Works Web Special特別企画Vol.1 企業スポーツは今

 1990年代初頭から、多くの企業スポーツチーム(※1)の撤退が報じられている。
企業スポーツは、終身雇用や年功序列といった日本型経営から生まれた特徴的な仕組みであり、企業は選手を社員として雇用し、所有するスポーツチームで活躍してもらうことで、帰属意識の醸成や、広告宣伝媒体として活用してきた。
高度経済成長期には全国の企業に波及したが、景気が後退し経営のスリム化が叫ばれるようになると、多くのスポーツチームが廃部や休部に追い込まれたのである。業績不振が最大の原因であり直接的な契機となったわけではあるが、環境が大きく変化するなかで、従来企業スポーツに求められていた活用方法には限界があるともいわれる。
企業スポーツの役割は終わったのか、あるいは新たな経営的価値となるのか。企業スポーツの意義とその効果を考えたい。 

※1企業スポーツとは:企業が組織的に行うスポーツ活動のこと(実業団競技)

第5回 JXホールディングス

日本トップレベルの企業スポーツを通じて
社員、子どもたちにエネルギーを供給する

2010年4月、新日本石油と新日鉱ホールディングスが経営統合し、持ち株会社JXホールディングスが誕生。同年7月にはグループ内の再編によって、JX日鉱日石エネルギー(石油精製販売事業)、JX日鉱日石開発(石油開発事業)、JX日鉱日石金属(金属事業)の中核事業会社3社が発足した。
これに伴い、新日本石油の野球部「新日本石油ENEOS」は「JX-ENEOS野球部」に、新日鉱ホールディングスの子会社ジャパンエナジーの女子バスケットボール部「JOMOサンフラワーズ」は「JXサンフラワーズ」に、それぞれチーム名が変更され、JXグループ全体の企業チームとなった。

「長い歴史のなかで、新日本石油は野球を、新日鉱ホールディングスはバスケットボールを、それぞれの会社のいわば『社技』のように育ててきました。統合後は、ホールディング会社が企業スポーツにかかわる総括的な仕事を担当し、今までの伝統を大事にしながら、グループ全体で両チームを支援しています。実際の運営は、JX日鉱日石エネルギーが中心になり、経営統合前の活動の延長線上で、さらに応援の輪を広げるために活動しています」
とJXホールディングス総務部長・有重哲氏は語る。

社員の一体感の醸成から企業の顔へ 

統合後間もないこともあり、野球部、女子バスケットボール部の活動をそれぞれ見ていく。
JX-ENEOS野球部は、1950年に日本石油野球部として創設された。
「1950年といえば、終戦からまだ5年。世の中全体が落ち着かず、労働争議に悩む企業も多かった。そうした時代を背景に、従業員の気持ちを一体化できる方法を模索し、たどり着いた先が野球部の創設でした。当時、プロ野球はそれほど認知度が高くなく、野球といえば大学野球か社会人野球が人気。都市対抗野球に出場できれば、社員がみんなで応援に行き、一体感が醸成されると考えたわけです」
とJX日鉱日石エネルギー広報部長兼JX-ENEOS野球部副部長・藤井進氏は語る。

それから60年。都市対抗野球への出場は44回、うち優勝は9回と、現在活動中のチームのなかでの優勝回数は最多を誇る。当初のもくろみ通り社員の一体感を醸成し、かつ野球部の活躍が社員の士気向上にも貢献しているという。
「選手は本社や京浜地区の製油所・支店に配属されています。午前中は職場で仕事をし、午後は職場から練習場に向かいます。社員も、『選手はオラが職場の代表だ』という気持ちになり、都市対抗野球には1万人、多いときには2万人が応援に駆けつけたこともあります。同じ職場の選手が三振を奪ったり、ヒットを打ったりすれば大いに盛り上がり、その熱気が職場に持ち込まれます」(藤井氏)

