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  Home > SPECIAL THEME > プロフェッショナルを活かす企業(第1回) 2004年11月
 トヨタ自動車
SPECIAL THEME Works Institute
リクルートワークス研究所
プロフェッショナルを活かす企業(第1回)
トヨタ自動車「モノづくりはヒトづくり」の精神
〜グローバル人事部長 鈴木輝男氏
ワークス研究所は2004年度、企業で働くプロフェッショナルに研究の焦点を当てている。なぜ今、企業で働くプロフェッショナルに注目が集まるのか。企業はどんな仕組みによって彼らを育て、評価し、処遇するべきなのか。また彼らがその力を十二分に発揮できる企業組織とはどうあるべきなのか。専門職、プロフェッショナルの処遇に最前線で取り組む人事部門責任者と、大久保所長が対談を繰り広げる。

第1回はトヨタ自動車株式会社グローバル人事部長の鈴木輝男氏にご登場いただく。トヨタ生産方式を体現する従業員は、いかに育成されるのか。トヨタ自動車が 10年以上の年月をかけて取り組んできた制度改革の歩みから、トヨタが求めるプロ人材の姿と育成への取り組みを明らかにする。
→プロフェッショナル人材処遇への取り組みについてはこちら
文、構成 内田美代子 福島さやか
将来を見据えた組織風土の改革
鈴木氏×大久保所長大久保 昨今、多くの企業でプロ人材の名がつく人事処遇制度が導入されていますが、ポスト不足に対応するために、管理職になる道とは別に用意された専門職制度の流れからきているところもあり、うまく機能していないケースが多くあります。御社では1999年からプロ人材開発プログラムを導入されていますが、導入までの経緯をご説明いただけますか。
鈴木 プロ人材開発プログラムは、そうした専門職制度の流れをくむものではありません。制度の導入には、ここ10年の全社的な流れが背景となっています。1980年代に今後の人員構成を予測したところ、従来のピラミッド型組織構造では、今後の人員構成に無理が生じることが分かりました。ポストの不足から、従業員全員がマネジャーにはなれないことが明らかになったのです。ピラミッド型ではない組織で、いかに会社全体の活力を維持していくのか、いかに人員構成に見合った処遇をしながら、社員が発揮する能力を伸ばしていくのか。またトヨタを取り巻く環境の目まぐるしい変化に対応していくには、権限を現場に委譲していく必要がありました。こうしたことに、この10年取り組んできました。
10年かけて発信し続けたメッセージ
大久保 実際にはどのような取り組みをされてきたのでしょうか。
鈴木 89年に組織をフラット化した後、96年にチャレンジプログラムを導入、そして99年にプロ人材開発プログラムを導入しています。※制度の概要はこちら

この一連の取り組みの中で、まず全員がマネジャー職を目指すという働き方から、スタッフ職かマネジャー職いう2つの道があることを示しました。マネジャー職は、室長・部長相当とし、それ以外をスタッフ職としました。ただしマネジャー職が組織のマネジメントを担当するのに対し、スタッフ職は、部下が全くいないということでもなく、若干のメンバーを抱えながら、ある専門性を発揮してプロジェクトを遂行するものと位置づけました。

2つの道があることを示したうえで、スタッフ職とマネジャー職が対等であることを強調する必要がありました。従業員の中には、マネジャー職がスタッフ職の上位にあるという意識があったからです。

従来の「マネジャーになれなかった人がスタッフ職である」という概念を変革するために、スタッフ職としての働き方、求められるものを明らかにして、スタッフ職への道を明確に示すことにしました。また昇格制度でもマネジャー職としての昇格と、スタッフ職としての昇格を分けました。スタッフ職の評価対象には専門性を入れるなどして、スタッフ職としての働き方もきちんと評価することを示しました。

