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  Home > SPECIAL THEME > プロフェッショナルを活かす企業(第4回) 2004年12月
 日本テレコム
SPECIAL THEME Works Institute
リクルートワークス研究所
プロフェッショナルを活かす企業(第4回)
日本テレコム 育成・処遇・評価 三位一体の取り組み
〜人事本部 人事企画部長 林展宏氏
ワークス研究所は 2004年度、企業で働くプロフェッショナルに研究の焦点を当てている。なぜ今、企業で働くプロフェッショナルに注目が集まるのか。企業はどんな仕組みによって彼らを育て、評価し、処遇するべきなのか。また彼らがその力を十二分に発揮できる企業組織とはどうあるべきなのか。専門職、プロフェッショナルの処遇に最前線で取り組む人事部門責任者と、大久保所長が対談を繰り広げる。

第4回は日本テレコム株式会社 人事本部人事企画部長 林展宏氏にご登場いただく。日本テレコムは 2005年 4月からプロフェッショナル人材を生かすための新しい制度を導入する予定である。通信業界を取り巻く環境が激変する中、同社は自らの行く末をかけて新たな制度の導入に取り組んでいる。社員全員にプロフェッショナル人材となることを徹底的に追求する新制度の仕組みとはどういうものか聞いた。
→プロフェッショナル人材処遇への取り組みについてはこちら
文、構成 内田美代子、福島さやか
お客様に最適な解決方法を提供する、それが最高の価値
大久保 御社がプロフェッショナル人材の育成に取り組むことになった背景は何だったのでしょうか。
林氏
 まず事業環境の変化が挙げられます。これまで弊社は、固定通信などの回線の販売を主な事業としていましたが、現在は最先端の技術を用いてネットワークを構築・提供することで、お客様に最適な問題解決策を提出していくことが求められています。高度化したお客様の要望に応えるために、従業員一人ひとりが高度な知識やスキルを持つプロフェッショナルになったうえで、個人の力を組み合わせチームとして問題解決を行う必要が出てきました。また、もう一つの背景として、従業員の意識の変化があります。会社が示した働き方や制度に従っていればいいという考え方から、若手を中心に「自分のキャリアは自分で選択したい」という意識に変わってきたのです。
大久保 プロフェッショナル人材とは、具体的にはどういう人材を指すのでしょうか。
 単に知識やスキルに優れた専門家ではなく、常にお客様の満足を追及し、最高の価値を提供できる能力を持つ人材としています。お客様の要望に応えるためには、個人が積極的に能力開発に取り組む必要があります。そのうえで、チームワークを通じて個々人の能力を統合し、最大の成果につなげることが重要だと考えています。
プロフェッショナルが活躍できる3つの環境
大久保 2005年に導入するプロフェッショナルに関する総合的な取り組みの目的は何ですか。
 プロフェッショナルが活躍できる環境を、社内に整備することです。そのために 3つの取り組みを進めていきます。1つ目は、プロフェッショナル人材が生き生きと働けるような人事制度の導入です。2つ目は、彼らが十分にその能力を発揮できるよう、時間や場所にとらわれない、柔軟性を持った新しいワークスタイルの整備です。3つ目に、全員がプロフェッショナル人材となるための能力開発の場の提供です。
実証された能力で評価する
大久保 順番にお伺いします。プロフェッショナル人材が生き生きと働けるような処遇とは、どのようなものでしょうか。
 一言で言えば、個人の能力が正当に評価され、その評価が報酬に直接反映される処遇だと思います。具体的には、先に申しましたプロフェッショナル人材の定義に基づき、個人の能力とチームの業績を 2つの軸として評価します。1つ目の個人の能力の評価には、「実証された能力」を用います。「実証された能力」とは、実現した成果や業績、つまり「アウトプット」によって測ることのできる能力のことで、これにより個人の年収基準額を決定します。2つ目の業績に対する評価では、チームの業績達成による業績評価と、チーム業績に対する個人の貢献度評価の 2つを用います。能力評価で年収基準額を定め、業績評価は年収の 3割を占める報酬変動部分に対応させます。