ほとんどの選手は現役引退後も社員として会社に残るので、多くの職場に野球部OBが在籍し、社員も自然に職場で誘い合って応援に行く風土ができている。役員となったOBも多数おり、60年の歴史を持つ野球部だけあって、すっかり企業文化として根付いている。
「社会人野球のトップで活躍できた能力を持つ人材は、現役を引退して仕事に専念するようになっても、地道に努力して成果に結び付けていくことができる。そうした人材が、野球だけでなく、社内に及ぼす影響は大きいと思います。野球が社員の求心力となった理由でもあります」(藤井氏)
振り返れば、経営環境が厳しく聖域なきコスト削減に全社を挙げて取り組んでいたときや、成績の振るわなかったときなど、野球部の存廃が論議されたこともある。
しかし、社員の間に「野球は企業を代表する活動のひとつ」という意識が強く、存続することになった。
2001年から8年間は、野球日本代表のオフィシャルスポンサーになり、野球が会社の顔として定着していく。

求心力、広告塔となるために、勝ち続けることが使命

一方、JXサンフラワーズは、1969年共同石油によって創部された。共同石油は設立当初から、日本鉱業とは兄弟会社の関係にあった。
「日本鉱業が既に男子バスケットボール部を持っていたので、共同石油は女子のバスケットボール部を、ということで創部されました。当時、日本鉱業は、男子バスケットボール部のほかに野球チームも2つ持っており、スポーツを通じて求心力を高めようという意識が強い会社でした」 
とJX日鉱日石エネルギー総務部長兼女子バスケットボール部副代表・山本一郎氏は語る。

日本鉱業の2つの野球部は、1972年に日鉱日立が、1987年に日鉱佐賀関が、それぞれ休部になっている。
1992年、日本鉱業と共同石油は合併して日鉱共石となり、翌年、ジャパンエナジーに社名を変更。経営環境の変化、それに伴う事業再編のなか、1998年に男子バスケットボール部も休部となり、女子バスケットボール部のみが活動を続けることになる。
「企業スポーツの役割は、社員の求心力や士気高揚のためであると同時に、企業のブランドイメージを高める広告塔でもあります。そのためには勝ち続けることが使命なのです」(山本氏)
女子バスケットボールの大会はWリーグ(旧・日本リーグ)と全日本総合バスケットボール選手権大会(皇后杯)の2大タイトルだが、創部以来Wリーグでの優勝が13回、準優勝が15回、皇后杯では15回優勝、準優勝10回。会社からの要望に十分応えているといえるだろう。2008年と2009年のシーズンには2年連続で、この2つのタイトルを取っている。

女子バスケットボール部の選手は、統合前と変わらず、バスケットボールでの活躍を前提とした嘱託契約だ。創部当初は社員として雇用し、仕事と競技の両立を目指していたが、1年のうち半年間は日本全国で試合があるという特性上、会社で通常業務をこなすことは難しいと判断した。
「嘱託でバスケットボールに専念させると、社員との距離が出てきます。そこで、ウェブサイトやグループ報(社内報)で定期的に情報発信することはもちろん、リーグ戦前や優勝報告の際には選手全員が本社に来て、役員や各職場にあいさつして回ったり、シーズンが終わる3月には本社の地下にある食堂で納会兼グループ会社の社員全員を対象としたサイン会を開催するなど、選手やチームを身近に感じられるような場を設けています。また、試合は日本全国で開催されますから、JXグループ各社の支店や工場、製油所等の社員が会場に行き選手と交流を深めることもできますし、全国にある特約店の皆様も応援に来てくださいます」(山本氏)

今後は社会貢献も大きな柱に

「女子バスケットボール部、野球部と、日本のトップレベルのチームを2つも所有していることは会社にとっても社員にとっても大きな誇りですし、発足間もないJXグループのコーポレートブランド価値や求心力も上がります。さらに、両チームの社会貢献の取り組みが、CSR(企業の社会的責任)活動にもなっており、今後この流れは大きくなっていくと思います」
と、有重氏は語る。

