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 Works創刊10周年記念シンポレポート
SPECIAL THEME Works Institute
リクルートワークス研究所
Works創刊10周年記念シンポレポート 多様なキャリアを支援する戦略人材マネジメント
『Works』誌創刊10周年を記念するシンポジウムが、東京・六本木ヒルズで4月22日に開催されました。第一部の記念講演とパネルディスカッション、そして第二部の9つの分科会。計11本の記事でWeb上に再現された、シンポジウムの模様をご覧ください。(レポートは順次アップします)
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この分科会は、高橋俊介氏(慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)、古野庸一(前ワークス研究所主幹研究員)の問題提起に、金井壽宏氏(神戸大学大学院経営学研究科教授)がコメントし、その後質疑応答に移るという流れで進んだ。組織と個人は今どんな成長の危機に遭遇しているのか、多様なキャリアを支援するHRMが成長の危機回避にどう絡むのかが話し合われた分科会の内容を紹介する。
文 五嶋正風
冒頭、古野は問題提起として、企業側から見た「中高年」「バブル入社組」「若手」それぞれのキャリア課題や、世代ごとの多様なキャリア観を紹介。「企業側が社員に理念を浸透させたい、ロイヤルティーを持たせたいと思っても、一律の施策では難しくなっている。多様なキャリア観を有する人たちから、どのようにコミットメントを引き出すかが問題だ」と会場に語りかけた。

個人と企業の「成長の危機」
高橋俊介氏
慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科教授続いて高橋氏が壇上に立った。高橋氏のいう「成長の危機」は企業の成長、そして企業を構成する個人の成長という、2つの「成長」の危機を指す。こうした成長の危機がなぜ今起こっているのかを説明した。最初に挙げたのは、もともと日本のOFF−JT投資は欧米に比べ少ないうえ、経営幹部育成などに選択と集中が進んでいることだ。日本の投資100に対し、欧州130、米国150というデータがあることを示し、「景気悪化でOFF−JT投資が絞られているという見方があるが、経年変化を追うと、もともと少なかったOFF−JT投資がバブル経済時に増加し、バブル崩壊後減っているのが実情」と説明した。また自己啓発の支援体制が不十分であることも指摘した。社会人向けMBAコースの競争率が低いことに触れ、「MBAを取得したなら転職するに違いない」と、自己啓発を支援するどころか足を引っ張るような雰囲気があると語った。

OFF−JT投資が少なく、自己啓発の支援も不十分な中、日本企業の人材育成の要となってきたのがOJTだ。「だがそのOJTも、いろいろな理由で機能しなくなっている」と高橋氏はいう。OJTが機能しなくなった理由として、業績悪化や成果主義の導入などがよく挙げられるが、それらは理由の一部で、「現場の人事の方から話を聞くと、もっといろいろな理由が見えてくる」という。例えば「これからはモノだけでなくソリューションの提供が必要だ」といっても、「現在の中高年はソリューション営業自体、自ら経験していない。環境変化が激しく、教えるべきことを教えられなくなっている」(高橋氏)。さらに開発と製造現場が近くにあったときは、実用的でない設計をすれば開発担当者が工場に呼び出され「擦り合わせ」と呼ばれる日本お得意のOJTがなされたが、工場が中国などに移転した現在では、こうした擦り合わせも難しくなっている。「このようにOJTには、単純なマクロの問題だけでなく、ミクロに見るといろいろな問題が起こっているのです」

このほかバブル期入社世代や中高年が多いなど組織の年齢構成がいびつなことから、「自分で考え組立てて進める」仕事が若手に回らなくなっていること、リーダーシップなど、思考行動特性の開発が求められる職種が増えているのに、OFF−JTとOJTを組み合わせた思考行動特性開発プログラムのノウハウがないことなどが、成長の危機の理由に挙げられた。

「キャリア自律」と「多様なキャリア」を車の両輪に
高橋氏は、成長の危機を克服するには「キャリア自律」と「多様なキャリア」が車の両輪となり、企業が多様なキャリアプランを、戦略的に提供する必要があるということを仮説として立てている。「企業で働きながらキャリアを自律し、管理職として昇進していく以外の道を歩みながら、成長を続けている人たちへインタビューをすることで、仮説を検証したい」と表明。この取り組みを『Works』誌上に「成長の危機」という企画として連載していくことも明らかにした。