※制度の仕組みについてはこちら
大久保 年収基準額の変動部分は個人の業績ではなくチームの業績で決定されるのですか。
 変動部分は、「チーム業績」と組織に対する「個人の貢献度」で決定されます。営業担当以外の社員は、チーム業績のウェイトを 70%と高めに設定しています。仕事で成果を出すには個人の力も大事ですが、いろいろな人と共同作業をすることでより大きな成果につながると考えるからです。個人の年収には個人の能力を反映させ、年収のうちの変動績部分はチームで達成した業績を重視するようにしました。
「実証された能力」の市場における価値
大久保 能力の市場価値を判定するという考え方に納得感はありますが、実際の作業は難しいですよね。どのように判定をするのですか。
 確かに判定は難しいです。まず能力を評価する評価項目として「コア能力」と「マーケット能力」という 2つの項目を設定します。「コア能力」はコンピテンシーに近いもので、例えば「リーダーシップ」といった項目を十数項目設定し、それぞれを 2〜3段階で評価をします。もう一方の「マーケット能力」では、すべての職種に共通する能力と、職種ごとに必要とされる専門的な能力を設定し、6段階で評価をします。こうして定めた能力をプロフェッショナルレベルごとに整理した能力定義書に基づき、評価をします。能力定義書の品質がプロフェッショナル人事制度の成否を左右しますので、現在特に時間をかけて作成を進めているところです。
大久保 IT技術者以外の職種では、マーケット能力の定義付けは難しいように見えます。例えば、営業職の能力定義書では何をどう定義するのでしょうか。
林氏×大久保所長
 客観性と厳密性を追求して能力をスキル単位で評価しようとすると、評価項目の数はどんどん増えてしまいます。それこそ項目数は 300や 400に上るでしょう。項目数が増えすぎると、現実的には評価が煩雑になり、メンテナンスも複雑になります。また、一つひとつの細かいスキルを評価しても、その人の実際の能力を評価したことにはなりません。そのため、スキルで評価するのではなく、スキルによって何ができているのかという「アウトプット」に着目して能力基準を定めることにしました。例えば営業職であれば、提案書の作成の際にお客様の表面的なニーズだけではなく企業の経営戦略にまで踏み込んだ提案ができているのかなど、こうしたことを能力評価の項目にしていこうと考えています。
総合的な能力開発への取り組み
大久保 プロフェッショナルのための能力開発には、どのように取り組まれるのでしょうか。
 プロフェッショナル人材の能力開発のために、適切な評価はもちろんですが、能力開発、評価、処遇を独立させてとらえるのではなく、一連の過程として総合的に機能するシステムの構築を目指しました。

個人の能力開発や評価については、ラインマネジャー、コーチ、アセッサーなど複数の人間が関わることにより、個人の主体的な取り組みを促すとともに、客観性や納得性を高める仕組みにします。ラインマネジャーは個人のキャリアプランに沿って適切な仕事を与え、仕事を通じて能力開発を支援する役割を担います。業績評価に加え、役割遂行が可能になるような能力開発もラインマネジャーの重要な責務となります。次にキャリア開発のためのコーチ(メンター)は、仕事や今後のキャリア形成の良き相談者となります。個人がこうなりたい、目指したいと思う人をメンターに指定し、個人の成長に伴って新たなメンターを指定することも可能です。そしてアセッサーは、同じ職位の上位の人間が担当し、処遇のための能力評価を行います。アセッサーは、全従業員の能力データベースをもとに能力評価の決定を行うパネルの一員も兼ねており、個々のアセッサーの評価基準の平等性を確認したうえで評価を決定します。
大久保 ラインマネジャーが部下の能力開発を業務として担っても、組織の業績や数値目標に重点を置きがちで、個人のキャリア開発の視点が欠けることになりませんか。
