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  Home > SPECIAL THEME > プロフェッショナルを活かす企業(第6回) 2004年12月
 日本IBM
SPECIAL THEME Works Institute
リクルートワークス研究所
プロフェッショナルを活かす企業(第6回)
日本IBM プロフェッショナル集団はいかに形成されたのか
〜技術.プロフェッショナル・コンピテンシー担当 荒井淳一氏
人事・組織 キャリア開発プログラム担当 丑田俊二氏
ワークス研究所は 2004年度、企業で働くプロフェッショナルに研究の焦点を当てている。なぜ今、企業で働くプロフェッショナルに注目が集まるのか。企業はどんな仕組みによって彼らを育て、評価し、処遇するべきなのか。また彼らがその力を十二分に発揮できる企業組織とはどうあるべきなのか。専門職、プロフェッショナルの処遇に最前線で取り組む人事部門責任者と大久保所長が対談を繰り広げる。

第6回は日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)技術.プロフェッショナル・コンピテンシー担当荒井淳一氏と、人事・組織 キャリア開発プログラム担当丑田俊二氏にご登場いただく。ハードウェア・ビジネスからソリューション・サービス・ビジネスへの事業転換の必要性をいち早く察知した日本IBMは、新しい時代の要請に応えられる人材の育成を目指し、91年からプロフェッショナル人材の育成に取り組んできた。IT業界をリードするプロフェッショナル集団はいかに形成されてきたのか、その仕組みについて聞く。
→プロフェッショナル人材処遇への取り組みについてはこちら
文、構成 内田美代子、福島さやか
ソリューション・サービス・ビジネスを担う人材
大久保 日本IBMがプロフェッショナル人材の育成に取り組み始められた 1991年は、バブルが崩壊した年です。日本でも比較的早い時期からの取り組みだと思いますが、プロフェッショナル人材の育成に取り組むようになった理由は何でしょうか。
荒井氏
荒井 それまでIBMはハードウェアやハードウェアに付随するソフトウェアなどの導入・販売という製品を主体とした事業を進めていました。しかし 90年ごろから、ハードウェア・ビジネスとソリューション・サービス・ビジネスの売り上げ構成比に変化が生じてきました。そのためサービスを提供する人材の育成に一層重点を置くようになり、サービス分野での人材をプロフェッショナルとして育成していくために、91年にプロフェッショナル制度を導入したのです。
大久保 プロフェッショナル制度の導入の経緯はどうだったのでしょうか。
丑田 以前は営業・技術系社員を、一般職とスタッフ専門職の中に位置づけていましたが、91年のプロフェッショナル制度の導入で、上級クラスの社員をビジネスの内容に合わせ専門分野ごとに分け、プロジェクトマネジャー、コンサルタント、クライアントレップ(営業担当)など6つの職種に編成し直しました。社員がこれらの職種でプロフェッショナルの認定を受けるとICP(IBM Certified Profession)と呼ばれます。その後93年に、ICPのキャリアにつながる職位の社員を対象とした「スペシャリスト」を加え、制度の対象者を広げました。こうした変更により、一部の専門職を対象とする制度ではなくなり、さらに"プロフェッショナル"に焦点を当て、プロ人材の品質と育成に注目するようになりました。
※プロフェッショナル制度の概要についてはこちら
広がる制度の対象者
大久保 段階的な制度の導入により対象者が広がっているということですが、現在の対象者はどこまで広がっているのですか。
丑田 91年の導入では、対象者は社員のうち、5〜6%でしたが、現在では社員の70%まで広がりました。またプロフェッショナルとして認定する職種も、当初は 6職種でしたが、現在は 17職種まで増えています。
荒井 それぞれの職種ごとに、理事クラス(DE: Distinguished Engineerなど)から役員クラス(フェロー)までのキャリアパスが広がっており、IBMワールド・ワイドとの整合性が確立されています。
サービスは有償になる
大久保 90年ごろ、製品主体からサービス主体へのビジネスの転換を打ち出す中、プロフェッショナル制度を導入したとき、社員の方の意識にはどのような変化があったのでしょうか。
荒井 製品主体のビジネスをしていたとき、コンピュータ・システムの導入や開発支援といった仕事は、一部の有料SEサービスを除いて、製品の納入に付随するものと位置づけられていました。しかし会社の事業の主体が製品からソリューション・サービス・ビジネスに転換したことで、サービス提供が有償となりました。お客さまからサービス提供料金をいただくことにより、社員の意識には大きな変化が起こりました。お客さまに、より大きな価値を提供しご満足いただくことを目指すようになったのです。このため、社員がこれまで以上にスキルの研鑽に務め、仕事の成果や生産性まで強く意識するようになりました。
プロフェッショナルが自己実現できる組織
大久保 プロフェッショナル制度は社員にプロフェッショナルになることを求めていますが、個人がプロになっていくと仕事に対する個人の価値観や倫理観が確立されてきます。プロとしての価値観と会社の戦略にずれが生じた場合、会社としてはプロを生かしにくくなる恐れがあります。プロフェッショナル制度にはプロを上手くマネジメントする仕組みや工夫が必要になりませんか。
丑田 美しい言い方をすれば、プロフェッショナルには、IBMに在籍することで個人のキャリアや夢を実現してほしいと考えています。さらにIBM自身が、プロフェッショナルが自己実現できるような企業となることを目指しています。プロフェッショナルがIBMでキャリアが実現できるようになれば、企業として優秀なプロ人材を引き付けることができるでしょう。
荒井 プロフェッショナルになるための支援として研修制度を充実させています。各専門職種の段階ごとに、必要な研修を体系付け、研修ロードマップとして、社内ポータル上に公開しています。

