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  Home > SPECIAL THEME > 新世代の就業観 2002年12月
 新世代の就業観インタビュー 3
SPECIAL THEME Works Institute
リクルートワークス研究所
「なりたい」と思える大人がたくさんいることに気付いて欲しい
”すてきなお仕事人のカタログ”サイトが目指すもの
大学生、高校生が自身のキャリアや将来を考えるため、世の中のありとあらゆる"働くすてきな大人"に会いにいっている。彼らが聞いてきた話を記事にまとめ、現在190人を超すお仕事人事典として公開しているのが「キャリナビ」という非営利のサイトだ。活動に参加した学生、生徒は大人たちからどんな話を聞き、何を感じているのか。活動の代表を務める平尾ゆかりさんは、わずか5カ月で就職した大手企業を辞めた。いま28歳の平尾代表は、どんな問題意識からこの活動に転じたのか。それらの答えの中に、若い人たちが「働く」ということをどう考えているのか、理解するヒントがあるかもしれない。
インタビュアー:ワークス研究所 五嶋正風
働く大人195人が登場する「お仕事人事典」
――まずはキャリナビの活動内容を教えてください。
平尾氏 写真中心となるのはキャリナビのサイトにある「お仕事人事典」で取り上げる人を取材し、記事を執筆、紹介する大人をどんどん増やしていくことです。さまざまな分野で活躍している大人を、キャリナビメンバーと呼ぶ高校生、大学生が取材します。取材に協力いただき、「お仕事人事典」に登場する大人のことは、ナビゲーターと呼んでいます。現在「お仕事人事典」には195人(2002年11月現在)のナビゲーターの記事が収録されています。これまで取材に参加したキャリナビメンバーは、活動がスタートした1999年から数えて、およそ150人。大学生と高校生の比率はおおむね 9:1 です。

「お仕事人事典」として発信するだけではなく、記事を見た人が登場するナビゲーターへサイト上で質問し、それに対するナビゲーターの回答が見られる、という機能もあります。
面白い先輩を悩める後輩に紹介したのがきっかけ
――登場するナビゲーターを増やし、「お仕事人事典」の内容を充実させることが一番の活動の目的ですか?
その側面は確かにありますが、それよりも「こんなふうに生きてみたい」と思えるような大人に会いにいこう、会っただけではもったいないので、取材という形式を通じた出会いをしようというのが、活動のベースです。このあたりは活動の発端をお話しすると分かりやすいと思います。

キャリナビは99年4月NPO法人ETIC.の1プログラムとして発足しました。私たちの周りの人や、多くの青少年の中には「将来どんなふうに生きていったら楽しいんだろう」と困っている人がたくさんいると感じていました。一方で私たちの大学の先輩や知人にはすごく面白そうな活動・働き方・生き方をしている人がたくさんいたので、このプログラムの学生に「会ってみたらどう?」と勧めてみました。そのとき、「会ってよかったね」で済ませてはもったいないぐらい、とても衝撃的な話・人生観が変わってしまうような話を聞かせてもらえた。この体験を記事にして、インターネットで発信し、更に多くの青少年(中学・高校生)に届けよう!という思いから始まった活動です。

※ETIC. エティック。ベンチャー企業や企業の新規事業部門でのインターンシップを中心に、学生に紹介する活動をしているNPO。
多くの大人の支援者に支えられている
――大人に会って話を聞く過程が大切なわけですね。どんな大人に会うのかを含めて、企画から取材、記事の執筆まではどのように進めるのですか?
平尾氏 写真
活動の主体はキャリナビメンバーたちなので、彼らの希望を聞きます。キャリナビには今まで取材したナビゲーターをはじめ、多数の支援者がいます。その方々に紹介をお願いしたり、「ここにこんな面白い人がいたよ」と推薦していただいたりします。
――「お仕事人」事典には会社員、公務員、職人さん、芸術家など、本当にいろいろな分野のナビゲーターがいますが、どの分野の方を新たに取材するか、調整などはしているのでしょうか。
基本的にはメンバーの好きにしてもらっています。ですが取材を始めると、得てして自分の視野の狭さといったものにあっという間に気付きます。すると今まで話を聞いていない分野の人に会いたくなる。だからあまり調整はしないことになります。人選ができたら、アポイントメントを取り、取材にはメンバー3〜5人で出掛けます。取材場所は都心だけではありません。遠くに住む方でも「会いたい」と思った人には、レンタカーを借りてでも会いにいきます。海外で取材をしたこともあります。

