広げることができた。現在では、知的障害者50人、身体障害者2人が、多忙な毎日を送っている。

消去法ではなく、可能性を探す職域開拓

第一三共ハピネスの本社は、グループ会社の平塚工場内にある。当初想定した仕事内容は、工場の中にあるメリットを生かして、従業員のユニホームのクリーニング、名刺の作成、廃棄物の分別や営業用販促品の袋詰め。設立と同時に開設した品川事業所では、シュレッダー処理業務を担うこととした。ここまでは、設立時に既に稼働しており、想定通りに進んだ。
その後、親会社は、グループ全体の雇用率について、会社設立時の1.6%代から段階的に引き上げ、設立3年後の2010年には、2.0%に引き上げるという目標を掲げた。
「2007年以降は2%という目標を達成するために、仕事を獲得して、軌道に乗せるというのがミッションでした」(金崎氏)
グループ会社が外部に委託している仕事のなかで障害者が能力を発揮できること、そして第一三共ハピネスで請け負うことでグループ全体ではコストが下がることを前提に仕事を探していった。

その成果の1つが、品川事業所の実験器具試験管の洗浄業務だ。この業務は、金崎氏が研究所勤務を経験していたことが、職域開拓のきっかけになった。
金崎氏が研究者であったころ、品川の研究開発センターでは、各実験室に実験器具の洗浄場所があり、パートタイマーの女性が洗浄作業をしていた。彼女たちが勤務を終えた後には、研究者自らが洗っていた。
「平塚に赴任して障害者の働き方を見ていたら、この仕事は彼らの能力を生かせると思ったのです」(金崎氏)
このときには新しい有機化学実験棟が完成し、各実験室にあった洗浄場所が地下に集約されていたことも好条件だった。集中したマネジメントが可能になるからだ。
仕事内容は、使用された実験器具を各フロアから回収、地下で洗浄、乾燥後、各フロアに返却という流れを繰り返す。実験器具に付着した有機物は、研究員が落としてから回収に出すというルールになっている。それでもガラス器具を扱うということで、研究開発部門の幹部からは「もっと安全な仕事があるのではないか」という意見が出たという。

しかし、それは杞憂だった。過去のデータがないので数字では証明できないが、破損するガラスの数は確実に減っているという。しかも、以前であれば、きれいの感覚が人によって異なるためにばらつきがあった品質も、一定のものを確保できるようになった。「きれいにしてください」といった伝え方ではなく、器具の持ち方やブラッシングの回数など、仕事のやり方を徹底したのだ。
「知的障害者の多くはこだわりが強い傾向があり、目的を徹底して遂行しようとします。『きれいに』といった感覚的な指示だと到達点が分からなくて困ってしまう。だから、彼らに仕事を依頼するときは感覚的な指示をできるだけ少なくするようにしています」(金崎氏)  
現在8人の障害者と2人の管理者で、この作業を担当しているが、人件費や器物破損のコスト、業務の質の高さなどを考えれば、グループ全体の経営に貢献している。

仕事を通じて「できること」が広がる

一方、クリーニングの業務も拡大していった。現在では平塚工場内だけでなく、小田原工場、品川・葛西・袋井などの研究所、埼玉県にあるグループ会社に勤める従業員のユニホームも請け負う。18人の障害者で、年間30万枚以上をクリーニングしている。洗濯し、乾燥が終わったユニホームを畳んで、事業所ごとに梱包するまでが仕事だ。平塚工場内の一部では、回収するところから、仕上がった洗濯物の配達まで行う。
大型の全自動洗濯機、乾燥機がそれぞれ8台あり、既に処理能力の上限に近い状況にあるが、品質の向上を意識し改善に取り組んでいる。洗濯機は液体洗剤を使用することにより全自動での運転が可能であるが、洗浄力向上のため、手動操作の必要となる一般のクリーニング店で使用する粉末洗剤に切り替えた。
「粉末洗剤への変更は、工程の見直しや、洗剤の計量などの作業が必要となりますが、彼らは対応できています」(金崎氏)

特に能力開発のプログラムがあるわけではない。仕事を通じて、技能や社会性を学んでほしいと考える。社員はその期待に応えているのだ。評価の基準にも、こうした社員に対する思想が表れている。
昇給は、毎年少しずつ上がるようになっており、査定は賞与にのみ反映させている。評価項目は、勤務態度、協調性、礼儀、知識・技能、意欲、成果。5段階評価で、必ずこれを本人にフィードバックする。
「賞与は最高が1.2ヵ月、標準が1ヵ月、最低が0.8ヵ月なので、大きな差は出ない。金額的なことより、良かったことを良かったと認められるのが励みになるのだと思います」(金崎氏)
前述の実験器具の洗浄では、研究員に「ありがとう」と言われると、「白衣を着ている先生に感謝された」と大喜びで帰ってくるという。他人の役に立っていると感じることは大きなモチベーションとなる。  

2010年7月に雇用率は2.06%となり、目標は達成した。
「法定雇用率の順守は大事ですが、個人的には数字にこだわってはいません。義務ではなく、あくまでも業績に貢献しているから雇用するわけです。現在外部発注している仕事のなかで、障害者が能力を発揮できる仕事があれば、仕事や従業員の人数を増やしていきたいと思っています」と金崎氏は語る。

障害者の職域を狭めているのは、実は健常者の固定観念かもしれない。「できない」と決め付けるのではなく、「できること」を探すことが、障害者の雇用の場を広げることにつながるのではなだろうか。
(2011.02.14)


【監修=高崎健康福祉大学 健康福祉学部医療情報学科 准教授 眞保智子氏】
【Text=湊 美和】 

ご意見・ご感想はこちらからお願いします







 
洗濯、乾燥が終わったものを決まったかたちに畳む
 
 





洗濯が終わったユニホームを組織別に梱包する






 
各フロアから回収された実験器具。研究室ごとに色分けされている







洗浄作業はブラシで洗う担当、すすぐ担当の2人1組。
器具の大きさによって、瞬時にブラシの大きさを変えている







器具の乾燥の際は、倒れて割れないようにそれぞれが工夫して並べる

 お話を伺った方 

会社概要

  ■設立/2007年4月 
■本社所在地/神奈川県平塚市 
■全従業員数/知的障害者50人(うち重度20人)、身体障害者2人、指導者9人、管理者4人
■出資会社/第一三共(東京都中央区) 
■出資会社の事業内容 /医薬品等の製造、販売および輸出入 
管理グループ
グループ長
金崎 拓郎(かなざき たくろう)氏
◆ 『障害者の力を生かすマネジメント』バックナンバー
  第1回 眞保智子准教授 『障害者の力を生かすには仕事とのマッチングが鍵』 
  第2回 伊勢丹ソレイユ 『本業に直結する業務を担うことで特例子会社が親会社の利益創出に貢献』 
  第3回 第一三共ハピネス 『能力を見極め、力が発揮できる仕事を開拓 職域拡大でグループ全体の業績に貢献する』 
  第4回 横河ファウンドリー 『“適材適所”で、社員の能力を引き出す レベルの高い仕事によって、経営を黒字化』
  第5回 コマツ 『全社員が共有する“ノーマライゼーション”  障害者雇用の定石を変える』 

TOPページへ

 リクルート