もちろん社員の中には、個人の価値観に基づく生き方を追求して、IBMにとどまらず、社外に出て行くことを選択する人もいるでしょう。しかしIBMコーポレーション全体を見渡せば、多種多様な仕事を経験することもできます。IBMの中で興味や関心のある仕事をしながら、個人のキャリアを追求していくことができるのではないかと考えています。
社外からも認められる人材のために
大久保 プロフェッショナルの定義を考えると、社内の人による評価だけではなく、社外からも確かにプロだと認められることが必要不可欠だと我々は考えています。プロ人材を評価する指標をどのようにお考えでしょうか。
荒井 プロフェッショナルというのは、自分で名乗るものではなく、他人から「あの人はプロだ」と認められてプロになれるのだと思います。そうした考えから、IBMでは外部からの評価を重視しています。もっとも重要なのはお客さまからの評価です。お客さまからいただいたお礼状、お客さまの満足度なども、プロジェクトの評価の一部とされ、個人の評価に反映されます。それ以外にも例えば、学会や社外コミュニティでの論文発表、講演、研究や特許取得などの活動も評価の対象になります。
丑田氏
丑田 学会や社外コミュニティで評価されるには、常に最新の知識や情報を収集する必要があります。このため社内では技術コミュニティ活動が盛んで、専門分野の技術や能力を持ったプロフェショナル同士がお互いを高めあったり、後に続く後輩たちに技術や知識などを伝達する場となっています。公式のコミュニティ以外にも、○○研究室、○○塾と呼ばれる、インフォーマルなコミュニティもあります。また各人が持っている情報の共有を促進するため、知的資産データベースへの登録を奨励しており、このデータベースに年間何件の登録をしたかということも評価の対象になります。
認定まで先輩ICPが支える
大久保 スペシャリストやICPは、どのような審査によって認定されるのでしょうか。審査基準にはどのようなものを設けていますか。
荒井 ICPの前提となるスペシャリスト職位は、主に筆記試験、および経験を確認するための面接などによって認定します。一方ICP認定の大きな特徴は、プロが認定の過程に最初から最後までかかわるという点にあります。ICP候補者になると、同じ専門分野の先輩ICPがメンターとなり、候補者は認定に合格するまで、メンターからさまざまな仕事上の助言や支援を受けます。候補者は前提となる研修や実務経験を経て、CRB(Certification Review Board)と呼ばれる認定審査を受けます。CRBには、プロフェッション・エグゼティブ、プロフェッション・リーダーや先輩ICPなどが参加し、これまでの仕事の経験や審査基準に関する書類審査、面接などを実施します。このようにプロによる審査を通過して、初めてICPと認定されるのです。
※ICP認定までの流れについてはこちら
専門分野全体でのレベル向上を目指す
大久保 プロとしての認定は、その分野のプロが行うという姿勢に基づいた明確な仕組みになっていることがよくわかります。もうすこし具体的にお伺いしたいのですが、プロを認定するプロフェッション・エグゼティブやプロフェッション・リーダーとはどういう人なのでしょうか。
荒井 プロフェッション・エグゼティブはプロフェッションごとに任命され、戦略策定など当該プロフェッションに対する全責任を持ち、認定プロセスや認定レベルなどの決定も含め、候補者をICPとして認定するかどうかの最終判断を下す権限まで持っています。またプロフェッション・リーダーは、当該プロフェッションにおける育成や研修体系、技術コミュニティ活性化の施策の検討などを担当します。プロフェッショナル制度の運営、社員への適切なメッセージの伝達、各プロフェッション間の情報共有や認定プロセスでの平等性が保持されているかなどは、技術.プロフェッショナル・コンピテンシーが全社的な視点で確認します。
大久保 スペシャリストからICPまでのプロフェッションごとのトップであるプロフェッション・エグゼティブは職位でいうと、どのレベルの人がなるのですか。
荒井 プロフェッション・エグゼティブは原則としてDE(Distinguished Engineer)など理事クラス以上が担当します。
プロフェッショナルがプロフェッショナルを認定する
大久保 「プロがプロを評価し、認定する」という方針を採用されたのはなぜでしょうか。
荒井 われわれは同じ専門分野のプロフェッショナルでなければプロの認定はできないと考えています。例えばプロの歌手がプロの野球選手を評価することはできません。ICP制度にはこうした方針を反映させ、それぞれの分野におけるプロが、候補者がプロとして認定するのにふさわしいレベルかどうかを判定するようにしました。
丑田 プロとしての質を保証するために、プロがプロを評価するという仕組みに加えて、ICPの評価基準や認定申請時に満たしているべき項目などをすべて社内ポータルで社員に公開しています。目指すべき基準が明確にされていない状態の中で、ただ「頑張れ」といっても、プロになることはできないでしょう。

