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  Home > SPECIAL THEME > デイドリック・ストール氏インタビュー 2005年5月
 Works66号 番外編
SPECIAL THEME Works Institute
リクルートワークス研究所
Works66号番外編
欧州におけるOFF-JT、効果測定、HRの新たな関係
−ASTD ROI諮問委員長 デイドリック・ストール氏
Works66号の特集では「教育研修の成果−何を、いかに測るべきか」として、アメリカと日本の企業における教育研修の効果測定の取り組みを紹介した。今回のSpecial Themeでは、その番外編として、デイドリック・ストール氏にヨーロッパの企業は教育研修と効果測定にどう取り組んでいるのか聞いた。氏は出身国のオランダを拠点に、ルノー社など欧州企業を中心に企業の研修設計、効果測定のコンサルタント業に携わっている。2005年からはASTD(American Society for Training & Development 米国教育訓練協会)のROI諮問委員会(Advisory Committee)の委員長も務めている。同氏は、ヨーロッパの動向として、OFF-JTとOJTが融合し始めていると指摘。研修の効果測定の意味も変化し、それに伴ってHR担当者の役割も変わることが求められていると語った。

  →Works66号の内容についてはこちら
インタビュアー:内田美代子
――Works66号では、米国と日本企業における教育研修の効果測定の現状を紹介しました。今回は氏にヨーロッパの状況をお聞きしたいと考えています。高橋氏(神戸大学大学院経営学研究科助教授)が指摘するように、日本の企業はOFF-JTよりもOJTを重視してきました(Works66号22ページ)。ヨーロッパの企業は教育研修にどう取り組んでいるのでしょうか。
ストール氏
ストール ヨーロッパの企業では、研修はOFF-JTが中心ですね。OJTの良さは分かるのですが、OJTは管理が難しいためOFF-JTが中心となっています。人を管理する視点から考えると、学習方法は最も管理が難しいものの一つでしょう。
管理の視点から選択されたOFF-JT
――OJTや学習方法の管理とは、何をすることですか。
ストール 管理とは研修の目的や教室、講師、教科書などを決めることです。OFF-JTであれば各研修の目的や教室をそれぞれに決めることが可能ですが、OJTはOFF-JTのように管理ができません。管理ができなければ、結果を把握することも困難です。そのため企業は、インフォーマルなOJTではなく、フォーマルなOFF-JTに投資をするのです。
――日本では、OFF-JTは新入社員研修や管理職研修に代表される階層別の研修が一般的でしたが、最近では選抜式の研修も導入されています。ヨーロッパではどのような研修を実施していますか。
ストール ヨーロッパのOFF-JTは、マーケティングなどの科目やビジネス交渉などのスキルを、教室で2〜3日間にわたって勉強し、6週間程度後に再度研修を受けるというのが一般的な形式です。良い研修ではケーススタディーも用いられ、理論だけでなく実例も学べるようになっています。ただ、ヨーロッパでもOFF-JTの性質は変化してきています。
現場から離れたOFF-JTから、現場に組み込まれたOFF-JTへ
――それはどのような変化ですか。
ストール 一言で言うと、従来型のOFF-JTが、かばんに知識を詰め込んで職場に帰るものだったのに対して、今はOFF-JTと現場が近づいています。以前のOFF-JTは、現場から離れた場所で知識や理論を教えていましたが、研修の効果は思うように得られませんでした。そのため最近はOFF-JTで学んだことを現場や職場で応用させることに意識が向けられるようになり、考え方や行動の仕方を変えるために何をすべきか、どう環境を整えていくべきかに焦点が集まるようになりました。そこで学ぶ場所と現場を近づけ、2つの場所で知恵が交流する状態を目指すようになったのです。
――そうした新しいタイプのOFF-JTの研修例を挙げていただけますか。