プロ人材開発プログラムを通じて描いた世界というのは、基本はある専門性をもとにみんながスタッフ職として働けるようにしよう。その中でマネジメント特性の高い人がいればそういう人たちを選んで、マネジャー職の道を進ませようというものなのです。
プロ人材にとって特殊な専門性は二義的なこと
大久保 それではプロ人材、プロフェッショナルをどのように定義されているのでしょうか。
鈴木氏鈴木 トヨタに必要なのは、極めて特殊な専門性でも、業界トップの専門性を持った人材だけでもありません。必要なのは、「確実に組織に貢献できる人」だと考えています。実際に組織に貢献するためには、ある分野の専門性は必ず必要です。大切なのはそうした専門性を持った従業員が、他の従業員と一緒に働いたとき、チームとして能力を発揮できること。専門性を発揮してプロジェクトを遂行し、会社に貢献できる人材をプロととらえています。トヨタではスタッフ職としてこうした働き方をする人が、大多数になるので、彼らをどう育成していくかを大切にしていこうとしています。
大久保 専門性を高めていってプロになると、プロとして自分なりの仕事に対する目標や倫理観も出てきて、会社の方針と必ずしも一致しない、結果として会社が使いづらい人材になっていくというケースがあります。御社ではそういった問題はありませんか。
鈴木 そういうタイプの人は確かにいると思います。ただ使いづらいというのは、プロになったからというよりも、個人の個性によるものではないでしょうか。専門職として道を究めているが、会社の中でうまくいかないというケースは少なく、多くは専門職として道を究めるのに至らないのではないかと思いますね。
専門性だけでは必ずしも成果に結び付かない
大久保 ひとつの専門分野をエキスパート的に掘り下げていく人たちには、どのようなキャリアプランが用意されていますか。
鈴木 結果的にエキスパートになるというのが近いでしょう。専門性獲得のため部署が作成する育成プランのもとでの、ローテーションの結果としてそうなっているとしか言えません。技術の方面ではSE(スタッフ・エンジニア)やSSE(シニア・スタッフ・エンジニア)という資格を設け、従業員を鼓舞するようにしていますが、資格を与える能力要件といったものを定義して、広く認識させる重要性を感じています。
大久保 エキスパート型の人が育つには、周囲にエキスパートとして本当に光っている人たちが尊敬され、適切な評価を受けていることが必要だと感じています。これについてはどうお考えになりますか。
鈴木 エキスパートの育成がうまく機能しないことの背景として、現実的に、そういう人が組織の中にあまりいないということが要因になっていると思います。組織の中で、エキスパートであり、かつ成果をはっきり示せるようになるのは難しいですね。エキスパート人材の計画的な育成には、まだあまり取り組めていない状況です。
外部の専門性をいかに活用するか
大久保 94年から、デザイナーや技術者などの専門職種を対象に、5年間の有期雇用で採用するというプロフェッショナル・コントラクト(PC)制度を導入されています。現在はどのような状況でしょうか。
鈴木 あまり拡大の方向へは進んでいません。PC制度で採用した人材には、社内にはない斬新な発想を期待していたのですが、彼らを欲しい、活用したいというニーズが社内にあまりありませんでした。また労働市場側にも、PC制度という形態で働こうという人材が十分にいなかったということがあるのでしょう。やはりトヨタが求めるような人材を有期で確保することは難しいのかもしれないと考えています。どちらかというと現在は中途採用の方針に移行しています。
大久保 中途入社者を活用するためのマネジメントでは、何がポイントになるのでしょうか?
鈴木 その人の技術力が欲しいと思って採用した人たちと、トヨタの働き方になじんでいる従業員とでは、こちらが求めるものが異なります。後者に対しては、仕事におけるミッションや成果も、より中長期的な視点から見ることになります。ですので、中途入社者が従来からいる従業員と一緒になったときに、埋没してしまわないように、彼らの良さを引き出し、その良さを評価できるよう、彼らに何を求めるのかということをはっきりと示し、その成果を評価することが重要です。この点はトヨタの場合、中途入社者を生かしきれているとはいえませんので、仕組みを整備していくことがこれからの課題となっています。
トヨタ式プロ人材の育成法
大久保 従業員をどのように育てていこうとお考えですか。
鈴木 プロ人材開発プログラムの導入で、マネジャー職だけでない、スタッフ職を目指す道もあるということを示しました。トヨタでは、専門性を持ちながらチームの一員として組織に貢献できるスタッフ職としての人材を求めていること、そしてスタッフ職が大多数であるという認識を広めました。そのうえでスタッフ職としての専門性を身に付けるために、ただずっと同じことをやっていればいずれ専門家になれるという考えから、その専門性は計画的に育成していかなくてはいけないという考えに変えてきました。
大久保 計画的な専門性の育成にはどのように取り組んでいるのでしょうか。
鈴木 専門的なことに関しては、各部門でキャリアパスをいくつか定め、そのための育成プログラムを各部門で作成し、部門ごとで教育をしています。例えば、技術分野ならねじとはから始まるような基本教育などもあります。専門性を支える基礎的な力については、全社的に教育しています。
根底にある基礎的な力の育成
大久保 技術者のノウハウによって企業のコンサルティングを行うオージェイティ・ソリューションズに代表されるように、トヨタさんでは技術者の方の教育体系化がしっかりとなされています。ホワイトカラー育成の体系化についてはいかがでしょうか。※オージェイティ・ソリューションズの詳細はこちら
鈴木氏鈴木 ホワイトカラーの教育内容や体系については自信を持っています。現在は、以前と比べ、より基礎的な力を身に付けさせることを重要視しています。実は教育方針の重点の置き方というのも、時代によって変わっています。80年代までは管理型マネジメントが強かったのですが、世の中の変化のスピードについていけないということで、基礎的な力の育成よりも創造性や柔軟性の育成に傾いた時期がありました。今は、振り子が戻ってきたというか、やはり基礎が第一だという認識になっています。働くうえでの基礎となる力と創造性や専門性という力は相反するものではなく、あくまで基礎となる力があって、そこの上に乗るものだと。これは確信を持っています。だから、基礎の部分は徹底的に教育することになりました。
大久保 その人の専門性を評価して、「じゃあ、この人にやらせてみよう」と思っても、基礎となる力がなければ、その人に最初から最後まで仕事を任せることはできないですしね。
鈴木 その通りです。たとえ優れた専門性を発揮したり、斬新な発想ができても、仕事をやりきれないでしょう。何かを発言することができても、結果を出すことができなければ、会社としては評価することは難しいですね。
入社したときから求められるプロとしての覚悟
大久保 心理学的な観点から研究をすすめ、ひとつ見えてきたこととして、ある領域でプロになる前に、どこかの段階で「自分はこの分野で生きていくのだ」という自己認知が不可欠だということがあります。自から専門領域を選び、そこにエネルギーを集中させていかなければ、いくら能力やスキルを身につけても、プロフェッショナルな意識を持てないのではないかと考えています。
鈴木 そうですね。そしてどうやってその意識を持たせるかが重要です。
大久保 普通は最初からこれが自分の専門領域だと分かっているということはありません。大抵は配属されてそこで10年も働いているうちに、「これが自分のやりたかったことだ」とか、「この分野を掘り下げたい」という意識に変わるものですね。御社では「これが自分の専門」というのはいつごろからどうやって意識を持たせるようにしていますか。
鈴木 時期としては、もうトヨタに入った瞬間からです。プロ人材開発プログラムの趣旨からいけば、その配属されたところを専門領域としてやっていくのだ、という意識を持たせることになります。
そういう意識付けを早くから行うことが必要と考えていますので、従業員には積極的に、それこそ新卒採用では内定の段階から意識がもてるよう様々な働きかけをしています。トヨタにはこんな仕事もあるのだよ、あんな仕事もあるのだよと示し、最初から進むべき分野はここだと視野を狭めることを避けているといった方が適切かもしれません。たくさんの仕事の中で面白い、やってみたいと思える分野を発見させることで、将来のキャリアを見据えて、進む道を選択させています。
大久保 従業員のキャリアに関するアドバイスは、直属の上司が行うのですか。メンター制度のようなものがあるのでしょうか。
鈴木 基本的には直属の上司が、将来のキャリアを描けるように指導をしています。それに加え、プロ人材開発プログラムの中でも、領域ごとにキャリアパスを示しています。大体こういうキャリアを積んでいくことが理想なのだよと、最初の教育のときに見せるのです。
あらかじめその人のキャリアとして分野を選択させていますから、スタッフ職としての専門性をここで身に付けるという覚悟がある程度できています。そのうえで、会社として計画的に専門性を育成していく道を示しますから、従業員が安心して働ける環境になっているのではないでしょうか。
「労働市場で1000万円の価値」がある人材を作り出す
大久保 プロ人材開発プログラムでは「労働市場で1000万円以上の価値」がある実力を持つ人材を育成するというメッセージを打ち出していますね。従業員の皆さんはどのように受け取っているのでしょうか。
鈴木 仕事内容や仕事の成果というものは、数字で実際に測定するのは難しいものです。ですから、必ずしも社内での評価と、労働市場での評価が一致するわけではありません。1000万円という数字に特にこだわっているわけではありませんが、スタッフ職として専門性を身に付け、いずれは「労働市場でも1000万円の市場価値がある人材になりなさい」というメッセージは、若い人たちには効果的だったようです。

