Works Web Special特別企画Vol.1 企業スポーツは今

 1990年代初頭から、多くの企業スポーツチーム(※1)の撤退が報じられている。
企業スポーツは、終身雇用や年功序列といった日本型経営から生まれた特徴的な仕組みであり、企業は選手を社員として雇用し、所有するスポーツチームで活躍してもらうことで、帰属意識の醸成や、広告宣伝媒体として活用してきた。
高度経済成長期には全国の企業に波及したが、景気が後退し経営のスリム化が叫ばれるようになると、多くのスポーツチームが廃部や休部に追い込まれたのである。業績不振が最大の原因であり直接的な契機となったわけではあるが、環境が大きく変化するなかで、従来企業スポーツに求められていた活用方法には限界があるともいわれる。
企業スポーツの役割は終わったのか、あるいは新たな経営的価値となるのか。企業スポーツの意義とその効果を考えたい。 

※1企業スポーツとは:企業が組織的に行うスポーツ活動のこと(実業団競技)

第1回 コマツ

社会貢献は継続が大事
女子柔道ひとつにしぼって支援する

社会貢献としてのスポーツ支援

コマツ女子柔道部は、1991年、会社創立70周年の記念事業の1つとして、部員7名で始まった。同社は、1980年代後半から文化・教育・地域振興などの社会貢献に積極的に取り組み始めており、スポーツ支援はその柱の1つでもあった。

企業が支援するべきスポーツとは何か。スポーツを支援していくにあたり議論を重ねた結果、プロへの道が開けていないアマチュアスポーツという発想に行き着く。アマチュアスポーツは、スポンサーがつかなければ、選手の行き場はなくなり、安心して競技に打ち込むことができない。

「アマチュアスポーツも数多くがありますが、コマツのイメージからいうと格闘技なんです(笑)。そのなかでも、柔道だろうということになりました。その当時、男子柔道は多くの企業が支援していましたので、女子に的を絞ったのです」
と女子柔道部部長・岡田正氏は語る。実は、女子柔道を提案したのは、現・取締役会長の坂根正弘氏である。

1991年3月28日付の日経産業新聞に「“堅物”のイメージが強い小松製作所が“柔”の道に」という記事が掲載される。経済界にもコマツの新しい挑戦として女子柔道部の創設が報じられた。それから20年。本業が幾度か浮沈を経験するなかでも、女子柔道への支援は続いている。

女子柔道部の活躍が社員の一体感を醸成

「社会貢献は継続することが大事」とコマツは考える。そのため、無理をして多くのことはしない。スポーツ支援の対象も広げることはせず、女子柔道に絞っている。選手は総勢10名。全員正社員として雇用し、現役の期間は寮に入り寝食を共にする。現役引退後を見据えて週3日間半日だけ職場で仕事をするが、ほかの時間はほぼ同社所有の道場で練習に励む。監督には1984年のロス五輪65kg級で優勝した松岡義之氏を招き、女子柔道で世界を狙う選手のために、安心して柔道に取り組める環境を整備している。

こうした会社の取り組みに賛同する社員は多い。1000円の年会費で任意加入の後援会は、約4000人の会員のうち半数以上を社員が占める。残りの半数は退職した社員や関連会社、協力会社の社員だ。

「休日であっても応援に行ってくれます。審判の手がコマツ側に上がって、総立ちで勝利を大喜びしているなかで、上司が隣の部下に『おい、今の技なんだった?』なんて聞いたりしている。国内の大会であれば、退職した社員も来て、そこで現役社員との交流が始まることもあります。また、海外の大会には現地の社員が応援に駆け付け、試合後は選手が現地の会社を訪問します。応援者同士はもちろん、応援する側の社員と、される側の選手が一体になることができます」(岡田氏)

女子柔道部の活躍が、国内だけでなく、グローバルに展開するコマツの全社員の心を一つにする。

「継続」のために、社員の関心を集める

「フロント(スポーツチームの運営にかかわる幹部)の仕事は、会社に働き掛けること、社員の関心を維持させることです」
と女子柔道部担当課長の松村崇氏は語る。
「社員と選手の交流の場を多くつくるようにしています。たとえば、事業所がある地域で合宿をして社員との交流を深めたり、正月の鏡開きには毎年、経営幹部や社員を招待し、一緒にぜんざいを食べる。また、後援会のなかに新人や社歴の浅い人で組織された応援団があるのですが、彼らは自主的に応援してくれており、オリンピックや大きな大会では必ず壮行会を開いてくれます」(松村氏)

