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 ワークスシンポジウム2007Webレポート
SPECIAL THEME Works Institute
リクルートワークス研究所
ワークスシンポジウム2007Webレポート(上)
第一部パネルディスカッション
「顧客接点人材」を育てる
「『顧客接点人材』を育てる――人を起点としたサービス・イノベーション」をテーマに「ワークスシンポジウム2007」が5月25日、六本木ヒルズで開催された。リクルートワークス研究所が1年間の研究成果を報告するもので、パネルディスカッションを中心にした第1部と12の分科会で各論に迫る第2部に、約300人が参加した。(上)では第1部シンポジウムの模様を紹介する。
>> ワークスシンポジウム2007Webレポート(下)
第1部のパネリストは、大原光秦氏(ネッツトヨタ南国株式会社 人材情報開発室 室長)、宮本貴司氏(株式会社伊勢丹アイカード 取締役店舗本部長)、亀田信介氏(医療法人鉄蕉会 亀田総合病院院長)、そして藤川佳則氏(一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授)の4人。ワークス研究所所長の大久保幸夫が進行役を務めた。

小さなイノベーションを積み重ねていく
大原光秦氏
ネッツトヨタ南国株式会社
人材情報開発室 室長最初に大原氏が、商品である自動車の購入検討、メンテナンスという機会に限らず顧客との関係を築く、独自の「顧客接点」づくりを紹介。また、顧客の充足感についての「物理的充足−心理的充足」軸、人材育成についての「マニュアル−エンパワーメント」軸という、2軸によるサービスのとらえ方を提示した。
「顧客の物理的充足感を高めるには、単純化・標準化できるマニュアル対応が適している。しかし、顧客満足度を本当に高め、しかもそれを維持するのは、親身な応対、丁寧さ、共感できるといった心理的充足感だ。それは、自主的に思考し創造的に行動し、その行動によってさらに自律能力が高まるような『エンパワーメント』の対応でなければ、与えることができない」。さらに、「エンパワーメントは生き方に通じるもので、定着には時間がかかる」とし、それを踏まえた人材育成の方針として、「『全従業員を勝利者にする』という目標を掲げている。それは単なる営業成績などではなく、家族や周囲の人に対して誇れる自分になるということ。『仕事は単に仕事ではなく、人生そのものである』と常々語り掛けるのはそういう意味だ」と話した。

宮本貴司氏
株式会社伊勢丹アイカード
取締役店舗本部長宮本氏は、「サービス・イノベーションといっても、小売業の顧客接点現場はいきなり大きなイノベーションは生まれにくい構造。むしろ小さなイノベーションの積み重ねが大きな結果につながっていくと考えている」という印象的な発言を皮切りに、伊勢丹における「職場の約束運動」を紹介した。「顧客重視を理念に掲げたとしても、それが顧客接点の現場でお客さま本位のサービスとして実現しているかどうかが問題」という観点から、「私たちはお客さまに対して『このこと』ができます」と「約束」を設定、実現に向けて取り組んでいくものだ。約束の内容は、婦人靴売り場なら「サイズ切れの不満を解消」、ギフト需要の多い売り場なら「ラッピング技術の向上」というように、実際の業務に即してして異なるため、顧客の期待に対して現状がどうなっているのかの課題抽出、約束の内容および数値目標の設定、実行と成果の確認までが、すべて売り場単位で進められる。そのうえで、継続的な取り組みによって、個別の「職場」のイノベーションを「全社」のイノベーションへ拡大するプロセスを構築していると語った。

従業員を「内部顧客」としてとらえる
亀田信介氏
医療法人鉄蕉会
亀田総合病院院長次いで亀田氏が、「医療サービスはオーケストラのようなもの」との持論を展開。医師、看護師、その他医療専門職員、事務職員といったさまざまなパートの演奏者がつくるハーモニーが重要ととらえ、さらに患者も「楽器をお渡しし、1パートを演奏していただく存在」だとする。こうしてイコールパートナーとなった職員と患者の関係がサービス・イノベーションを生むが、「前提として、職員の満足度向上が重要。職員を内部顧客と位置づけ、マーケティングのターゲットとして(内部)顧客満足度の向上に取り組んでいる」という説明は、聴衆から大きな共感を得ていたようだった。

