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  Home > SPECIAL THEME > プロフェッショナルを活かす企業(第3回) 2004年11月
 アサヒビール
SPECIAL THEME Works Institute
リクルートワークス研究所
プロフェッショナルを活かす企業(第3回)
アサヒビール 進化を続けるプロデューサー人事制度
〜人事部長 粟津晶氏
ワークス研究所は2004年度、企業で働くプロフェッショナルに研究の焦点を当てている。なぜ今、企業で働くプロフェッショナルに注目が集まるのか。企業はどんな仕組みによって彼らを育て、評価し、処遇するべきなのか。また彼らがその力を十二分に発揮できる企業組織とはどうあるべきなのか。専門職、プロフェッショナルの処遇に最前線で取り組む人事部門責任者と、大久保所長が対談を繰り広げる。

第3回はアサヒビール株式会社 管理本部 人事部長の粟津晶氏にご登場いただく。アサヒビールでは、管理職に代わる人材の育成を目指し、98年からプロデューサー人事制度を導入している。制度導入から 6年たち、その効果をどのように検証しているのか。新たに発生した課題をどう克服していくのか。制度改革に取り組むアサヒビールの動向に注目する。
→プロフェッショナル人材処遇への取り組みについてはこちら
文、構成 内田美代子、福島さやか
プロデューサーという新しい人材モデル
大久保 御社では98年からプロデューサー人事制度を導入されていますが、導入までの経緯をご説明いただけますか。
粟津氏粟津 90年代前半、わが社はビールの市場シェア首位のキリンビールさんに追い付くことを目標としてきました。しかし 90年代後半に入り、これからは追い越すことを目指すのではなく、弊社の新たな目標を設定し、自らの進むべき道を明らかにして、その道を切り開いていく必要があるという認識を持つようになったのです。

そのために、一人の管理監督者の指示の下、全従業員が一直線に進むのではなく、自発的に舞台をつくり、その舞台で活躍できる人材を育てていこうと考えるようになりました。このような従来の管理職に代わる人材を、プロデューサーと呼んでいます。

具体的な施策として、98年1月の経営理念の改定を受け、同年9月にプロデューサー人事制度を導入しました。※制度の概要はこちら
大久保 プロデューサーと管理職の一番の違いは何でしょうか。
粟津 求める人材要件が大きく異なります。管理職は、自分の部下の管理監督などのマネジメント色が強く、管理職が活躍する舞台はあらかじめ設定されています。それに対しプロデューサーは、舞台を自らつくり出すことが求められ、その舞台でいかに活躍できるか、いかに舞台を運営していくかが問われているのです。
プロデューサーが活躍する舞台
大久保 舞台とは、具体的には何を指しているのでしょうか。
粟津 狭義ではプロジェクトチームなど社内の組織を指しますが、広義では社内のプロジェクトチームだけでなく、社外の人材や資源を融合することも想定しています。また市場も舞台であるといえます。販売市場や顧客のニーズ、業界の戦略なども常に変化しており、その変化に合わせ新しい舞台を設計する必要が生じているのです。例えば、関連する部署同士が協力してプロジェクトチームを構成したり、社内に限らず社外の人材をチームに加えるなどの必要も出てきています。

酒類市場も変化しています。例えば従来の中心は酒販店でしたが、酒販免許の緩和の影響もあり、現在はコンビニエンスストアや量販店へと移ってきました。また海外市場への進出も多くなっています。既存の市場に加え、新規の市場も誕生し、酒類市場は複雑かつ多様化しました。これらの市場に迅速に対応していくためには、既存の方法に縛られることなく、そのときの状況に素早く対応し、舞台そのものをつくり出していく力が必要になるのです。
抜擢人事で示す会社の強いメッセージ
大久保 プロデューサー制度を導入した際に、従業員の方にはどのようなメッセージを出されたのでしょうか。
粟津氏×大久保所長粟津 一番のメッセージは、プロデューサー以上になれば事業部門長にも就けるようにしたことです。制度の変更に合わせ、実際にヨーロッパやアメリカの販売会社で、40代の社長を誕生させ、会社の方針を体現してみせました。これは社内では大きな驚きをもって受け止められ、「今後は年功序列ではなく、能力や実力に応じ抜擢する」ことが明確に伝わったのではないかと思います。
プロデューサー人材の資質
大久保 プロデューサーになるにはどのような資質が必要でしょうか。
粟津 これまでの取り組みから見えてきたのは、プロデューサーにとっていちばん重要なのは、会社の方針や戦略を十分理解したうえで、会社の中で自分は何をしたいのか、どんな新たな価値を生み出そうとしているのかを明確に示せるかどうかということです。仕事上の夢を持ち、そのうえで夢を実現するために必要な能力を、身に付けていくことが必要です。夢とその具現化のための能力がそろって、はじめてわが社が求めるプロデューサーになれるのです。