失礼な言い方かもしれませんが、学生記者メンバーには「取材する大人たちは"偉い人"ではなくて、みんなにとっての"サンプル"だよ」と話しています。自分の進む道を考える上で、とにかくいろいろな「大人のサンプル(ロールモデル)」に直接会って話をしてみようと。いろんな話を聞き、なぜこの人はこの仕事をしようと決断したのか、取材対象のナビゲーターが進むべき方向性について腹をくくった瞬間を聞き、「私ならどうか」と自分に置き換えて考えようと言っています。
「食べていけるの?」素朴な疑問をぶつける
――自分に置き換えて考えるため、具体的にはどんな取材をしているのでしょうか。
例えば書道家を取材した場合。メンバーたちは別に書道家になりたくて話を聞きにいってはいません。でも「果たして書道で食べていけるのか」など、素朴な疑問を持っている。取材では疑問をそのまま相手にぶつけます。すると「自分にほれこんだ客から一筆頼まれる、教室を開いて人に教える」など、「こんな収入の道がある」が具体的に示されます。そして、では自分の場合は何が「書道」になるのかとか、自分にあてはめて考えるようになるわけです。

取材を終えたら、次は全員で、その週の取材を報告し合います。同じ書道家から話を3人で聞いたとしても、受け取り方が3人で全然違い、これがまた面白い。三人三様の話をみんなで共有することで、「ああ、私ってこういうところに感動するんだ」とか、自分の興味をほかの人たちと比較、相対化し、自分の考えをよりクリアにしてもらうのです。

この活動で最も肝心なのは、いろんな大人のサンプルを見たうえで「では、自分はどうするの?」という問いを真剣に考えることです。キャリナビのプログラムは、6カ月が一区切りになっています。ここは記者養成講座ではないし、いろいろな人の話ばかり聞き過ぎて"知った気分"になり居ついてしまうのも活動の意に反する。だから期間限定となっています。

この活動の魅力は、取材した大人からも感謝される点です。「自分の息子や娘すら聞きにこないのに、私の人生に、そこまで真剣に耳を傾けてくれる。わざわざ訪ねてきて、記事まで書いてくれるなんて」と。取材で人生について話をすることは、大人も一緒になって、自分自身の誇りや、仕事をするうえで大切にしてきたことを振り返る機会になっているようです。ですから、活動としては青少年を勇気づけるものとしてやっていますが、実は取材される大人の方もかなり元気づけられていると感じています。
どう生きていくか、主体的に考えている
――キャリナビにやってくる人たちは「働く」とか「将来」といったことを、どうとらえているとお感じですか?
平尾氏 写真
参加する学生や生徒たちは、人生に対してすごく真剣です。「今の若者はダメだ」などと言う人もいるけど、全然ダメじゃないですよ。私が大学2年生のころ、こんなに将来のことを考えていたかと言うと、とてもじゃないけど考えていなかった。やはり就職難であり、リストラが横行する時代なだけに、じゃあ自分自身どうやって生きていくんだと、主体的に考えているように見受けられます。

確かに、世の中全体の若い人が、ここで活動する子たちのように真剣に人生を考えてはいないと思います。私は大学で講演することもあるのですが、そのときに会う学生たちは「え、そんなこと真剣に考えなきゃいけなかったの?」というレベルだったりもする。でもそれは学生が悪いのではなく、そう思ってしまうほど社会が自分と近くない、隔てられた環境にいるからだと思います。環境を変える工夫で、この状況は解決できるのではと考えています。
素晴らしい大人の存在に気付けば、元気になれる
――「働く気があまり感じられない」という人もいたりしますか?
身の回りにいる大人の中に「こんな風に生きてみたい!」と思えるような人がいれば、自分の将来像として若者たちは夢を持てるでしょう。でも、「生きていくのはつまらない」と思っているとしか見えない大人ばかりが、周りにいるとしたら、若い人は「自分は、生きていくのがつまらないのはイヤだ」と感じてしまう。「イヤだ」という気持ちが表面に出ると、あたかも「働かない」「やる気がない」ように見えるのかもしれません。自分の将来を考えに考えている人ほど、世の中に対して大きな矛盾を感じ、だからやる気が出ないのではないか。私から見れば、それはものすごく真剣なことだと思います。

キャリナビの活動に参加する学生たちは、彼らが尊敬できる「そんな働き方はすてきだな、真似したいな」という人に出会い、そんな人も社会にたくさんいる事に気付いたとき、元気になれるんだと思います。私自身いろいろな仕事に打ち込んでいる方の話を聞き「日本もまだまだ捨てたもんじゃない」とよく感じます。考えに考えているにもかかわらず、周りにつまらなそうに働いている大人しかいない。これは悲劇です。そんなときはぜひ、キャリナビの情報を見て、活動に参加してほしいと思います。
「できること」から始めるためキャリナビへ
――平尾さんご自身は大学院卒業後、5カ月ほど大手IT企業の会社員をされたと聞いています。なぜ大手企業の社員から、キャリナビへ転じることになったのでしょうか。
入社直前の私は、大きな会社に入れば大きな夢を実現できると純粋に思っていました。でも入社して、見て感じたものは少し違った。夢の実現には長い時間がかかりそうだし、あまり大きなトライアンドエラーは許されなさそうに思えました。やはり学生のうちは会社ってどんなところかよく分からない。多くの人が大企業で働くことはすばらしいと信じているのだから、きっと楽しく夢を実現できるのだろうくらいの気持ちでした。