 確かにその危険性はあると思います。そうならないために、ラインマネジャーには部下の能力開発に対して責任があることを明確に打ち出していきます。一方、プロフェッショナルとしての個人は自主的に目標を計画管理しなければなりません。もちろん与えられる組織の数値目標はありますが、上司との相互信頼に基づき、担うべき役割と能力開発目標を作成させます。また上司は個人の能力向上の期待値を提示したうえで、その期待達成に向けて適切な仕事を与え支援することも重要な役割とします。
大久保 それでは、能力開発のガイドラインとなる、プロフェッショナル人材のキャリアプランやキャリアゴールはどのように提示しているのでしょうか。
 図表2を見てください(※図表2はこちら)。弊社では全従業員に専門分野を持ったプロフェッショナルとなることを求めます。学習や経験による能力開発をしながら、専門分野のプロとしてプロフェッショナルレベルを上げていきます。ここはプロとしてお客様に対し価値を提供する能力を身に付ける段階です。その後、自分の専門分野の中で業界の第一人者となる道に進むのか、マネジメント領域へ進むのかに分かれることになります。マネジメント領域のキャリアのゴールとして、プロジェクトマネジメント、ビジネスマネジメント、プロダクトマネジメント、アカウントマネジメントの4つを提示しています。
プロに必要不可欠なマネジメント能力
大久保 プロフェッショナルとして専門性を極めさせた後、マネジメント領域に転向させるのはどのような理由からでしょうか。
 お客様により大きな満足や感動を与えるためには、プロとしての専門能力に加えて、プロジェクトを統括していく能力が必要になるとわれわれは感じています。プロジェクトをまとめる力は一種のマネジメント能力であると考えていますので、プロとして一定の段階以上になった者には、マネジメント能力も併せて身に付けるよう求めていきます。
大久保 そうするとまず専門能力を身に付けた後、全員がマネジメント領域に進むというキャリアパスになるのでしょうか。
 全員がマネジメント領域に進むというよりは、マネジメント能力が高い人が選別されていくというイメージを持っています。社内の人員構成はプロフェッショナル領域からマネジメント領域に分化する手前、能力評価の段階でいえば 4〜5レベルが中核をなすと想定しており、マネジメント領域に進むのはそれほど大人数にはならないと考えています。
大久保 マネジメント領域に進まず、プロフェッショナルとして専門性を極める人はいないのでしょうか。図表2におけるプロフェッショナル領域の6レベルのポジションとはどのようなものですか。
 6レベルは、業界の第一人者という位置づけをしています。ですから報酬に関していえば、役員より多くなることが可能性としてはあるでしょう。実際、社内に外部から採用した人間で 6レベルに該当する者がおり、こうした人材には、処遇や職位に上限を設定しない方がいいと感じています。そのため役員の直前、従業員最高の職位の執行役員まで、プロフェッショナル人材のままでも上がっていけるように制度を設計しています。
会社が社外でのキャリアデザインを後押しする
大久保 プロフェッショナル人材の育成、評価、処遇に関して、会社から従業員に伝えたいメッセージとは何でしょうか。
林氏
 終身雇用制度が崩れつつある現在、会社の中だけで個人のキャリアデザインを考えるには限界があるという認識を持っています。個人が社外も含めてキャリアデザインできるよう、会社は社外の人材マーケットでも十分通用する人材に育成していかなければなりません。そのために社内で通用する力だけを評価しないで、市場の中で通用する価値を身に付けるための仕組みを用意し、社外を含めたキャリアデザインを個人にも考えてもらおうとしています。
大久保 そのための具体的な仕組みにはどんなものがあるでしょうか。