また一度ICPに認定された者も、プロの資格があるかどうかの再審査を、3年ごとに受けることになっています。こうした仕組みによって、プロフェッショナル人材の質の維持を図ってきました。
専門分野の選択を支援する
大久保 プロになるための制度があっても、社員個人が専門分野を自分で選択したのだといういわば覚悟がなければ、プロとしてその道で引き続き成長していくのは難しいと考えています。専門分野の選択は、いつするのでしょうか。
荒井 IT技術者の例で説明しますと、まず新入社員はITエンジニア見習いと呼ばれます。基礎研修を修了するとITエンジニアになり、それぞれの専門分野に分かれるまで共通のキャリアパスを進み、スキルが身についた段階でスペシャリスト試験を受けます。試験に合格してスペシャリストの認定を受け、さらに経験を積んでから、専門分野を選択することになります。
大久保 専門分野を選択するといっても、容易ではないですよね。自分だけでは選択できないということはありませんか。
荒井氏、丑田氏×大久保所長
荒井 ビジネス上のニーズに加え、本人の興味や関心、それまでの経験を考慮し、所属長や先輩社員と相談して、最終的に自分で選びます。営業系やIT技術者の仕事は、チームとなって取り組むことが多くなります。またプロジェクトチームだけでは問題解決できない場合もあり、チーム外のさまざまな部門の人と協働する機会もあります。そうした経験から、いずれはこういう人になりたいというロールモデルやメンターとなる人を見つけたり、キャリア・カウンセラーなどの支援も受けて、自分の進む専門分野を選択します。
メンターにも、生徒にもなるICP
大久保 選択する時期の前からロールモデルやメンターを見つけるというのも一つの方法ですが、各自に任せるのではなく会社も制度として選択を支援することも必要かもしれません。社員がロールモデルやメンターを持つことは制度化されているのでしょうか。
丑田 ICP候補者になった時からメンターを持つことが制度化されています。現在は若年層にまでメンターを展開しつつあり、今後さらに範囲を広げていく方向です。