ストール 製造工場のラインの研修例をご紹介しましょう。製造ラインの作業員の中に、必要な技術を十分に持っていない人がいると、ラインの生産性は下がってしまいます。このとき、技術が不十分な人に技術を習得させる研修をするのも一つの方法でしょう。しかし新しいOFF-JTの考え方では、人が学習するプロセスを促進し、行動の変化に結び付くような環境をつくろうとします。そのための方策として、ラインのキーパーソンにコミュニケーション・スキルの研修を実施するのです。ラインのキーパーソンとは、ラインのマネジャーや現場を熟知している作業員を指します。研修でこれらラインのキーパーソンにコミュニケーション・スキルを身に付けてもらい、良き指導者になってもらうのです。ラインに先生がいれば、スキルが十分でない人たちがいたときに、何が問題で、技術の習得のために何が必要か、どんな指導をすればいいのか、ラインの中で解決できるようになるのです。ここで必要なのは、製造技術を教える研修ではなく、コミュニケーション・スキルの研修なのです。
――OFF-JTと現場に接点をもたせるようにしたのですね。
ストール パフォーマンスや行動を重視し、研修の結果に焦点を当てるようになったため、OFF-JTと現場を近づけることで対応しようとしています。学習したことを現場で応用するには、やはりOJTは効果的な方法だと認識されているのです。先ほど、OJTや学習方法は管理できないと言いましたが、OFF-JTを現場に組み込むことで学習を管理しようとしています。ただそれは研修の目的や教室を管理するのとは異なり、現場を見て、現場の声を聞き、できることをするという当事者の学習する姿勢に、より焦点を当てたものになっていると言えるでしょう。
研修の効果測定の目的はプロセス全体の評価
――OFF-JTの効果測定には取り組んでいるのでしょうか。日本では厳しい経営環境の中で、研修の成果を測定する指標としてROIに注目が集まっています。
ROI(=Return on Investment 投資利益率):投下した資本に対してどれだけ利益が得られたかを表す指標。投資に見合った効果を生んでいるかどうかを判断する指標として用いられる。
ストール ROI を採ることに躍起になっているのは、ヨーロッパのHR担当者も同じです。トップが研修の結果を求めるため評価をし、ROI を算出しているのです。そして投資に見合う成果を挙げているかどうかを判断しています。
ストール氏ただ、OFF-JTの性質が変化してきたのに伴い、評価の手法や目的も変化しています。効果測定は、単に研修の効果を測定しプログラムの良しあしを判断するためではなく、研修の設計も含めた、プロセス全体を評価するためという考え方が主流になっています。研修の受講者が学習したかどうか以上に、研修の目的や内容の設定に問題はないか、学んだことが職場に生かされているかが重要だからです。多額の投資をしたのに、研修の目的を達成していなければ、研修の目的の置き方や内容が適切でないか、設計の仕方がビジネス戦略に沿っていないなど、設計の仕方に問題があると分かります。
――教育研修の効果測定において、ROI にこだわる必要はないということでしょうか。
ストール 私は研修を専門にしているコンサルタントですから、仕事を引き受ければROI を計算します。例えば、「今回導入したプログラムのROI は126%ですよ」と言えます。でも私は、126という数字はどんな意味があるのか、ROI を算出するのは何のためなのかを問いたいと思いますね。
研修の効果測定の方法は、ROI だけではありません。研修の目的や、経営者によっては受講者の感想がいちばん必要なのかもしれない。その場合は私はROI の代わりに、受講者の生の声を報告するでしょう。
見極めが必要な測定と価値の違い
――研修の目的が決まれば、おのずと評価すべきポイントも決まってくる、内容によって評価の目的や意味も変わるということですね。
ストール その通りです。これまでは、評価は良いか悪いかの判断のために用いられてきました。これからは、対話を進めるため、学ぶための引き金として用いられるべきでしょう。
評価(Evaluation)には測定(Measure)と価値(Value)の 2つの意味があります。測定と価値は違います。測定は情報を集めることです。例えば、今ここにある熱いお茶を23.6秒で飲みました。これは測定です。それでは、価値とは何でしょうか。23.6という数字にはどんな価値がありますか。お茶が早く飲めると言いたいのでしょうか。