藤川氏は、サービス業の新興企業に関する調査研究成果から、古書販売業におけるブックオフコーポレーションなど、古い業界の中で新たなサービス・コンセプトを創造し新たな価値を生み出している企業事例を紹介。サービス(提供するスキル)と顧客が求めているものとの間に生じがちな質的ギャップを埋めるため、新たなサービス・コンセプトで「顧客」を定義し直すこと、同時に顧客接点人材のスキル、キャリアも再定義することが重要だと説明した。

藤川佳則氏
一橋大学大学院
国際企業戦略研究科准教授また、具体的にどのようなプロセスでギャップが埋められていくのかという進行役の問いに、藤川氏は「顧客接点人材に必要なのは、顧客が何を求めているかを察知する能力と、察知したものを新しいサービスにつなげる提案力といえる。この能力を最大限に発揮させるためには、顧客接点において何を提供するのか、何を提供しないのかをトップマネジメントがまずきちんと定義することが必要。そのような現場にこそ、自律的な動きが生まれる」と答えた。

人材は「選ぶ」ものか「育てる」ものか
全国のトヨタ販売会社約300社の中で、7年にわたり顧客満足度トップの座を守り続けるネッツトヨタ南国。消費不況がいわれる中、百貨店業界をリードする伊勢丹。先進的な医療システムと質の高い経営を両立させ各方面から高い評価を得ている亀田総合病院。彼らの顧客接点人材の採用、育成における取り組みにも関心が集まった。

宮本氏は、「伊勢丹の社員だけでなく、パート従業員、派遣社員、取引先、外部委託先など、お客さまから見て『伊勢丹の人』をすべて巻き込んでいくことが職場の約束運動の意義でもあった」と語る。「商品を求めるお客さまの事情に踏み込み、気持ちを先読みし行動すると高い支持を得ることができる。会社が発するそうした大きなメッセージを現場が受け止め、意識的な行動で接客がなされれば、お客さまからダイレクトに好反応が返ってくる。この成功体験が従業員満足となり、もっといいサービスをしたいという欲求が生まれ、さらに顧客満足度を高めていく」。こうした循環を仕掛けることができれば人材は育つという観点から、「顧客接点の最前線で機会を与えることを恐れず、それを仕事の中に組み込むことが王道だと思う」とまとめた。

亀田氏は、医療従事者のコミュニケーション能力について「本音を言えば個人差が非常にある」として、コーチングやメディエーションなどの研修を充実させても一定の限界があると示唆した。しかしこれらの研修には、個人のスキル向上だけでなく、「いい医療、いいサービスは医師が定義するものという従来の考え方から、患者やその家族が何を求めているかを聞き出すことが重要という風土へ、病院全体を変えていく」狙いがあると説いた。

ネッツトヨタ南国の採用面接は長時間にわたり厳しいと評判だが、という進行役の問いに対し、大原氏は「採用活動では能力の有無をそれほど重視しているわけではない」と答えた。選考のためだけに面接しているのではなく、「その人がどういう生き方をするか、人生において働くことをどう位置づけるか考え、自分なりの答えを出すことを支援している」という。目指す生き方のために何をどのように身に付けていくのかが明確になれば、人材は育っていくという考え方だ。

藤川氏は、新興企業にとっていわゆる優秀な人材の調達は難しいことを踏まえ、「業績を伸ばしているのは、どんな人でも身につけることができるスキルを定義し、それに基づいて人材を育成できた企業だ」と指摘した。

考え、実践することが人材育成にもつながる
ディスカッションの最後に、進行役の大久保は「業界は違っても共通する要素として、優れた会社には人を育てる構造があるのだろう」とし、以下のようにまとめた。「ことサービス業では、『人材育成プログラム』と称するようなものの整備ではなく、顧客に本当のサービスを提供する流れや、サービスの質を高めていく機会について真剣に考え、実践することが結果的に人材育成にもなっているといった事例が多いと思われる。こうした仕組みが事業の中に根付いている会社が、顧客から評価されているのではないでしょうか」
(文 根村かやの)
>> ワークスシンポジウムWebレポート(下)
(2007年6月4日掲載)

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