平尾氏 写真
私の場合内定は5月で、そこから就職まで約1年あった。1年あると人はかなり成長します。私は産官学の共同プロジェクトが多い大学、大学院でしたので、プロジェクトマネジメントなどとても貴重な体験・勉強をたくさんさせてもらいました。卒業した大学の前に郵便局があるのですが、近未来の郵便局を先取りしようと、その郵便局に導入するシステムなどを郵政省(当時)・松下電工の方と共同で開発したりしました。

いろいろなプロジェクトでの体験を通じて、「こんなことをしたい」が明確になっていった部分もあります。私の場合は、インターネットなどの技術を駆使し、青少年たちが学校現場にいながら、すてきな大人と接点を持てるような機会・環境を構築したいと思うようになっていった。それを大企業という舞台で実現するつもりでした。

ところが「自らプロジェクトを始め、動かせるようになるには10年はかかる」と言われた。明日、自分の身に何が起こっても悔いのない人生を送りたいと考えていたから、やりたいことを、そこまで悠長に待てないと感じました。さきほどの思いが実現できるかはわからない。でも、まずは「できること」から始めなくてはと思うようになりました。

一方で、ちょうど大学院を修了するころ、ETIC.代表理事の宮城治男君と、やはり今NPOで活動している河野良雄君が「一緒に新しい教育環境をつくろう」と私に声を掛けていました。そのときは就職が決まっていたので、まさか自分がやるとは思っていませんでしたが、入社後の「こんなはずじゃなかった」という気持ちもあり、「会社より、私が優先すべきはこっちだ」と、会社を辞めてキャリナビに専念することにしました。
「こうしたい」言わないと相手にしてもらえない米国
――就職活動以前にも、今の活動につながるような体験はあるのでしょうか。
中学生のころ、アメリカのサマーキャンプに参加しました。そこではたくさんの活動プログラムがあり、子ども相手でも「あなたはこの1週間で何ができるようになりたいか」としっかり聞いてくれた。「私はこんなことがしたい」と言うと、「ではこれをやった方がいい」と、大人が助言してくれる。

自分自身「こうしたい」を表現しないと、誰も協力はしてくれないし、相手にもしてくれなかった。それが日本に帰って来ると全く逆。「自分はこうしたい」と言うと、先生に「ダメ」と言われる。「ダメもなにも、私はこうしたい」と主張して衝突したこともありました。

学習塾にも行かされていたのですが、そこでは「勉強しろ、勉強すればいい大学に入れて、幸せになれる」などと言われるわけです。私は「うそだ」と思っていましたが。子どもの「こうしたい」に大人が助言する。言い換えると大人と子どもの自立と共生ですが、そんな関係を日本でも作りたいと思っています。
キャリナビを活用する授業案を開発
――中高生が働き方や生き方を考える上で、学校も大きな役目を果たすと思います。キャリナビを授業の教材として活用してもらう活動もあるそうですが、どんなものですか。
2000年に横浜のある私立中学・高校の先生と「将来を考えるうえで、コンピュータをどのように使うことができるのか」をテーマにした授業案を共同開発しました。キャリナビで興味のある職種の実際の仕事を調べたり、ナビゲーターに質問することでネット上のエチケットを学んだり。50分間の授業を8回実施するものです。授業案はテスト的に実施したものなので、今後全国で利用できるよう準備を進めています。

中学・高校生が実際に学校生活で会える大人というと、先生、保護者、それ以外はいったい何人か……という状態でしょう。また生徒や学生たちが「こんな仕事に興味がある、その仕事に就いてみたい」と言っても、職業によっては「先生もよく知らない」ということも起こり得る。そういう場面ではキャリナビが活用できると思います。
――今後どういった活動の展開を考えていますか。
今は東京しか拠点がありませんが、それ以外の地域にも活動拠点を広げたいと思っています。キャリナビメンバーの中には、地方へ取材に出掛け「都会以外にもすてきな仕事がいっぱいある」と知る人もいますが、都会で生まれ育った人は、なかなかそこが思いつかない。いろんな地域や学校単位で、働く大人に会って話を聞き、記事にまとめるような動きができれば、いろんな地域の仕事を知ることにつながると思います。
プロフィール 平尾 ゆかり(ひらお・ゆかり)

キャリナビ(NPO法人申請準備中)代表。1974年生まれ。99年慶応義塾大学大学院修士課程修了後(慶応SFC)、大手IT企業に入社。5カ月で退職後、ITベンチャー企業を経て、2000年6月から現職。
キャリナビ インターネットの「お仕事人」辞典
(2002年12月4日掲載)

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