「成長の危機」を克服し、企業と個人が共に育っていく組織のあり方はどんなものか。いくつかの観点を高橋氏は示した。
●「組織階層を上昇する出世」と「職人的複雑性の積み上げ」以外の多様な成長パターン
●内向きの組織、戦略から顧客向き、外向きの組織、戦略へ
●一律トップダウンから自律性・裁量拡大へ
●役割固定的組織からタスク志向のプロジェクト型組織へ
●分業的仕事から自己完結性の高い仕事へ
●管理と育成を分離する発想
●等級ではなく職種による人事管理
●自律的キャリア形成を支援、推進
これらの観点を示す具体的事例を、連載で紹介していくことになる。

「キャリアの多様性」へ4つの視点
金井壽宏氏
神戸大学大学院経営学研究科教授高橋氏の問題提起を受け、金井氏は企業から見た「キャリアの多様性」には、4つの視点があるとコメントを始めた。第1の視点は、「リップサービスではなく、キャリアの多様性が組織にとって重要だと本気で思っているかどうか」だと述べた。「私はよく大学教授を講師として集めた研修プログラムの設計を引き受ける。受講者に挑戦し、頭をゴツンとやるような先生、国宝級の経営学者で、ケーススタディーのつもりが独演会になってしまう先生、『先生の話を聞くと元気づけられる』といわれる先生など、講師陣をなるべく多様にする。このように多様性の大切さは、誰しも頭では理解している」(金井氏)。ところが実際には、学校の先生が「いろんな子どもがいていい」といいながら勉強のできる子をひいきするような過ちを、企業も犯しているのではないかと来場者に投げ掛けた。「例えば女性が活躍してほしいといっていて、実際に女性が独自の視点や手法で組織に貢献したとき、それがわが社の力になるといい切れるか。多様性が組織の力になると、本気で考えられるかが、この問題の始まりです」。

第2の視点に挙げたのは「どんな強みも、その裏地は弱みである」という点だ。達成志向、上昇志向の動機のコントロールを失すると「ダースベーダー」化し、社交欲、理解共感欲など対人関係に関する動機が、他の動機とのバランスを崩すと「ただのいい人」化し、抽象概念志向など仕事のプロセスにおける動機がいきすぎると「オタク」化するという高橋氏の指摘を受け、「どんなよい面も裏面には弱みを持っている。だからこそ多様な人材が存在すべきなのだろう」と語った。

「昇進する道しかない」では、社員にウソをつくことに
第3はキャリア自律との関連。「キャリア自律を大切にしていく有効な道筋は、キャリアの多様性を認めることだ」と説いた。「自分で考え、やりたい方法でキャリアをデザインしてほしいといいながら、キャリアの実現には管理職として昇進する道しかないというのでは、社員にウソをついたことになるだろう」。

最後に「社員が会社に魅力を感じ、ひきつけられることと、キャリアの多様性」の関連を挙げた。「特に若い人たちのことを考えると、『当社にはいろいろなキャリアの描き方があり、いろいろな生き方が認められる』と示すことが重要ではないか」と話した。

「人事や経営の立場でキャリアの多様性を進めるなら、今挙げた4つの視点を一部ととらえ、本気で考えるべきだ。もし本気に思えないなら『当社にはこういう生き方しかない』と宣言して社員を採用するべきではないか」と会場に語り掛けた。

一皮むける経験も、多様に用意されるべきだ
金井氏は、多様なキャリアとリーダー育成の関係にも言及した。「(リーダー育成をテーマとした)午前中のセッションとこのセッションの両方に出られた方は私をジキルとハイドと思うかもしれない」と会場内の笑いを誘いながら、「道を究めたい人、自律的に働きたい人、創造性を発揮したい人、人が成長するための一皮むける経験も、多様に用意されるべきだ。リーダーに向いていない人まで、無理をして目指すとすれば問題だが、リーダーシップを発揮してみたら面白かったという人まで遠慮してはもったいないし、今の日本に不足しているのはリーダー人材。リーダーシップを取り、次世代に意味のあるものを残すような仕事をすることは、唯一ではないが成長の一つの有力な道筋だ」と話した。

質疑応答では「キャリアの多様性が本気で大切だと思っていない経営者や部門長の考え方を、変えていくことはできるのか」という質問が寄せられた。高橋氏は「企業がキャリアの多様性を用意し、社員のキャリア自律を促すことは、福利厚生や受身で果たすべき企業の社会責任だと、はなから思い込んでいる人がいる。キャリアの多様性やキャリア自律を進めることが、わが社の強みにつながるということを説明し、経営の問題だと気付かせることはできるのではないか」と答えた。金井氏は「高橋氏がある勉強会で、受講者に『キャリア自律を進めることが、自分自身でなく会社にとってどんなプラスを生むのか、社長に提案する文章を書く』というテーマの作文を課していた。こうした作文なら、相手の価値観は変えられなくても、理詰めに考える人に対してヒントを示すことはできるのではないか」と応じた。
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(2005年5月26日掲載)

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