特徴的なことは、選手の配属先の上長を柔道部の副部長に任命していることだ。岡田部長のもとに10名の副部長がいることになる。
「上司に選手の活動に関心を持ってほしいからです。選手が職場のなかに自然と入れるように配慮してもらうためでもあります。また、副部長は労働組合の執行委員長にもなっています。組合においても、女子柔道部のために活動してもらおうという寸法です(笑)」
と岡田氏は語る。

柔道をJUDOへ。そして世界一のチームへ

スポーツ支援として始めた女子柔道部は、着実にその成果を挙げている。谷本歩実選手がアテネに続き北京オリンピックでもオール一本勝ちで2連覇を果たしたことは記憶に新しい。さらに、2010年の世界選手権には部員10名中5名の選手を送り出した。まさに、日本女子柔道をけん引し、女子柔道の知名度を上げることに貢献している。近年では、女子柔道のグローバル化、それに伴う技の向上にも積極的に取り組む。

柔道の技術は、つかむ、崩す、投げるという3点に集約される。そのシンプルさゆえに、世界中の格闘技を吸収することで技術が向上してきた。たとえば、中央アジアのレスリング経験者やブラジルの柔術経験者が柔道を学び、すでに強豪になっている。世界の多くの選手は、彼女たちに勝つために技を磨く。

「コマツの選手が活躍することで女子柔道が世界に広がり、さらに海外の選手がコマツの道場で学びたいというのであれば、手を差し伸べたいと思います。それがまた日本人選手のためにもなりますから」
と岡田氏は語る。
現在は毎年1名海外の選手を日本に呼んで、コマツ柔道部員として練習させているが、今後は人数を増やしていきたいという。

さらに岡田氏は「夢は世界一のクラブチームにすること」と語る。それは、監督の夢でもあり、会社の夢でもある。柔道は個人競技のため、観衆の目や選手の意識は個人の勝敗にいきがちだ。だが、あえてチームで勝つことを目標に掲げる。それは、コマツという企業が経営においてもチームプレーを大切にしてきたからといえる。
2010年6月に行われた全日本実業柔道団体対抗大会(女子)では優勝を決め4連覇を達成した。世界一への夢が現実に近づいている。(2010.08.27)

【協力=早稲田大学スポーツ科学学術大学院 教授 原田宗彦氏】
【Text=湊 美和】 

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2010.06.05全日本実業柔道団体対抗大会祝勝記念
  









2009.07.28世界柔道壮行会での応援団









 
2010.06.05全日本実業団体対抗大会応援










2010.08.04コマツ女子柔道部員
 

 お話を伺った方 

会社概要

  ■創業 /1921年 
■本社所在地/東京都港区赤坂 
■事業内容/建設・鉱山機械、ユーティリティー(小型機械)、林業機械や産業用機械など
■売上高/連結1兆4315億円 単独4576億円(2010年3月期) 
■従業員数/連結3万8518名 単独8142名 
  岡田 正氏
女子柔道部部長
執行役員 
産機事業本部副本部長

兼 コマツ産機 
代表取締役社長
松村 崇氏
女子柔道部担当課長
人事部人事グループ主査 
◆ 『企業スポーツは今』バックナンバー
  第1回 コマツ 『社会貢献は継続が大事 女子柔道ひとつにしぼって支援する』 
  第2回 新日本製鉄 『日本のスポーツ技術の向上のためにクラブチーム化でその意志を継ぐ』
  第3回 森永製菓 『ひとりのアスリートの雇用が一体感の醸成、会社の広告宣伝につながる』
  第4回 NEC 『企業スポーツの4つの価値を宣言 「コストセンター」から「バリューセンター」へ』
  第5回 JXホールディングス 『日本トップレベルの企業スポーツを通じて社員、子どもたちにエネルギーを供給する』
  第6回 日立ソリューションズ 『社員の気持ちをひとつにした障害者スキー部 多くの社員の支えによって、強くなる』