先に申し上げた通り、ICP候補者として認定されると、一人の候補者に対して一人のメンターがつきます。またICPになるとメンターを務めることが義務となります。ICP以上の多くは、誰かのメンターであると同時に、誰かの生徒になっています。メンター制度はグローバルIBMにも広がっています。実際に、日本IBM内にメンターの該当者がいない社員には、IBMワールド・ワイドからメンターが任命されており、また日本IBM社員が他の国のIBM社員のメンターになっています。
大久保 われわれが実施してきたプロ意識に関するインタビューによると、一定レベルのプロになると社内に目標となるプロがいなくなり、今後のプロとしての自分が見えにくくなるという現象があるようです。メンターの仕組みを制度化し、プロとして認められた後も、常に自分より上位のプロがいる状態というのが非常に大事なポイントですね。
荒井 そうです。IBMでは、制度導入から10数年の歴史を経て、プロやさらにその上位のプロが出てきたという状況です。プロの育成には長い時間が必要だと認識しています。
プロフェッショナル集団のさらなる強化を目指して
大久保 最後にお伺いしたいのですが、御社のプロフェッショナル制度の今後の課題にはどんなことがあるのでしょうか。
丑田 これまでは、お客さまへのソリューション・サービス・ビジネスに直接携わる職種を優先して、プロフェッショナル制度の導入と運用に取り組んできました。現在の制度の対象者は社員の70%となっていますが、まだ対象外の職種があります。今後は対象外の職種についてもプロフェッショナル制度を展開していくことが課題です。まずは必要なスキルの認定や評価の方法、体系的な研修制度を用意していくことが重要です。

またライン専門職は現在、ビジネス上の業績目標を達成することに多くの時間を使っていますが、彼らのキャリアやスキルの育成も重要な課題と捉えています。ライン専門職にも育成の役割を担わせるという方針だけではなく、実際に仕事の時間を今まで以上に育成に使える仕組みも作っていかなければならないと考えています。
荒井 対象の拡大とあわせて考えなければならないのが、プロフェッショナル人材のさらなる育成と、プロフェッショナルにおける女性の比率を高めることです。このために、働きやすい仕事の環境整備や、多様な勤務制度の導入など人事制度の改善に取り組んでいます。それに加えて、スペシャリストのレベルから、いかに効率よくスキルや能力を身に付け、やりがいのある仕事ができるようになるまで育成していくのか、そのための施策の充実も今後の課題と考えています。
プロフィール
荒井淳一(あらい・じゅんいち)
日本アイ・ビー・エム株式会社 技術.プロフェッショナル・コンピテンシー担当
1983年早稲田大学理工学部卒業。同年、日本アイ・ビー・エム入社。大手都市銀行様の第三次オンラインシステム構築プロジェクトへの参画をはじめに、農協のお客さまの第三次オンラインシステム構築を複数担当。その後、流通業におけるクライアント/サーバー・システムでの業務系システム、Webサイト構築や企業統合プロジェクトなど、システム開発プロジェクトを多数経験。その間、プロジェクト・スペシャリスト、ITスペシャリスト、開発部長、プロジェクト・マネージャーを経て、2004年8月より現職。

丑田俊二(うしだ・しゅんじ)
日本アイ・ビー・エム株式会社 人事・組織 キャリア開発プログラム担当
福島大学経済学部経営学科卒業、日本アイ・ビー・エム入社。営業現場、本社、開発製造部門で、さまざまなエンジニアを経験、2003年より現職。『コンサルティングSEへの道 こうして高めるあなたの市場価値』日刊工業新聞社をはじめ著書多数。日本キャリアデザイン学会会員、技術士(情報工学)。

大久保幸夫(おおくぼ・ゆきお)
株式会社リクルートワークス研究所所長
1983年一橋大学経済学部卒業。同年株式会社リクルート入社。
人材総合サービス事業部企画室長、地域活性事業部長などを経て、99年雇用・労働問題に関する研究機関「ワークス研究所」を立ち上げ所長に就任。
専門は、労働政策、キャリア論、人材マネジメント。
詳細プロフィールはこちら
◇ プロを活かす企業 目次
第1回 トヨタ自動車株式会社
第2回 NECソフト株式会社
第3回 アサヒビール株式会社
第4回 日本テレコム株式会社
第5回 日本ユニシス株式会社
第6回 日本IBM株式会社
(2004年12月24日掲載)

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