今のトヨタで育てようとしている人材は、基礎的な能力が高く、チームを組んだときにも効果的な働き方ができ、なおかつ専門性を持つ人材です。こういう柔軟な集団が大多数となることで、いろんなことに対応できるようにしています。これが今のトヨタの目指すところであり、そういう形に近づいていると思います。
プロフィール
鈴木輝男(すずき・てるお)
トヨタ自動車株式会社 グローバル人事部部長
1979年東北大学経済学部卒業。同年トヨタ自動車株式会社入社。
1979年〜第1購買部、1990年〜人材開発部、1997年〜VVC、2001年〜グローバル人事部、2003年6月より現職。

大久保幸夫(おおくぼ・ゆきお)
株式会社リクルート ワークス研究所所長
1983年一橋大学経済学部卒業。同年株式会社リクルート入社。
人材総合サービス事業部企画室長、地域活性事業部長などを経て、99年雇用・労働問題に関する研究機関「ワークス研究所」を立ち上げ所長に就任。専門は、労働政策、キャリア論、人材マネジメント。
詳細プロフィールはこちら
◇ プロを活かす企業 目次
第1回 トヨタ自動車株式会社
第2回 NECソフト株式会社
第3回 アサヒビール株式会社
第4回 日本テレコム株式会社
第5回 日本ユニシス株式会社
第6回 日本IBM株式会社
(2004年11月5日掲載)

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