プロデューサーに必要な資質があるかを判断するため、プロデューサー登用診断を導入しました。あくまでも資質の判定をすることが目的なので、「試験」という名称を使うことは控えています。
会社でどんな夢を描いていますか
大久保 登用診断では、具体的には何を判定するのでしょうか。
粟津 2つのことを見ました。ひとつは「第2次中期経営計画を踏まえ、あなたが将来アサヒビールグループの中で、『実現したいこと』『やりたいこと』は何ですか」についての記述で、どんな夢やビジョンを持っているのかを問いました。もうひとつは、実際のケーススタディーを用い、問題解決ができるかどうか、そのために必要な説得力や論理構成力が身に付いているかどうか、この 2点を判定しました。これからアサヒビールで何かをしたいという意欲がなければ、舞台をつくり出すことも、設計することもできないでしょう。また、舞台でメンバーを生かして仕事を進めていくためには、メンバーに状況や取るべき戦略を論理的に説明し、納得させることが必要です。
大久保 登用診断はどういった方を対象にしているのでしょうか。
粟津 一般社員の3階層の資格で最上位の階層に属し、かつ連続して高い評価を受けた人を対象としています。

実際の対象者は32歳から50歳ぐらいの年齢層となりました。年齢に制限を設けないことで、若手は早い年次からの挑戦が可能となり、会社全体の活力が生まれたようです。また従業員全員がプロデューサーになれるようにと考えていますので、受験資格を広げることは当然と考えました。
大久保 プロデューサー的人材育成のための、研修や育成プログラムは用意されているのでしょうか。
粟津 DJS(ダブルジョブスペシャリスト)制度を活用しています。この制度は、従業員に 2つ以上の業務を経験させて、「新しい価値を生み出せるような力を身に付けさせよう」という意図で導入しました。最初は全階層の従業員を対象としていましたが、現在は制度を少し変更し、若手層のみを対象にしています。

粟津氏複数の業務を経験することで、異なる立場や考え方を持つ人と協力して仕事を進める方法を学び、多面的な視点を持てるようになります。こうした経験はプロデューサーに必要な能力、例えば変化対応力や論理構成力の育成に役立つでしょう。

DJSでは、営業の次に人事を担当するというようなことだけではなく、例えば営業でも都心部と地方の中核都市での営業を経験させたり、量販店と酒販店を経験させたりしています。

またプロデューサーになる前に複数の職場や業務を経験させ、そのうえで核となる専門分野を選択させるという意味もあります。
チャレンジ精神を評価する
大久保 プロデューサーは新しい価値の創造や新しいことへの挑戦が求められ、その仕事には大きな不確実性が伴います。そのため、単に結果だけを見て評価し、処遇することはモチベーションを下げることにもなり、工夫が必要です。
御社ではプロデューサーの評価をどのように行っているのでしょうか。
粟津 評価軸を 3つ設定しています。1つ目は、成果や業績を評価する目標管理制度です。2つ目は、プロデューサーとしての目標達成までの行動を判定するプロセス評価。3つ目として、新しいことに挑戦することを評価するチャレンジ目標制度を設けました。チャレンジ目標制度は、新しいことへの挑戦心を呼び起こすために、達成できなかった場合も減点とはせず、目標を達成した場合のみ評価する加点評価としています。
プロデューサー型人材を育てる組織
大久保 評価に加え、人材を育成するうえで重要なのは、モチベーションをいかに高く持続させていくかということです。そのために有効なのがメンター制度ではないかとわれわれは考えています。不確実性を伴う業務で必ずしも良い結果を出せないときでも、夢やポリシーを支持し、アドバイスを行うメンターについてはどうお考えでしょうか。
粟津 弊社ではメンター制度を特別には設けておりませんが、社員と上司との信頼関係に重点を置いて、上司がメンター役を務められるようにしました。この数年は、上司向けに面談の研修の充実を図っており、社員のキャリアを考える役割を確認させたり、相手の気持ちをくみ取る能力の向上などにも努めています。
大久保 新しい価値の創造を求めるには、組織にも従来の価値観にとらわれず新しい価値を追求する文化があることが必要でしょう。また指揮命令をしたり、管理監督されるようなピラミッド型の組織では、プロデューサー的人材は裁量権を与えられず、能力を十分に発揮できません。むしろフラット型に近い組織形態である必要があるのではないでしょうか。
粟津 企業の組織の在り方は、プロデューサーの仕事に非常に大きく影響すると思います。弊社は今年のキャッチフレーズに「変える、変わる」を掲げました。「何でも一度疑問を投げ掛けてみよう、そして自ら変えていこう」をテーマにしていますので、組織として変革を強く意識しているといえるでしょう。また、本社では既に部長以下の呼称を廃止し、補佐職位は設置せず、なるべくフラットな組織形態になるように変えました。これら組織の風土や形態の両方がそろって、はじめてプロデューサーが生きる組織になると考えています。
社会の一員という視点を持つ
大久保 プロデューサー型人材を育成した後、次に重要なのは、プロデューサーとして登用した人を、さらに成長させるための機会を提供できるかということです。特に社内でトッププロと認められると、社内ではその道の頂点に立ってしまい、先が見えにくくなり、さらなる成長が困難にならないでしょうか。
粟津 プロデューサー型人材をさらに成長させるためには、自分の会社をいったん離れ外から眺めることにより、幅広い視野を持たせることも有効となるでしょう。