このように測定と価値は違うのです。研修の評価をするときは価値に焦点を当てるべきだと考えます。一度考えてみていただきたいと思います、この研修は価値を与えますか、その価値は何ですかと。
――研修や効果測定の内容が変化していく中で、HR担当者の役割はどうあるべきでしょうか。日本では、最近はHRという言葉を用いますが、以前は人事と言っていました。人事と言うと、人を管理する仕組みをつくり、その仕組みがうまく機能するように監督する、いわば管理人のような存在でした。しかも、大企業では数年ごとのローテーションで配属先が変わることも多く、人材教育の専門家は育ちにくい環境にありました。ヨーロッパではどうでしょうか。
ストール 管理人のイメージは、ヨーロッパでも同じでしょう。ローテーションがないため人事を専門にしている場合が多く、教育担当者には統計技術に精通した人もいます。一方で、HRに特化しすぎたりHR以外の分野を知らないため視野が狭いなどの弊害が生じている側面もあります。優秀な若い人の中には、HRを避ける人もいますね。
ただ若いCEOは、HRが重要だと考えています。企業の活力を生むのは人材だと気付いているからです。そこで今は、管理人型の旧パラダイムのHRモデルに替わる、新しいHRの姿が模索されています。
HR担当者に求められる新しい役割とは
――新しいパラダイムのHRの方向性は見えているのでしょうか。
ストール ひとつは、マーケティングやリサーチなど他部署と協働し、企業の中で戦略的な部分を担っていくことです。そのためには、OFF-JTを現場に組み込んでいったように、HR担当者ももっと現場に出て行く必要があります。先ほど、当事者の学習する姿勢を重視するという話をしましたが、HR担当者こそ、現場に身を置き、そこで何が起きているのかを見て、現場の声に耳を傾け、自分たちに何ができるかを考えていくべきではないでしょうか。
学ぶ姿勢を重視するという考え方は、ヨーロッパには昔からありました。職人の師弟関係の中に存在していたのですよ。ところが、HRや研修部門を独立の部門として組織化した途端、現場との関係が切れ、組織内の他部署との接点がなくなり、会社の中で何が起こっているのか分からなくなってしまったのです。そうして、知識もあり、方法論には精通していても、視野の狭いHR担当者が生まれるようになったのです。
価値の意味が問われていると申し上げましたが、HR担当者が、ステークホルダーとして同じ視点で価値を語ることができれば、求められている価値は何か、その価値を得るために何が必要かも明確になり、経営者や現場の理解も一層得られるようになるでしょう。
――この記事の読者には、人事担当者も多くいらっしゃいます。最後に、読者へのメッセージをいただけますか。
ストール 人事に求められる役割が変わってきたという話に関連して、ご紹介したいエピソードがあります。アメリカのテレビドラマで「スタートレック」という番組があります。未来の宇宙を舞台にしたSF作品で、番組には地球人や異星人という設定で、宇宙船の乗組員が数多く登場します。その中に、カウンセラー・トロイという登場人物がいます。カウンセラー・トロイは、常に周りの状況や人々の様子に気を配り、情報を集めており、いつも宇宙船のキャプテンのそばにいます。そしてキャプテンは何かを判断するときに、カウンセラー・トロイの意見を求めるのです。私はHR担当者には、このカウンセラー・トロイのような存在になってほしいと思っています。
アメリカで放映されている新シリーズでは、新しいカウンセラーが登場しました。彼女の役職はコミュニケーション・オフィサー、名前はHoshi Satoです。名前でお分かりかもしれませんが、日本人なのですよ。日本の人事担当者の皆様が、よいコミュニケーション・オフィサーとなることを祈っています。
プロフィール
デイドリック・ストール(Diedrick Stoel)
コンサルティング会社ProfitWise CEO。ASTD ROI諮問委員会委員、2005年から同委員会委員長を務める。ヨーロッパを中心に、研修設計・効果測定のコンサルタント活動を行う。教育研修やROI に関するワークショップやカンファレンスを世界各国で開催し、WWF(世界自然保護基金)の教育研修の測定に取り組むなど、活動の場は幅広い。
(2005年5月10日掲載)

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