 個人の選択をできるだけ尊重する仕組みをつくっています。その仕組みにより、一人ひとりが責任を持って自分自身のキャリアをつくることができるようにします。また個人を会社の組織運営のための駒として考えるのではなく、個人がキャリアを積んでいく場が会社であるという認識を持つようにしています。具体的には個人がキャリア開発計画書を作成したうえで、ジョブポスティング制度などを利用し、希望の部署があれば応募して選択できるようにしています。また、個人と会社にとってWin-Winの関係になるような転進、例えばお客様やビジネスパートナーに転職するといった場合にはこれを支援したり、定年の時期を自ら決めることのできる選択定年制度等、キャリア選択の多様化を図っていきたいと思っています。
大久保 個人のキャリア的な自立を促し、個人の自己選択を認めるとなると、企業としては従業員の配属を強制しにくくなり、結果として社内における人材の流動性が下がる危険性はありませんか。
 会社が個人にプロフェッショナル人材としてキャリア的な自立を促す以上、社内の流動性が下がることはある程度は避けられないと覚悟しています。実際にその状況になってみたら、方針を貫き通すことは難しいかもしれませんが、流動性とプロ人材としての自立のどちらを優先させるかといえば、プロ人材の自立を尊重する姿勢でいます。
プロを生かす企業風土
大久保 制度以外にもプロフェッショナルを生かす企業風土があるように感じますが、その点はいかがでしょうか。
 その点は社長の倉重のリーダーシップによる影響が大きいといえます。倉重は、これまでIBMやPwC*の経営に携わってきた経験の中から、プロフェッショナルに対して強いこだわりをもっています。今の社会はものをつくる工業化社会から知識労働者が中核になる情報化社会に移りつつあります。これはまさに弊社を取り巻く現在の環境そのものです。われわれが今いるのは、多様化したお客様の要望にいかに応えていくかを競う、プロフェッショナル人材による競争社会なのです。

こうした意識から、トップが責任を持って企業として求める人材の育成、処遇、評価に関する明確な方向性を打ち出していることは、弊社の風土に大きな影響を与えています。このことで、会社は本気でプロフェッショナル人材の育成に取り組んでいくのだということが従業員に強く伝わっているように感じます。やはり制度だけ美しくつくったとしても、その運用がうまくいくとは限りません。

* PwC:現、IBM ビジネスコンサルティング サービス 株式会社
大久保 ただこれまで企業が追求してきた組織の効率化と、仕事を任せてプロフェッショナル化を進めることは、互いに相いれにくいものと思います。そうした課題はどのように解決されるのでしょうか。
 弊社の組織も部長がいて課長がいてという階層的な組織体が基本ですが、そうした組織のままでは、お客様の多様なニーズに迅速に応えていくことが難しくなってくると思います。それよりも課題ごとにプロジェクトを立ち上げ、必要な力を持った人材が集まり、課題を解決していく組織の方が効率的で、われわれが求めている組織だといえます。企業を取り巻く環境の変化に合わせて、組織のあり方自体も大きく変えていく必要を感じています。
プロフィール
林展宏(はやし・のぶひろ)
日本テレコム株式会社 人事本部人事企画部長
1984年北海道大学経済学部卒業。同年安田生命保険相互会社入社。営業を経験後1988年同社人事部、1992年日本国際通信株式会社人事部、1997年合併により日本テレコムの人事部人事・制度グループ長を経て2004年より現職。

大久保幸夫(おおくぼ・ゆきお)
株式会社リクルートワークス研究所所長
1983年一橋大学経済学部卒業。同年株式会社リクルート入社。
人材総合サービス事業部企画室長、地域活性事業部長などを経て、99年雇用・労働問題に関する研究機関「ワークス研究所」を立ち上げ所長に就任。
専門は、労働政策、キャリア論、人材マネジメント。
詳細プロフィールはこちら
◇ プロを活かす企業 目次
第1回 トヨタ自動車株式会社
第2回 NECソフト株式会社
第3回 アサヒビール株式会社
第4回 日本テレコム株式会社
第5回 日本ユニシス株式会社
第6回 日本IBM株式会社
(2004年12月3日掲載)

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