またトッププロに対しては、社内に限らず、社外でも活躍できる場や機会を提供することが大事だと考えます。さらに上のレベルの人材の存在を知り、新たな体験をすることで、向上心を持続することができるのではないでしょうか。
大久保 社外に出て、そうした経験をいつするか、タイミングも重要です。個人のキャリアを考慮したうえで、さらなる育成を目指して、いつ、どういった経験をするのかを助言したり、経験の機会自体を提供するような援助をする必要があるでしょう。
粟津 直属の上司の場合、部門に与えられている数字的な目標達成や、現在の組織の状況を優先し、部下を育成するという視点が欠落してしまうことがあると思います。企業として、利益を上げることと、個人の成長を促し育成することを一緒に進めていくのは難しいのが実情ですが、何とか両立していきたいと考えています。

また個人の成長に必要な経験は、タイミングも内容も人それぞれだと思います。これからは一人ひとりの資質や状況に合わせ、経験や教育の機会を個別に近い状態で用意する必要があるのではないでしょうか。社内でプロを育成していくためには、従来の教育や研修の枠にとらわれない新しい発想が必要となるでしょう。

社内でプロを育成していけば、社外でもその能力や価値が認められるはずです。それは会社の利害といったものを超えて、社外に対して新たな価値を提供することであり、広くは社会全体への貢献になると思います。
新たな課題への取り組み
大久保 プロデューサー人事制度の導入から6年がたちました。成果とともにいくつかの課題が明らかになっていることと思います。取り組むべき課題は何か、教えてください。
粟津 これまで、プロデューサー人事制度の下、実力に基づいて抜擢人事を行ってきましたが、就いた職務に処遇が伴っていませんでした。階層ごとに月例給与や賞与が決まっており、どんなに高い職位に就いても、属している階層に定められた給与や賞与以上を得ることができないのです。
大久保 その課題については、どのように解決されるのでしょうか。
粟津 実力主義を徹底させた後には、処遇の面でも職務の重要性を正当に評価する必要があります。その解決方法として2005年度から役割グレードの導入を検討しています。
*役割グレード:組織において求められる役割や個人が担っている職責の難易度に応じてグレードを設け、年齢・役職にかかわらず同じグレードであれば同じ処遇をする制度。
より良い制度の構築を求めて
粟津 2点目として、評価の方法が課題となっています。何を、どのように評価するのかがポイントとなりますので、これについては、能力要件を定めたうえで評価の基準を設け、多面評価を導入して複数の視点から評価することで対応しようと考えています。多面評価については、弊社のR&D部門で導入しており、評価の公平性を保つでうえで一定の効果があると認められているようです。

今後、役割グレードの導入で処遇面での課題解決を図り、能力要件の設定と多面評価の導入で評価面での課題を解決したいと考えています。2005年のプロデューサー人事制度の改革を目指し、現在も効果の検証を繰り返しているところです。

アサヒビールに必要な人材を育成していくために、今後もより良い制度の構築を求め続けようと考えています。その過程は、試行錯誤の連続となることは覚悟のうえです。環境の変化に合わせて制度も手法も変化させ、社員の成長を会社の成長に繋げ、ひいては常にお客様の満足を追求していきたいと考えています。より最適な制度の構築を求めて、われわれの挑戦はこれからも続くことでしょう。
プロフィール
粟津晶(あわづ・あきら)
アサヒビール株式会社 管理本部 人事部長
1978年東北大学法学部卒業、同年アサヒビール株式会社入社。
工場・人事部・グループ会社で人事・労務を経験後、営業企画を経て人事部へ。
2001年より現職。

大久保幸夫(おおくぼ・ゆきお)
リクルートワークス研究所所長
1983年一橋大学経済学部卒業。同年株式会社リクルート入社。
人材総合サービス事業部企画室長、地域活性事業部長などを経て、1999年、雇用・労働問題に関する研究機関「ワークス研究所」を立ち上げ所長に就任。
専門は、労働政策、キャリア論、人材マネジメント。
詳細プロフィールはこちら
◇ プロを活かす企業 目次
第1回 トヨタ自動車株式会社
第2回 NECソフト株式会社
第3回 アサヒビール株式会社
第4回 日本テレコム株式会社
第5回 日本ユニシス株式会社
第6回 日本IBM株式会社
(2004年11月19日掲載)

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