両チームとも、統合以前からスポーツ振興を通じた青少年の育成や地域社会への貢献に重点を置いた社会貢献活動に積極的だ。
本拠地が横浜の野球部は、プロ野球の横浜ベイスターズと「NPO法人横浜ベイスターズ・コミュニティ」を設立し、小・中学生を対象にした野球教室を年30回以上開催している。野球部のOB選手や現役選手、そして横浜ベイスターズのOB選手も加わって子どもたちを指導しており、横浜市内全域から多くの要請があるという。 2008年からは、製油所や支店があり地域との結び付きが強い仙台においても、楽天イーグルスの「楽天野球塾」と提携し、少年野球の指導に取り組む。さらに、少年野球の全国大会である「NPB 12球団ジュニアトーナメント ENEOS CUP」にも協賛している。また、身体障害者野球連盟や女子野球協会のオフィシャルスポンサーでもある。
「こうした活動は、野球競技のすそ野を拡大するものと考えています。そのためにもJX-ENEOS野球部が強いチームであり続け、多くの人に知っていてもらう必要があるのです」(藤井氏)

また、女子バスケットボール部は、バスケットボールクリニックを年間60~70回全国で開催している。引退した選手で専任スタッフを編成し、ひとつの中学校のバスケットボール部に対して複数回指導するパワーアップコースと、受講者の年齢・性別を一切制限しない1DAYコースの2つのコースを設けている。
「OGにはオリンピック選手も多数います。トップレベルの選手から直接指導を受けるということは、バスケットボールをやっている子どもたちに夢を与えることになる。また、バスケットボール部の選手は競技での活躍を前提とした嘱託社員ですが、クリニックがあることで、現役引退後も指導者としてのセカンドキャリアを用意できます」(山本氏)

社員の一体感の醸成、宣伝広告、コーポレートブランド価値向上、社会貢献など、時代や社員の立場によって光の当たり方は異なるが、両チームとも一流のプレーで魅了し高い戦績を残すことで、全国あるいは地域の多くのファンと会社・社員からの期待に応えてきた。また、日本のトップレベルのチームとして強いからこそ、企業が再編を繰り返すなかでも活動を継続できたともいえる。
新スタートを切ったJXグループにおいても、今まで同様、いやそれ以上の役割が求められている。
「経営陣には、長い歴史のなかでそれぞれの会社がつくってきた財産なので、今後も価値を創出してくれるだろうという期待があると思います。我々社員は喜びや時として悔しさを分かち合うことで、新しい企業グループ『JX』としての連帯感が強まっていくと思います」(有重氏)
エネルギー・資源・素材の安定的かつ効率的な供給を使命として誕生したJXグループ。企業スポーツを通じても、社員やグループ会社、そして未来を担う子どもや世の中全体に、情熱や夢といったエネルギーを供給していくのだろう。
(2010.09.27)  

【協力=早稲田大学スポーツ科学学術院 教授 原田宗彦氏】
【Text=湊 美和】

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図1 JXグループ誕生までの再編の歴史
(クリックで拡大します)









JX-ENEOS野球部のスローガンは「WE PLAY BASEBALL FOR YOU」
会社や応援をしてくれる人たちのためにもチームが一丸となって勝ちにこだわる、という想いが込められている
  





 
野球部員は、午前中は仕事、午後から練習








   オリンピック出場選手を多数輩出するJXサンフラワーズはチームとしても日本のトップレベル。強みはチームワークとスピード







   春合宿でのJXサンフラワーズのトレーニング風景
チーム名にあるサンフラワー(ひまわり)は、
本拠地である千葉県柏市のシンボルの花でもある







JX-ENEOS野球部の練習グラウンドは神奈川県川崎市中原区
地域の中学校への野球教室をはじめ、地域貢献にも積極的に取り組む







バスケットボールクリニックの様子








   

 お話を伺った方 

会社概要

      ■設立/2010年4月 
■本社所在地/東京都千代田区大手町 
■事業内容/石油精製販売事業、石油開発事業、金属事業を行う子会社およびグループ会社の経営管理ならびにこれらに付帯する事業
 JX日鉱日石エネルギー広報部長
兼JX-ENEOS野球部副部長
藤井 進氏
JX日鉱日石エネルギー総務部長
兼女子バスケットボール部副代表
山本 一郎氏
JXホールディングス
総務部長
有重 哲氏
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